4。すみません、誰かいませんか?
2021年3月20日 マイナー編集
2021年3月31日 マイナー編集
2025年2月20日 視点変更(物語に影響なし)
視界が暗くなった途端、男は自分がいつもお世話になっている川の向こう側の景色を頭の中でイメージする。
「すぅーはぁー」
そのイメージをより鮮明にするために深呼吸してーー
「テレポート!」
男は力強くそう言った直後足場が不安定な所に立っているかのような感覚が彼を襲って、一瞬体勢が崩れそうになった。
「ーーっ! よし、成功だ!」
ゆっくりと目を開くと男の視界に川の向こう側にある木から出来た小屋が入って、それを認識した刹那彼はガッツポーズした。
彼は何をやっているのか? それは魔法の実験だ。この森で目覚めてから数週間が経って、毎日ただ起きて肉を狩るだけでけじゃあ今の彼には簡単過ぎて時間が余ってしまう。
だから自分が知っている事は魔法になれるかどうか彼は色々試しているのだ。
「おっと……! やっぱり厳しい! たった数回だけでもう魔力切れかよ……」
急にふらついた男はバランスを保つためにしゃがんで汗を拭いた。
〝テレポート〟という魔法はそれ程の膨大な魔力を使うってことだ。
何故、と?
これを理解するためにテレポートの原理を説明しなければならない。
まず、テレポート、転移について色んな理論がある。
ある理論によると転移は物体を分解して違う所に再構築する、という失敗したら永遠に消えてしまう恐ろしい理論だ。
ある理論によると転移は光速度以上の速さで一ヶ所から別の所に移動する結果なのだ。光速度以上で移動できればある場所から他の場所までの移動する時間がゼロに近く、結果的にまるで転移しているかのように移動できる。
だけどそれはあくまで移動だから、もし距離がさらに開いたら同じ結果を得るために速度を上げなければならない。
まあ転移じゃないからな。
そしてある理論によると転移は二つの座標が重ね合うように二つの座標の間にある空間を捻じ曲げるという可笑しいな理論だ。
正確な情報と集中力がいる。もし集中が途切れたら座標がずれる可能性があって、知らない場所に飛ばされるか、最悪の場合死ぬかもしれない。
んで、男は最後の理論を元にして〝テレポート〟を編み出したのだ。
「……夕飯は狩ったイノシシでいいや」
どもその代償は膨大な魔力で、枯渇状態に近い今の男にはやる気が起きなくて、何もしたくない彼はその場で大文字になった。
(もしかして魔法使いの天職は穴掘りじゃなく職人なんじゃーー)
と目を閉じてさっき見た小屋を思い出している男はその場で寝落ちてしまった。
くだらない事を考えていたのはあえて無視しよう……。
▽
それから数日たってーー
(何か光ってるなぁ……)
目の前に広がる光景を見て男はそう思った。
彼は今拠点から北へ数時間進んで、見つけた洞窟の入口の前にいるのだ。
拠点の周辺は調査済みだから活動範囲を広げようと思った男は森を調査する事に決めたのだ。
その結果は目の前にある、壁に奥へ続く光っている複数の緑色の線がある洞窟である。
(行き止まーーいや、これ扉か?」
線を辿って洞窟に入った男はやがて大きい壁に見せかける扉の前に着いた。緑色の線はそこで途切れて、いや、正確にいうと扉の壁の中へ続くのだ。
「待ってろ、扉よ! 絶対にお前を開くからな!」
扉を開けようとしている男は色々と調べたけど、結局何も分からなくて捨て台詞を残して拠点に戻った。
(まだ時間ありそうだな……)
と太陽を見た男は今度南の方へ歩き出した。
(おぉ……! 道だ!)
そして数時間ずっと移動している末に彼を待っているのは森の中に出来た道だった。
(人が使う道だな、これ!)
幅だけ見れば車が通れそうな道だ。
(町、もしくは村に繋がるはずだ)
そして道があったらそれを使っている人間がいるってことだ。それに道は場所と場所を繋ぐ物だから沿って移動したら何処かに辿り着くだろう。
(とりあえず今日はここまでにして、色々と準備が出来たらこの道を沿って移動しよう)
この道を辿って今日中に町か村に着けるとは限らないし、もうすぐ日が暮れるし、何より準備が足りていない。
妥当な判断であった。
▽
(よし、準備オッケー)
あれから数週間が経過していよいよ森から去るための男の準備ができた。
(町に着いたらまず剃刀を買おう)
……今の彼は原始人、とまでは行かないけど以前みたいな身なりではない。
髭と口髭はある程度剃ったけど、やっぱりちゃんとしたの剃刀を使う方がより綺麗に剃れるだろう。
ん? 今まで男は何で剃った? それはーー
(イノシシの角で出来たナイフだけじゃあ限界があるしなぁ)
いわゆる骨シリーズの武器というRPGに良く出るやつだ。
(まあ早めに寝よう)
町はどこにあるかわからないから明日早めに出るつもりで男は寝るために木から出来たベッドに上げーー
カツ! カツ! カツ!
(……なんだ?)
ーーようとしたけど、外から音がして動きを止めた。
(獣……? いや、人だ、しかも最低でも二人か?)
足音からして外にいろのは人間だと推測して、男は静かにテーブルに置いたボーンナイフを手にする。
(こんな時間帯に来訪者か……一応警戒しておこう)
今更小屋の灯を消せないのだ。したら中に今人がいるぞと来訪者に伝われてしまうからな。
(完全にこっちに近付いてるなぁ)
と段々大きくなっている足音から男は悟って、警戒を更に上げた。
そしてーー
コンコン!
(来たか!?)
「すみません、誰かいませんか?」
小屋のドアがノックされて、やや重い男の声がした。
(……さてどうする?)
動かない男はその瞬間頭をフル回転した。
男「い、いないぞ〜」
来訪者「そうですか、いなかったらーーって待ってください!」
男「チッ! 誤魔化せねぇかっ!」
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