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勇者? 人違いです  作者: Adhen
44/128

44。年寄りに、もう少し優しくしてほしい

2021年9月25日 マイナー編集

2025年6月7日 視点変更(物語に影響なし)


 アースウォールの瓦礫と盗賊頭が放った火の波はディアたちを呑み込んだ!


「な、何が……?」


「助かった、のですか?」


 しかし彼らは未だ生きていて、自分たちの周囲に見える半透明な青い壁を見て戸惑っている。




「ふぅ……間に合ったようだな」




 そして呆気に取られている彼らの陣形の中心から安堵の台詞が聞え、全員は声の方へ振り向くと陣形の前、ディアたちに近付いて歩いている彼の姿があった。


「おっそおおおぉぉぉおいいよおおぉ、フェルウウゥゥ!」


「ぐうえぇ! まああぁぁてえぇ!」


 まるで来るのが分かったかのようにネアはすぐ男の、フェルの胸ぐらを掴んで揺さぶる!




 ビキッ!




「「あ」」


 まだ止んでいない襲撃のせいでフェルが張った壁にひびが入って、二人はピタっ! と止まって間抜けな表情を浮かべた。


「ちょ! 何とかしてよ!!!」


「わあぁぁかったからあぁゆうぅさああぁぶるなぁあああ!」


 バッ! とフェルを放したネアは亀裂に指す。


「ほら! 早く!」


「あ〜気持ち悪っ……うぶっ……」


 口元を左手で押さえていながら、フェルは右手を前に突き、拳を開く。その瞬間亀裂が消えて壁は元通りになった。


「……どうしてお前はーー」


「フェルさん!」


「うお!? フィリーか……もう大丈夫だ」


 なぜここにいるとディアが訊ける前に、フィリーは走って彼を抱きついた!


「あ、あの、フィリー? そろそろ……いいかな?」


 しばらくフィリーに抱かれたフェルは気まずそうに言った。


「……え? あ、はい! すすすすみません!」


 自分の行動に気付いて、フィリーは勢いよく離れて赤面になった。


「いいんだよ。さて! 今のネアは使えないからーー」


「ちょっと! どういう意味よ!?」


「いや、お前、枯渇状態じゃないか……」


「むぅ……」


「お前ら手伝ってくれよ? 魔剣使いは無力化するから、その瞬間それぞれ左右からかかれ」


 事実に突き出されたネアは反論出来ずにいて黙ってしまった事にフェルは何も構わずルーガンたちに指示しながら半透明な壁の方へ歩く。


「何故他の盗賊も同時に無力化しないのだ?」


 もっともの疑問だ。


「そうしたいのは山々だが、そうすると死ぬぞ、あいつら?」


 それでもいいのか? とフェルは避難者たちに振り向いて視線を巡らせる。


 避難者の中にまだ子供がいるのだ。加減はまだ甘い自分がやったら盗賊たちを殺してしまうだろうと分かったフェルはそんなグロい事を子供たちに見せたくない。


「……分かった、お前の言う通りにしよう」


 彼の行動の理由を理解したディアは自分の剣を握り直した。


「え? 僕もですか?」


 一方ルーガンは自分も作戦に含まれている事に驚いた。


「何言ってんだ? 当たり前だろう? 行くぞ!」


「ちょっ! 待ってくーー」




 パッチン!




「ぎゃあああ!!!」


 待ったを掛けようとしているルーガンを無視してフェルは左手で指パッチンをした直後、半透明の壁は火の波と共に消えて、同時に遠くから悲鳴が聞こえた。


「な、何をした!?」


「アースウォール!」


 さらにディアを無視して彼は盗賊を囲む高いの土壁を作って、走り出す!


「ちょ、入れないだろう!?」


「跳べ!」


 壁に入り口がないから中に入る手段はないとやや遅れてフェルの後ろに走っているディアは思ったけど、彼はさも当たり前の事を言ったかのように答えた。


「そんなの出来るわけなーーえええぇぇ!?」


 まあ、普通はありえないだろうけど、フェルとルーガンは躊躇いなく跳躍して壁を飛び越えている姿を見てディアは驚愕した!


「ちっ! 跳べばいいだろう!?」


 もはや言い訳は出来ない彼女は自分の足に力を入れて、壁を飛び越えるように全力で跳躍した。その瞬間足元から何かが押し上げるような感覚を感じて、彼女はさっき二人と同じように跳んで壁を越えた!



 アースウォールの内側に入った彼らはその後しばらく盗賊たちと交戦して、何とか無力化できた。







「つ、はあ……つかれ、だあああぁぁぁ!」


「だ、だらし、はあ……ない、な……」


 フェルは地面に身を投げて大文字になった。


「お前も、くたくたじゃ、ねぇか!」


「地面に、はあ……身を放りだして、いないぞ!」


 ディアはそう反論したけど、無意味な張り合いである。


「ふ、二人とも……ゲホッ……ちょっ、と……」


 一番辛いのはルーガンの方だ、地面に倒れている。


「はあぁ……た、立て、ルーガン……」


「む、むり、です……ゲホゲホ!」


「ふぅ……意地でも、立て! 魔法を、解くから……かっこうをつけないとなぁ……」


「ま、待ってくだ、はあ……さい……」


「……」


「……な、なんだ?」


 ディアにじーっと見られているフェルは訊いた。


「いや何も? くだらない意地張っているなぁと思っただけだ」


「あるじゃねぇか……」


「いいからさっさと立て」


 盗賊たちを捕縛する作業はまだ残っているんだぞ? とディアは更に続けた。


「すぅーはあ……とりあえず魔法を解くぞ」


 深呼吸して立ち上がったフェルはそう言うと彼らを囲んでいる土壁は大地に沈み始めた。


「……おい、ルーガン、格好悪いぞ」


「う、うぅ……」


「何を言っている? お前もさっきまで同じ有様じゃないか」


「……ほら、これを使って奴ら縛れ」


「お前も手伝え」


 へいへい、とさっきから自分の言っている事にツッコんでいるディアと共にフェルは倒れている盗賊たちを縛り上げた。


「ルーガン、格好悪いぞ?」


「うぅ……年寄りに、もう少しい優しくしてほしい、ゲホゲホ……です」


「何が年寄りだ、まだ二〇後半じゃないか……」



 ……本当、何が年寄りだ。







「ルー、大丈夫?」


「な、なんとか」


 みんなの所に戻ったフェルたちはネアに出迎えられた。


「ふぅ、なに嫁の前で恰好をつけてるんだ?」


「ちょ、フェルさん!?」


 強がっているルーガンにフェルはニヤニヤしながらからかっている。


「照れるな照れるな。ほらネア! さっさとこいつを連れていけ」


「あ、ちょっと、フェルさん!?」


 ルーガンをネアに押し付けて、フェル他の所へ歩き出した。


「……」


 スタスタ、と足音はフェルの耳に入った。


 当たり前だ、歩いているから。


「……」


「……」


 しかし自分以外の足音がピッタリと自分の背後から聞こえているのは普通じゃない。


 だから彼は歩みを止めた。


「……なんで付いてくるんだよ?」


 そしていやそうに背後にいるディアに振り返った。


「お前に訊きたいことがある」


「……後にしろ。今は避難者の方が先だ」



 そう言って、フェルは陣形の中心へ進んだ。

ネア「ルー、本当にだいじょうぶ〜?」

ルーガン「う、うぅ、大丈夫、と思う」

ネア「ほら〜、肩を貸してあげる〜」

ルーガン「あ、ありがとう」

フェル「……桃色空気を出しやがって……」

ディア「……お前、格好悪いぞ」


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