47。もう戻らない、戻れない
2025年6月14日 視点変更(物語に影響なし)
「フェ、フェルさーー」
「フィリーも残れ」
「あ、はい」
フェルはこの後彼女に用事があるから彼女にも残って貰った。
「ディン、他の連中は頼んだぞ?」
「任せてっす」
力強く頷いたディンはエンジュたちに続いて会館を出る。
「フィリーは奥のベンチで休んでいけ」
「は、はい……」
フェルの雰囲気がちょっと変わったと感じたフィリーはディアを心配しそうな眼差しで彼女をしばらく見つめた後、指示通りにした。
「そんなに心配しなくていいのに……」
「まったくだ。お前ごとき心配はいらん」
わざとらしく挑発の言葉を述べたディアにフェルはただ溜め息を吐いて話を切り出す。
「まあ、お前に確認したいことがある。返事次第、以後のお前の扱いを決める」
「どういうーー」
「フィリーたちをここまで護衛したことに感謝する、がーー」
間を置いて、フェルは少し言葉に圧をかけて言葉を続ける。
「そろそろお前の目的を言え」
「……」
指名手配されている身であるフェルは慎重になっても仕方がない、ましてや相手はかつて自分の敵で自分を指名手配にした国の関係者だ。
「ルナのことはもう説明したはず、それでもお前はここまでついてきた。その目的は何だ?」
「……」
ディアはフェルの話を鵜呑みにしなかったからこうしてここにいる。
「言うつもりはない、か……」
フェルの事を信用しない彼女は沈黙を保つ事にして、答えて貰えないと分かったフェルは小さく呟いた直後ーー
キーン!
激しい眩暈がしてディアは思わず片手で頭を抑えた!
「な、にを、した……っ!?」
「質問してるのはこっちだ」
一瞬で距離を縮めたフェルはさあ、答えろ! と言わんばかりに彼女を睨む。
「おっと、大人しく答えてもらうぞ?」
(な、い、息が……!)
急に目の前に現れた彼を斬るつもりでディアは魔法袋から剣を取り出そうとしたけど、フェルはさらに圧を掛けて彼女は息も碌に出来なくなってしまった。
そんな彼女を見て、フェルは一歩下がって圧を緩めた。
「はあ……はあ……」
「俺を捕まえに来たか? レヴァスタ王国の命令で?」
「だ、誰がお前なんかをーー」
「答えろ」
「ーーっ!」
さっきから訊いても全然答えてくれない事に、流石に頭に来たフェルは本気で彼女を睨む。
(こ、怖い! こわいこわいこわいこわいこわいこわーー)
まるで蛇に睨まれている蛙のように動けなくなったディアは必死に恐怖と戦っているその時だった!
「フェ、フェル……!」
遠くから彼女の耳に聞き慣れた声が入って、そこで彼女は意識を手放してしまった!
「来るなと言ったはずだが?」
商会のメインビルへ接続するドア、そこにはルナがいる。
「はあ、はあ……あなたが、とんでもない魔力を、放ちましたから」
魔力に敏感な彼女だからこそフェルがさっき放った魔力はどれほどの規模なのか分かる。
それを感じて心配になった彼女は駆けつけたのだ。
「……その人、ディア、ですか?」
「おっと、来るなよ? こいつの真意はまだ確認してない」
倒れているディアに近付こうとしているルナを止めると、彼女は一瞬驚いてフェルを睨みつける。
「……真意? どいう意味ですか?」
「俺を始末しに来たのか、お前を始末しに来たのか、あるいは他の目的でーー」
「彼女はそんなことしません!」
と、ルナは強く断言した!
「いや、そんなのまだーー」
「なら私が保証します! 彼女はそんな事しません!」
「おい、ルナ! 冷静にーー」
「私には分かっています!」
「……」
ルナとディアは小さい頃からずっと一緒にいるからルナはそう言えるけど、その事実を知らないフェルは一体その自信の根拠は何だ? と思ってしまう。
「……彼女を私に預かりませんか?」
真意はまだ判明していないディアをルナの安全の為に彼女に会わせたくなかった。
それはフェルの行動の理由だ。
「……好きにしろ」
しかしさっきの様子から何を言っても無駄だと悟った彼はそう言い残して、会館の奥のベンチに同じくフェルの魔力を耐えきれず気を失ってしまったフィリーを抱き上げて、テレポートした。
「……ありがとうございます」
最後にフェルの目の端には頭を下げているルナの姿が入った。
▽
「う、うぅ……?」
目を開けると白い天井はディアの視界に入った。
(最近多いな、こんな状況……)
多いと言ってもまだ二回だけどな。
「気が付きましたか? 気分は?」
ぼんやりと天井を眺めなが考え事しているディアは右方から話しかけられた。
「……ルナ、さん?」
その声の方にはルナがいた。
「生きて、いる?」
「ええ、生きていますよ」
おかしいな質問ですね、と苦笑しながらルナは加えた。
「ルナ、ねぇ……ルナねぇ!」
「……ふふ、泣かないで、もう子供じゃないでしょう?」
一瞬これは夢だと思っていたディアは固着になってしばらくルナの顔を見ていると、勢いよく上半身を起こしてルナを抱いた。
孤児のディアにとって血が繋がらなくてもルナは自分の姉だ。小さい頃に自分を守って、叱って、笑わせて、頭を撫でてくれて、色んな事を教えた大好きな姉だ。
だからフェルからの情報の中に姉は死んだと聞かされた時ディアは凄く悲しかった。
んで、その死んだはずの姉が今目の前にいるのだ、ディアは自分を抑えられるはずがない。
「……ディア、正直に教えてほしい。どうしてここに?」
しばらくルナは優しくディアの背中を摩ると彼女は離れて話を切り出した。
「クス、ルナねぇを探していた」
「私を? レヴァスタ王国に戦死と認定された私を? どうして?」
「幻想の森にルナねぇの死体がなかったから……」
「なるほど……それだけ?」
「……うん」
「……ふぅ、よかった」
ディアの目を真っ直ぐ見ているルナはやがて胸を撫でおろした。
「ル、ルナねぇ?」
「ごめんね、どうしても確認したかったの」
何が? という愚問をする程ディアは鈍くない。
気を失った前にも同じ事をやろうとしている人が居たからな。
「ルナねぇ……雰囲気、変わったね」
「……ふふ、そう?」
そう指摘されるとルナは一瞬驚いて、次第に笑みを浮かべる。
「なんかこう……宮廷魔術師になる前のルナねぇって感じ?」
宮廷魔術師だったのルナは言葉使い、振る舞い、いつもシャキッとしていた。
それに比べて今の彼女の喋り方、仕草、そして精神の方にもディアの目には余裕があると見える。
「もう宮廷魔術師じゃないからね」
「……戦死の事、か?」
その質問にルナは頷いた。
「レヴァスタ王国に……戻らないの?」
「ええ、もう戻らない、戻れない」
当然だ。
戦死と認定された彼女はもし帰ったら国の都合の理由で捕まって、殺されるかもしれまい。
「私ね、フェルのところにお世話になっているの」
「……あいつ、嘘ついたな!」
「嘘?」
「ルナねぇの行方しらないと言ったんだ」
あー、それは嘘じゃない、同時に事実でもないな。
訊かれた時フェルは確かにルナはどこにいるか正確の位置しらなかったのだ。
「と、とにかくこれからも彼の所にお世話になるつもりなの」
その行動の理由は自分にあるとなんとなくわかったルナはこれ以上その件について何も言わず、話を進めた。
「……え? ど、どういう意味?」
姉の言葉にディアは困惑している。
「うーん、そうねーー」
そんな彼女にどう説明すればいいか考えていた後、ルナは語り始めた。
ディア「あいつ嘘をついたな!」
ルナ「ま、まあまあ、落ち着いて」
ディア「……ルナねぇがそういうなら……命拾いしたな、あの男」
ルナ「は、ははは……」
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