40。彼大丈夫ですか?
2025年5月26日 視点変更(物語に影響なし)
『ーーいて最後のテーマ、〝新型魔法鞄〟についてーー』
「……ん?」
なんか、視界がおかしい……とアナウンサーの声にフェルはぼんやりと思っている。
「目が覚めましたね」
「……この大きさはーールナだな?」
頭上からの声に向いた彼の目に入ったのは顔ではなく立派なふくらみだった。
「……人を胸の大きさで見分けしないでくれませんか?」
「あ、あー、悪い……俺寝落ちたのか?」
上半身を起こしてじっと目で自分を見ているルナにフェルは訊いた。
「ええ、横向きでぐっすり、でしたね」
寝ている時、彼はずっとルナに膝枕されていたのだ。だからルナの声は彼の頭上からして、向いた時に視界に入ったのは立派な膨らみだった。
「あら、フェルさん、気持ちよかったですの? 柔らかかったですの?」
「な、なぁルナ……アンナのやつ、不機嫌そうに見えるんだが?」
そして彼の隣に座っているアンナは笑みを浮かべているけど、目が笑っていない。
「あなたが私にもたれかかったことに気に食わなかったようです」
「聞こえていますわよ?」
「「……」」
小声で話しているつもりだったけど、静かな部屋でそれは無理であって二人の会話はしっかりとアンナの耳に入った。
『ーーと違って、新型魔法鞄の空間は棚になっている』
『性能的にあまり役に立たんじゃろう? 棚にしてなんのーー』
そんなやりとりしていると講堂に開かれている論争がヒートアップしている。
「どうですか、アンナ様? 我が国の研究者の作品について研究者たちは熱く議論していますよ?」
タイミングを見計らったかのように左側から声がして、全員はその声の方へ見ると一人の男、ライドーズは勝ち誇ったような顔でアンナを見ている。
「あら? ライドーズ様の国の研究者が?」
「そうです! 無理難題の研究ばかりしているあなた様なら新型魔法鞄はどんなものなのか分かるでしょう?」
フェルから事実を聞かされたアンナたちはライドーズの言葉を聞いて、一体何言っていますか? と内心で疑問を思っているけど、誰もそれを口にしなかった。
「……ええ、もちろんですわ。それで、その国の研究者は今講堂で議論をしている、と?」
研究の成果が他人に認められるために論争に出る、研究者は普段そうするからアンナの質問は妥当だ。
「いいえ、新型魔法鞄の詳細について明かさないように命令してあるから、論争に出ませんよ」
「そうですの? それはちょっと残念ですわ」
「……どうしてですか?」
ライドーズは眉をひそめる。
「いいえ、色々訊きたいことがありましてね」
「無理難題な研究をしているあなた様の質問なんてごーー」
「さっきから〝無理難題〟って言われてるんだが、一体どんな研究をしてたんだ?」
正直フェルはもうライドーズにウンザリしているけど、一応アンナの面子を守る為にライドーズには何も言わなかった。
「む? 付き人のくせに知らないのか? いいだろう、貴様に教えてやろう!」
わざとらしく驚いて、ライドーズはフェルを小馬鹿にして語り始めた。
彼に曰く、アンナは研究者の間にいつも無茶な研究をして、成果一つもない研究者として有名だ。
例えば〝魔法大砲〟という魔力を圧縮して打ち放つ魔法道具。強力そうな道具だが、必要な魔力があまりにも現実的ではないと他の研究者に指摘されて、結局発案のままだった。
同じ問題はこの前アンナが見せた設計図、〝ゲートミラー〟にも指摘された。
「……ん?」
それらを聞いたフェルはすぐに問題に気付いた。
「どうだ? 無理難題ばーー」
パチン!
得意げな顔になったライドーズを無視して、フェルは彼の前に魔法を展開した!
「ほら、〝ゲートミラー〟が元にした魔法、〟ゲート〟だ。無理じゃないだろう?」
そう、アンナが研究している研究題には全部同じ問題がある。
それは必要な魔力量、だ。
しかしそれは無理ではない。何せ彼女はフェルというおかしいな人を知ってしまって、彼を基準にしたのだ。
「「「!」」」
フェルの魔法を目にしているライドーズと護衛たちはざわめく!
「外に繋いでやったから潜ってみたらどうだ?」
呆然としている彼らに挑発気味でフェルはそう言うと、ライドーズはゲートへ歩き出す。
「ライドーズ様! 危険です! 私が代わりに行きます!」
「……うむ、頼む」
ここにいる人たちにとって未知の魔法だから、主人を先に行かせる訳にはいかなくて、一人の護衛は名乗り出して代わりにゲートをくぐった。
「し、信じられん……本物だ……」
そして戻ってきたその護衛は自分の両手に視線を落としてつぶやいて、彼の様子と呟きを聞いたライドーズたちは再びざわめく。
「き、貴様は一体……?」
「あぁ? こいつらの護衛、フェーー」
『ーー人間が作れるものではない!』
自己紹介をしようとしたフェルは講堂から研究者たちの議論している声を聞こえ、急に黙った。
『では誰が作ったのだ? 魔族? 神々?』
『馬鹿馬鹿しい! 人間が作れない物は魔族が作れる訳がない!』
『三〇個以上もあるんだぞ? 神具は少ないからこそ神具だから、この魔法鞄は神々が作った物じゃないだろう』
『……ですが時間停止の仕組みはまだ解明されていません。それに二千個以上の高魔法薬を格納出来るようにするのはどれくらい魔力が必要なのか想像出来ません。人間が作れる物ではないという点には賛同します』
『……』
中々熱い議論である。現状は研究者の中に男女二人対他の研究者になっている。
「……アンナ」
「はい、行きましょう」
「ま、待て! 話がまだ終わっていないぞ!」
その状況を見たフェルは立ち上がって、アンナとルナと共に部屋を出ようとしたけど、ライドーズに邪魔された。
「ライドーズ様、これから国のために仕事があります。邪魔したら国際問題になりますが、よろしいですの?」
「う、うぐ……」
脅しいにも捉えられるアンナの言葉を聞いて、ライドーズは仕方なく道を開けた。
「ほら、行きましょう」
「うわ! ちょ、待て、押すなって!」
先を急かすルナに背中が押されているフェルは抗議して、部屋から追い出された。
▽
「ア、アンナ様!?」
「呼び出したのはあなた様でしたか……」
「久しぶりですわね。さあ、お掛けください」
別部屋でフェルたちはしばらく待っていると、アンナみたいに白衣を着ている二人の男女が入って、アンナの姿を見た男は驚いて、女は頭を右手で抑えた。
「単刀直入に言います。わたくしのーーいいえ……夫の元で働いてくれませんか?」
二人がソファーに座ると確認した後、アンナは話を切り出した。
「お、おい、アンナーー」
「はい、フェルはちょっと黙っていてくださいね」
いつも自分がやっている事くせに、いざ他人がやると講義しようとしているフェルはルナに手を引っ張られた。
「ご結婚されていますか!?」
「これはこれは、おめでとうございます」
「んんん!?」
おい、信じるのかよ!? と男女の反応にフェルは抗議しているけど、口がルナの手に塞がれているから言葉にはならなかった。
「んん!」
「ちょっとフェル、静かにしてください」
アンナもアンナで、自分の言葉で照れている事にフェルはツッコんでいるけど、言葉にならなくて流石にうるさいと思ってルナは注意したけどーー
「んー!」
「ちょ、押し付けないでください!?」
もっと強く抱け! とルナに身体を押し付けているフェルにルナは驚いて、小声で怒った。
「……あの、彼大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「そう、ですか?」
そんな彼らを見て、さっきまで気にしないように努力している二人の男女はもう無視できなくて、アンナに訊いた。
まあ、アンナからすると何の問題もないし、フェルの事だし彼女の中にこれは普通の事だ。
「……ですがすみません、誰かの下で働く気はありません」
「同じく。自由に研究したいので」
誰かの下で働けば研究をする為の資金が貰えるけど、研究者の中には自由に研究したいやつがいるのだ。
フェルの事を気にしない事にしたこの二人の男女もそうだ。
「……ならその自由を叶えてやろうか?」
ルナに放してもらったフェルは話に加わった。
「……失礼ですが、あなたは?」
さっきの事もあって、二人の研究者の中に変人認定されたフェルは誰何されても仕方がないだろう。
「コホン……紹介しますわ。先ほどの論争で話題に挙げた、あなたたちが言っていた人間の作品じゃない魔法鞄の製作者です」
自分の事のようにアンナは誇った顔でわざと回りくどい言い方でフェルを紹介した。
「「え?」」
それを聞いた男女の研究者は呆然から復活したのはしばらくの後の事だった……。
ルナ「ちょっとフェル、押さないでください!」
フェル「ん! んー!」
ルナ「きゃっ! ちょっと!」
アンナ「二人とも、イチャイチャしないでくれます?」
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