5。一年以上働かなくてもいい金額ね〜!
2021年7月14日 誤字の修正
2025年2月21日 視点変更(物語に影響なし)
コンコン!
「入れ」
許可が降りた直後、女性と少女が部屋に入る。
「レイア様を連れてきました」
「ご苦労」
女性の報告に禿げた頭のごつい男が手にある手紙を睨んでいるまま彼女を労った。それを聞いた女性は無言で頭を下げた後、少女を、レイアを残して退室した。
(いかにも事務所ね)
とレイアは部屋を見渡した
テーブル二つ、一つは飲み物を置く用で三つの黒ソファーに囲まれているテーブル、もう一つは禿げ男の机。部屋にも幾つかの棚があって、色んな物が綺麗に並ばれている。
「どうぞお掛けください」
他には部屋の入口の近くに置かれている大盾と剣、そして杖があってそれらを見ているレイアに自分の席から立ち上がった禿げ男は席を勧めた。
(ドア付近の装備はこの二人の物でしょうね)
ソファーに腰を掛け、レイアは目の前に座っている男女を見て確信に近い推測をした。
実は禿げ男とレイア以外、この部屋に二人の男女がいるのだ。
男の方は青髪でそこそこ整った顔立ちとラフな格好をしている。女の方はウェイブが掛かった肩まで赤い髪と、こっちもまた整った顔をしていて、可愛い服装をしている。
(この二人が呼ばれる程の事ってこと?)
彼らはこの町で結構有名なコンビである。その二人がここにいるってことは今回の仕事はかなり大きな仕事だろうとレイアは考えていた。
コンコン!
「失礼します。お茶を持ってきました」
一体どんな仕事だとレイアは考えているとドアがノックされ、さっきレイアを案内した女性がサービングトロリーを押しながら部屋に入って、テーブルにカップを置いてお茶を淹れた後また退室した。
「急な呼び出しで申し訳ありませんが、皆様に依頼したい事があります」
ドアが閉められた直後、禿げ男が話を切り出した。
「ごめんなさいギルド長、この二人はまだわかるけどあたしが呼ばれている理由がわからないわ」
「それを含めて説明します。まずはこれをご覧ください」
禿げ男、ギルド長がさっき睨んでいた手紙を三人に見えるようにテーブルに置いた。
「これは……教会の印、ですよね?」
コンビの男の方がその手紙の右下にある左右に羽がついている剣という印を見て、ギルド長に確認の問いを出した。
かつて世界を救った英雄たちがいて、その英雄たちをサポートしているアルマという神を崇拝している教会があった。男が口に出した〝教会〟はその教会、アルマ教会の事だ。
「その通りです、ルーガン様。手紙の内容をまとめると北西にある幻想の森の最奥の調査です」
「む~り~外側ならまだいけるけど最奥はムリ~」
「ネアさんに同感ね。その森の最奥に辿れつける人はいないじゃない」
男、ルーガンのパートナーである女性、ネアはのびのびとした口調で声を上げるとレイアが同意した。
幻想の森。
この町の北西にある大森林とまではいかないけど、広い森だ。色んな生き物の巣、ドラゴンまでいると言われている危険な場所。そして最も厄介なのは森全体が魔法に覆われていて、森に入る者に様々な幻想を見せる。
過去に何人かの探検者がその森の最奥に行こうとしたけど、その幻想のせいで誰も辿り着けなかった。
「なぜ教会が探検者ギルドに森の調査を?」
探検者とは自由に旅に出て色んな所を調査して、時に戦いに赴く。そして探検者ギルドは探検者をサポートするための組織だ。その組織は私立であっても広く知られて国からの依頼もたまに来るのだ。
それでその組織の元に現在世界一の規模の教会から依頼が届いた。
「……ここからの話す事は他言無用でお願いします」
ルーガンの質問を答える前にギルド長はそう言いながら三人を見渡した後、話を続ける。
「数週間前に勇者召喚が行われました」
勇者召喚というのは別の世界から人を召喚する、神の使い、巫女しか使用できない魔法だ。
「勇者召喚、ですか? それはいい事ですね」
「ついに来たね~」
ルーガンとネアはギルド長の言葉を聞いて嬉しそうに言った。
ルーガンとネアの反応は当然だ。勇者がいれば魔族どもとの問題が解決できるからな。
ここ数年間、魔族とのいざこざは何度もあったからただの国民である彼らは当然もううんざりして早く解決して欲しい所だ。
しかしーー
「召喚は失敗しました……」
「「「……えっ!?」」」
深刻な顔でそう告げたギルド長に三人は驚きを隠せなかった。
「巫女様に何か?」
巫女しか使えない魔法が失敗ってことは巫女に何かあった可能性が高いとレイアは思った。
「わかりません。理由はまだ検討中だそうです。それと次の召喚に備えて触媒が必要だそうです」
「触媒、ね」
そんなの聞いたことないわ、とレイヤは心の中で教会を怪しむ。
「今の話と今回の依頼は何の繋がりが?」
「教会の幹部にしかしらないらしいですが、その触媒は幻想の森の最奥にあるらしいです」
(……ますます怪しくなって来たわね)
手紙をまた手にして目を通した後、ギルド長はある部分を示して書かれてある内容を言った。
あまりにも出来すぎる話だからレイアには嘘としか聞こえなかったけど。
「すみません、具体的に何を探すのですか?」
「……勇者の一人の遺品、聖剣フォレティアです」
「聖剣、ねぇ。聖剣がなぜ幻想の森にある、しかも最奥に?」
聖剣とは神々に捧げられた凄腕の鍛冶屋が作った剣の事だ。捧げられた剣がもし神々に認められたら聖なるオーラを宿るようになり、勇者にしか扱えなくなる。
そして勇者が役目を終えた後聖剣は次の勇者のために教会が保管するはずだ。
「わかりません、そこまでは手紙に書いてありませんからね」
レイアの質問にギルド長は申し訳なそうに答えた。
(そうなるわね。上の者しか知らない話だし)
胡散臭いけどね、とレイアはずっと疑いを抱えている。
「つまり森の最奥に行って聖剣を回収する、ってことですか?」
「そうです。ついでに森の様子を確認して頂けると助かります」
確認の意味で質問を出したルーガンに頷いた後、ギルド長はそう言ってレイアを見る。
「……なるほど、そういうことね」
「え~? どういう事なの、レイアちゃん?」
「最近森の中に何かいるのよ」
「そうです。森の中から大きな音が時々聞こえると報告を受けています」
それは知らないわね、とレイアは心の中で驚いた。
「丁度教会の依頼もあるので、ついでにやって頂けると助かります。これは教会からじゃなくギルドからの依頼です」
さすが探検者のギルド長、探検者がタダ働きをする訳がないと理解して依頼としてレイアたちに森の調査を頼んだ。
「……なるほど、そういう事ですね」
「えぇ!? ルーもわかるの~!?」
〝ルー〟とはネア専用のルーガンのあだ名だ。
「幻想の森の事だ、僕たち二人だけだと必ず幻想にやられるだろう」
「安全マージンを取ることに越したことありませんからね。今回は頼りにしていますよ、レイアさん」
「買い被りよ」
「いやいや、一〇歳でほとんどの精霊魔法をコントロールできたあなたの事ですよ」
精霊とは自然に存在する一種の生き物だ。気分屋で悪戯好きだけど仲良くなれたら力を貸してくれる。その力は〝精霊魔法〟、自然を操る力。
「だからそれが買い被りよ……彼らとは仲良くさせているだけよ」
レイアは小さい頃から精霊と共に過ごして育てられた少女だ。おかげで精霊と仲が良くて、一〇歳の時すでに精霊魔法をほとんど完璧に操った。
ちなみに彼女は現在一四歳だ。
「森での現象は精霊たちの仕業だという説もありますし、レイアさんは適任だと思います」
「〝精霊の仲間〟と呼ばれていますからね。レイアさんなら安心できます」
「……わかったわ。精霊たちに聞いてみる」
買い被りだと思ってもギルド長とルーガンの言い分は分からないでもないと思ったレイアは依頼を受ける事にした。
謙遜はするけど、彼女は自分の腕に自信があるのだ。自分より上手く精霊魔法を扱える人はこの町に居ないと彼女は自負している。
そしてそれは間違いではないとこの部屋にいる誰もが思っている。
「ちなみに調査隊はあたしたちだけ?」
「はい。一応森の中に移動しますので大人数だと何かあったら対応し辛いですよ」
「それもそうね」
すでに引退した身だけどギルド長も昔探検者、それもかなりの実力の方で有名だったのだ。そんな彼の意見だ、レイアたちが聞き入れないわけがない。それに理由もちゃんと理にかなっているからな。
「報酬の方は教会の依頼のほかに、ギルドからもこれくらい出します」
「「「お、おぉ」」」
当然依頼だから報酬はでる、ましては危険な場所に赴かせる仕事だから探検者を動かす見合ったの報酬がいるのだ。
それでギルドが出す報酬の額はーー
「一年以上働かなくてもいい金額ね〜!」
三人が驚愕する程だ。
「そ、それで教会からは?」
さっき発表されたのはあくまでギルドが出す方だ。ルーガンは恐る恐るとそうギルド長に聞いてみるとーー
「……さっきの四倍です」
「「「おぉー!!!」」」
三人のやる気が灯った。
ネア「ルー! あれ程のお金があったら何に使う〜?」
ルーガン「え? それは……ごにょごにょ」
ネア「なに〜? 聞こえないよ〜?」
レイア「……あたし邪魔かしら?」
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