42。すみません、うちの嫁が……
2025年6月7日 視点変更(物語に影響なし)
(あれは……?)
時はディアがミシーから旅立ってから約一週間後の夜に遡る。次のキャンプ場を探している彼女は前方に明かりが見えて、歩みを止めた。
(焚き火、か?)
焚き火は野宿の時に光源、熱源、猛獣避けと同時に人がいてここはキャンプ出来るよ、と他の旅人に知らせるために起こすのだ。
野外の暗闇の中でキャンプ場を探しているディアにとってこの発見はデカい。
「誰!?」
意を決した彼女はキャンプ場に近付くと誰何された!
「待って! 害を加えるつもりはない! ここでキャンプをしたいだけだ!」
両手を上げているままディアはキャンプ場へ近付く。
「え? 総ギルド長!?」
やがて充分に近付いたディアの姿ははっきりになった途端、杖を構えている赤髪女性は驚愕した。
「ん? お前は確か……ネア?」
四年前、ディアはフェルを調査する為に教会の依頼を受けた探検者たちから証言を取って、その時ネアの証言がもっとも参考になったからディアは彼女の事を覚えている。
余談だけど、あの時唯一証言しなかった、応じなかった探検者は一名、レイアだけだった。
「こっちはなんもないぞ、ネーー総ギルド長!?」
ネアの背後から青髪男性は近付いて、ディアの姿を見るとネアとまったく同じ反応をした。
「……どうして二人はここに? それと、私はもう総ギルド長ではない」
「ど、どういう意味ですか?」
おずおずと男の方、ルーガンは訊いた。
「話すと長くなりそうだから、とりあえずキャンプの準備させてくれないか?」
「あ、ああ、もちろん構いませんよ。こちらへどうぞ」
ディアの事知っているから、キャンプ場に連れても大丈夫だろうと判断したルーガンはネアと二人で彼女をキャンプ場の開けた所に案内する事にした。
キャンプ場に近付けば近付く程テントの数が増えて、キャンプしている人たちはディアを警戒して彼女を見ている。
「ディア!?」
「ーーフィリー!?」
やがて中央に着くとディアを呼ぶ声がして、彼女はその方向へ視線をやるとそこには友人、フィリーの姿があって、咄嗟に彼女に駆けつけて抱きしめた。
「無事でよかった……」
「ディア……どうしてここに?」
「あ、あぁ、実はーー」
訊かれて、ディアはミシーでの出来事、現状、そしてフェルを探している事を伝えた。
「そう、か……やっぱりフェルさんの言う通りになったのね……」
それらを聞いたフィリーは呟いて、彼女の呟きにフェルの名前が出たことにディアはやはり、とフィリーに情報を流すのは彼だったと確信した。
「フィリーさんから聞きましたが、まさか本当とは……」
ルーガンは信じられないと言わんばかりにそう呟いた。
「まさかここでフェルの名前が出るとはね~」
「二人ともフェルさんの事を知ってますか?」
ルーガンとネアは頷いた。
当然だ、四年前ちょっと関わったからな。
「でもディア、どうしてフェルさんを探してるの?」
「あいつに訊きたい事があるんだ……」
フェルの目的、正体、そしてルナについて、ディアの中に訊きたい事、確認したい事は沢山あるのだ。
「……あたしたちはフェルさんの助言に従い、ルーゼンを目指してる」
しばらく黙っていたフィリーは突然話しを切り出した。
「そこでフェルさんに会えるかも知れない、どう?」
「どうってーー」
「護衛の代わりに、彼と話せるようなんとかしてみるよ」
「……いいだろう。元々あんたを安全な所まで護衛するつもりだ」
相変わらず情報の活かし方が上手い友人に、ディアは思わず笑みを浮かべた。
本当にフェルに会わせられるかどうか分からないけど、それでも今困っているフィリーとここにいる人たちを見捨てる事はディアには出来ない。
それにフェルの所は安全かどうかも分からないから彼女は友人の話に乗る事にした。
「よーし、これで護衛が増えましたね、ルーガンさん、ネアさん!」
「そうですね、流石にこの人数は僕とネアだけではきついです……」
そのルーガンの言葉にディアは初めて周囲に人が沢山いる事に気付いた。
「四ーーいや、五〇人くらいか? 動物までって……」
避難しているのに動物まで連れて来ている……中々余裕があるミシーの住民たちである。
「そういえばあんた達は何故こんな所に?」
さっきルーガンの言葉から察した方はいると思うけど、ミシーが魔物の襲撃を受けている時、ルーガンたちはいなかったのだ。
彼らは依頼からミシーへ帰還している途中、避難しているフィリーたちを見て事情を聞かされた後、フィリーからの護衛依頼を受ける事にした。
「この人数と状況です、盗賊に襲われるでしょう」
ミシーが魔物に滅ぼされた事は既に知れ渡った事だから当然盗賊たちの耳にももう入ったのだ。彼らにとってミシーから逃げている者たちは絶好の獲物だから、どこかに待ち伏せをしている可能性は高いとルーガンは思っている。
「ミシーにいる知人の事は心配ですが、彼女なら精霊の助けで一早く危機を感知できるでしょう」
「精霊……? もしかしてその知人、レイアという女性ですか?」
「うん? レイアちゃん知ってるの~?」
「はい、友人の一人、気が強い女ですよ」
レイアを思い出しているフィリーは少し笑みを浮かべた。
「まあ、彼女なら心配はいらないと思いますよ」
確信に近いフィリーの言葉にネアは首を傾げて、そんな彼女を見たフィリーは更に続ける。
「ミシーが魔物の襲撃を受ける前に、彼女はフェルさんと一緒に森の周縁にある市町村を回っていくと言ったから、たぶん今はフェルさんと一緒に行動してますね」
「「……」」
説明を受けたルーガンとネアはしばらくお互いを見つめ合っているとーー
「はぁ~……てことは~フィリーと一緒にルーゼンに行くと~彼女に会えるかも知れないね~」
やがてネアは溜息を吐いて、彼女の側にいるルーガンはうんうんと頷いた。
(どういうことだ?)
ディアたちの手によって負傷していたフェルは森の周縁の市町村に回っていた事実にディアは内心で驚いて、彼は悪人か善人か分からなくなってきた。
(どうしてレヴァスタ王国は彼を排除したいんだ?)
そして彼女の中にそんな疑問が生まれた。
「よし! 話は大体終わりましたし、あたしはもう寝ますね。見張りよろしくお願いしまーす」
「あたしも寝る~! 最初の見張りはーー」
「お前は残れ」
「ーーえぇ~!?」
当たり前のようにフィリーの後を付いていこうとしているネアを捕まえて、ルーガンは言い続ける。
「〝えぇ~〟じゃない! 護衛は一人増えたから、明日の陣形を考えないといけないんだよ!」
「むう~わかったよ~」
ルーガンに説得されて頬を膨らませていながらネアは再び座った。
「すみません、うちの嫁が……」
「あ、あぁ、構わん。陣形の事はあんた達に任せる、私より現状は詳しいからな」
最初は恋人かと思ったけど、ディアは今ルーガンの言葉を聞いてその認識を改めた。
「は、はあ……ではーー」
その後、彼らはしばらく明日の陣形と見張りの番について話し合っていた。
ルーガン「ーーそれで魔法使いの位置ですが、陣形の中心でいいかと。どう思う、ネア?」
ネア「……」
ルーガン「ネア、どうーー寝ているっ!?」
よかったらぜひブックマークと評価を。