45。あ、あにき~
2025年6月9日 視点変更(物語に影響なし)
「ふぅ……これで大丈夫だ。あとはちゃんと食事を取れよ」
「はい、ありがとうございました」
怪我が完全に治った青年は礼を言って、立ち去った。
「さっきの人で最後だな?」
「……はい、お疲れ様でした」
範囲を見渡した後フィリーは頷いた。
ここは先程盗賊団と戦っていた場所で、フェルは避難者たちが立てたテントに居て怪我している避難者たちを診ていた。
「……ここでキャンプした方がいいか」
「では、みんなにそう伝えますね」
「ああ、頼む」
回復したばかりの避難者たちを無理させたくないから、フェルはそう判断してフィリーにこの事を避難者たちに伝えるよう、お願いした。
とまあ、避難者たちに現在何もして上げられる事はないフェルは別の問題に悩ませている。
「……シルフ」
「にゃにぃ……?」
フェルの呼び声に答えて、ソフィマと同じくらいの小さな女の子は袖なしの白緑ドレス姿で空中に現れた。
「あ、ごめん、寝てたのか?」
目をこすっていながら女の子、シルフは頷いた。
「ちょっとおいで」
ちょいちょいとフェルは彼女を手まねきすると、彼女はふよふよと飛んできた。
「頼みたい事あるんだが、いいかな?」
「……」
彼女のツインテールを結ぶ赤いリボンを直して、翠色の髪を優しく撫でながらフェルは訊いてみたーー
「すぅー」
「だめだ……浮いてるまま寝てる!」
ーーけど当のシルフは寝落ちてしまった!
「……ノーム、いるか?」
「呼んだか? お、シルフちゃんじゃないか」
今度は一瞬フェルの目の前に黄色い光がして、一人の少年は現れた。
「あぁ、あそこにいる人たちを転移させたいけど、ちょっと魔力を貸してくれないか?」
これはさっき言っていたフェルの悩みだ。
数十人いる盗賊たちを一斉に転移したのはどれくらい魔力がいるか彼には分からないし、この人数で転移した経験もない。
「いいけど、シルフちゃんどうしたんだ?」
「頭を撫でてるうちに寝落ちたようだ……」
「またぁ!?」
そう、〝また〟なのだ。
シルフは風の大精霊だけど、大精霊の中で最も幼い大精霊だ。普段は他の大精霊、特に女性大精霊たちにとても可愛がられている。
側から見たらオモチャされていると勘違いするくらいだ。
例えば今彼女が着ている明らかに長すぎるドレス。絶対に他の大精霊に着せられたもののだろう……。
そんな彼女が疲れていないわけがない。
「兄貴からも他の連中に言ってやれよ、シルフちゃんをいじめるなって』
「いや、いじめじゃないと思うぞ? ていうかお前が言ったらどうだ?」
「むりむりむりー!」
両手を前に突き首を左右にブンブンと振っているノームの顔色はあまりよくない。
「……」
「な、なんだ? 言っておくけど僕の趣味じゃないからな!?」
「いいじゃねえかそのままで。似合ってるぞ?」
「あ、あにき〜」
褒められたノームは泣き顔になってフェルにしがみついてきた……。
彼はシルフの次に来る最年少の大精霊で、濃い褐色ショットパンツと白いTシャツの上に袖なし濃い褐色パーカーを着ている。
土の大精霊にはぴったりだ。
しかしフェルは知っている、ノームが着ている服装は他の大精霊がコーディネートしたという事を。
シルフと一緒にいる事が多いせいで彼も他の女性精霊からよくおもちゃにされるのだ。
「へいへい、泣くなって、後で言ってやるからとりあえず魔力を貸してくれ」
「う、うん……や、約束だぞ!?」
「あ、ああ」
上目遣いしてフェルを見上げているノームの姿は人によって破格だろうな。
しかしフェルはちょっとたじろいだ理由はそこじゃない。
彼自身も大精霊のお姉様たちを説得出来る自信はないからだ。聞くか聞かないかは彼女たち次第なのに、彼は約束してしまった。
まあ、それはともかく!
フェルにしがみついているままノームは目を閉じると彼の全身は濃黄色の光、魔力に包まれて、その魔力はゆっくりとフェルに流れる。
「よし、もういいぞ」
「もういいか?」
ポンとフェルはノームの頭に手を置くと彼は目を開いて離れた。
「ああ、ありがとう。シルフを連れて精霊界に帰れよ?」
「えぇ!? お姉さんたちにまたいじめられるよ……」
「だからいじめじゃないって言っただろう?」
「で、でも〜」
「あああああ、泣くなって! じゃあ少し待て! 一緒に行くから!」
「ほ、本当か!?」
勢いよく顔を上げたノームは嬉しそうにフェルを見上げる!
「あ、ああ、こいつらをどっかの衛兵に付け渡したうあと、な」
必死さを感じさせるノームの反応に一体何されたんだ? とフェルは後で会いに行く大精霊のお姉様たちに内心で恐怖を感じた。
「うん! やっと解放される〜!」
「いや、踊ってもいいが説得出来なかったら知らんからな?」
と言いながらフェルは盗賊たちを浮かせてノームとシルフを連れてルーゼンに転移した。
▽
(何処へ消えたのだ?)
ディアは今フェルを探してキャンプ場全体歩き回っている。
(はあ……また何も訊けなかーー)
「あぁ〜ひどい目にあった……」
諦めて彼女はちょっとキャンプ場の外へ移動しようとしている丁度その時、トボトボと肩を落としながらキャンプの中心を目指して歩いているフェルの姿が彼女の目に入った。
「……どこへ行った?」
「ん? ディアか……ち、面倒だな……」
「人の顔を見た瞬間舌打ちとはなぁ、礼儀とは難しい物か?」
礼儀になってないよな!
「う、うるせえなぁ……こっちは疲れてるんだ、説教は後にしてくれよ」
「待て、お前に訊きたいことがある」
「んだよ?」
いやそうな顔で足を止めたフェルはディアを見る。
「ルナさんはどこだ?」
「知らん」
「そう、か……そうだよな、知るわけないか……」
これに関してフェルは嘘を言っていない。
確かにルナは今彼と共に行動していて、現在ルーゼンにいるけど、ルーゼンのどこかにいるかは彼は知らない。
嘘でも事実でもない、そういう微妙なラインだ。
「……ていうかなんで俺に訊くんだよ? レヴァスタ王国は彼女を戦死にしたんじゃなかったのか?」
「は?」
「なんだ、知らんのか」
そう、ディアは知らないのだ。
レヴァスタ王国がその発表をしていた時、ディアは既にフィリーたちと行動しているからな。
情報収集に余裕がない彼女には今のフェルが言っている事知る訳がない。
「ルナは幻想の森での事件で命を落とした、そして原因は俺、そうらしいぞ」
「な、何っ!? お前が原因!? どいう事だ!?」
「それはこっちの台詞だ! こっちは指名手配されてるんだぞ!?」
不機嫌な顔でそう言った後、フェルは再び歩き出す。
「どういう事だ……?」
ルナは戦死、その原因は今去っていくフェル。
(レヴァスタ王国は何を成し遂げるつもりだ?)
事実を知っているディアだからこそ疑問を覚えるのだ。
自分たちは無理矢理聖剣フォレティアを持ち去ろうとしていて、それを止めようとしている人を追い詰めて殺そうとしていた。
そして無事に聖剣を持ち帰って、その代償は追い詰めていた人の警告通り森が消滅され、色んなモンスターが暴れ出して自分の姉はそれを食い止めて死んだ。
んで、それらの出来事の原因は自分たちの過ちを阻止しようとしていた人、フェル? 誰もが聞いたら可笑しいな話だ。
「待て、フェル! まだ質問がーー」
立ち止まって色んな疑問を抱いているディアはそれらをはっきりする為にフェルの後を追った。
ノーム「さあ、あにき! 言ってください!」
大精霊お姉様たち「「「あら、フェル様だ!」」」
フェル「あ、やばい……」
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