48。いつも他人のためなのよ
2025年6月16日 視点変更(物語に影響なし)
目を覚ましたディアを軽く尋問した後、ルナは自分の決意を伝える事に決めた。
「幻想の森にいた大きな影の正体知っている?」
前振りとしてルナは質問を出した。
「ん? いや、知らない。誰もあの影を目撃しなかった」
「そう? 情報を集めたのね?」
「はい、生き残った森の周辺にあった町と村に行ったが、あの影の情報はなかった」
まあ、それは当然だ。あの影、りゅうじぃは森から出なかったからな。
「ディア達が行った後、影は私の所に来たの。何だと思う?」
「……ラッシュボア? いや、あの大きさは……アースドラゴン?」
「なんで最初に思い浮かんだのはラッシュボアなの?」
あの突進してくるイノシシはそこまで大きくなれないでしょう? とルナは呆れて更に続ける。
「ライトドラゴンよ」
「……は?」
流石に伝説のドラゴンだったなんてディアは思いもしなかった。
「ふふ、なにその顔?」
ポカーンとしている普段シャキッとしている自分の妹にルナは笑い出した。
「ま、待って! ライトドラゴン!? 伝説の!?」
「そうよ? 驚くでしょう?」
「いやいや、そんなレベルじゃないよ!? え? なに? どうしてルナねぇ生きているの?」
コロコロ表情を忙しく変えているディアである。
まあ仕方がないのだ。
普通ライトドラゴンに襲われたらいくら魔法に優れたルナであっても確実に死ぬ。何せ世界最強のドラゴンの一種だからな。
ライトドラゴンの怒りを買ってしまった町と村が滅んだケースは決して少なくはない。
「分からない……助けられたらしいのよ」
何故〝らしい〟なんだって? そりゃあフェルに助けられた時彼女は既に気を失って倒れている寸前だったからだ。
「……フェルに?」
「えぇ」
「まさかライトドラゴンを……?」
まあ、常識だとありえない事だけど、こうしてルナが生きているからライトドラゴンはフェルに倒されたと思っても不思議ではない。
「いいえ、彼とそのライトドラゴンは知り合いでね」
詳しい話は聞かされていないけど、フェルとりゅうじぃは昔からの知り合いで、それもかなり仲がよさそうだとルナは何となく分かった。
「え? 知り合い?」
「ええ。ライトドラゴンは人の言葉を理解できる種族だから、知り合えるのも当然といえば当然だけどーー」
「ライトドラゴンだよ!? 昔の勇者と共に魔族を追い払った、伝説ドラゴンの一種だよ!?」
(ですよね……フェル、何処がただの旅人ですか?)
「ル、ルナねぇ?」
頭を抑えているルナをディアは不思議そうに見ている。
「んん! ……とにかくその後も色々お世話になってしまって、戦死の事知ることになったのよ」
今まで仕えてきた国があっさりと自分を戦死認定した事にすごくショックを受けたとルナは今も覚えている。
「幻想の森にあった剣を抜いたのは間違いだったのよ……」
「間違い? 世界のためにやったのに間違い? 本当にそう思ってるの?」
ディアはまっすぐルナの目を見ている。
彼女の中に自分たちがやっていた事は間違いではなく、世界のためにやっていた正しい事だ。
そんな彼女にルナは突然質問を述べた。
「……フェルさんの事、どう思う?」
「……ずっと悪い人だと思ってるけどーー」
「今は分からない、でしょう? 私も最初はそうよ」
でもね、とルナは言い加えて続ける。
「よく考えて、ディア。フェルの行動とその理由を」
「……?」
首を傾げたディアは言われた通り考え始めて、しばらく待っても答えが来ないからルナは自分が思い付いたフェルの行動の理由を言い出す。
「他人よ。彼の行動はいつも他人のためなのよ」
そう、他人だ。
例えば幻想の森の事件。森にある剣が抜けられたら中に潜んでいる魔物たちは必ず暴れだして周縁に被害が出るとフェルは確かにルナたちに警告して、邪魔した。しかしその行動はレヴァスタ王国の邪魔をするためではなく森の周縁の町、村に住んでいる人々のためだと捉えられるだろう?
そもそもレヴァスタ王国の邪魔をする理由はフェルにはない、ルナには思い付けないのだ。
それにアンナの話によるとロダール女王国の民はフェルの事を勇者だと称える。その理由は知らない、聞かされていないけど火がない所に煙は立たない、つまりそう思わせる理由があるに違いないとルナは思っている。
他の例は今回のケースだ。
ディアを威圧して気絶させるほど魔力を放ったフェル、その理由はルナだった。
彼はフィリーたちをルーゼンにまで転移する前に、朝宿に急に戻ってディンゼール商会に行くな、と言って女性陣に釘を刺したのだ。
最初は一体どういう意味だと疑問を覚えたルナはやっとその理由を理解した。
(もう見捨てられるかもしれませんけどね)
転移する前のフェルの態度を思い出して、ルナは弱々しく小さな笑みを浮かべる。
「……私たち、彼を誤解していたのかな?」
ディアは俯いてそう呟いた。
「そうですね……そうかもしれないね」
善人を殺そうとしいた自分はどうかしているね、とルナは更に加えた。
しかし今となってそれはどうでも良くて、これから彼のことを知ればいいと彼女は直ぐに思い直した。
だから彼女はーー
「フェルに付いて支えたい、ずっと、ね」
と、運命の選択をした。
「ル、ルナねぇ、それってーー」
「ふふ、さてどうでしょうね?」
驚愕しているディアにルナはちょっと赤面で笑みを見せた。
ディア「あいつに何かされた、ルナねぇ!?」
ルナ「え? うーん、賄賂? いいえ、食賂?」
ディア「え? なにそれ?」
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