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勇者? 人違いです  作者: Adhen
39/128

39。なんの話でしょうか?

2025年5月25日 視点変更(物語に影響なし)


「こ、これは! ようこそいらっしゃいました、アンナ・ゼ・ロダール様! そしてその付き人たちも!」


 翌日、ルナの要望に応えてフェルとアンナは彼女と一緒にエンダール王国最大研究施設、第一研究所に来た。


 ちなみにレイアも誘われたけど〝ソフィマちゃんを連れて街を見て回るわ〟とこれ以上ない言い訳で逃げた。


「論争を見に来ましたわ。概要(がいよう)を貰えますの?」


「どうぞ!」


 受付はアンナの身分証を見て一瞬驚いたが、すぐに要求を答えた。


「ここが世界一の研究施設、ですか?」


 周りを見渡したルナはやや呆気に取られている。


 白い壁、左右にガラスに囲まれる待合室(まちあいしつ)、ガラス沿いに置かれてあったいくつかの盆栽(ぼんさい)、入口から真っ直ぐにある大きな受付カウンターとその前に並んでいる人々。


「病院だ……研究所じゃなく完全に病院だな」


 そうしか思わせない光景だった。


「ほら、二人とも、行きますわよ?」


 手続きを済ませたアンナは振り返って、立ち止まっているフェルたちを促す。


「なあ、本当にこれでいいのか、ルナ?」


 レイア達みたいに街を回った方がもっと楽しいぞっとフェルは遠回しに言った。


「これはアンナ様のためですよ」


 先頭にいるアンナの背中を見ながら答えたルナは更にーー


「そして私のためでもあります」


 と小声で続けた。


「ん? すまん、最後の方は聞き取れなかった」


 周りの雑音もあって、彼女の最後の呟きはフェルの耳に入らなかった。


「二人とも、なにこそこそ話していますの?」


 頭上にはてなマークが浮かんでいるかのように足を止めて振り返ったアンナは首を傾げた。


「いいえ、何でもありません! 行きましょう」


 そんな彼女の側まで来た後、ルナの促しによって二人は歩き出す。


「なあ、俺途中で寝落ちるかもしれん……」


「構いませんわよ?」


「いいのかよ……?」


 わたくしにもたれかかれば、ですが、と振り向いたアンナが加えて、フェルは半眼になった。


「眠かったら寝ればいいですよ」


「いや、そうはいかないだろう? 誰がお前らを守るんだよ?」


「「……」」


 真顔で男前な言葉を言ったフェルに二人は押し黙ってしまった。


「……わたくしたちは子供ではありませんわよ? 守りなんかいりませんわ」


 まあ、ここは安全だからそうかもしれないな。


「とか言って実は嬉しいでしょう?」


「ちょ、ルナさん! 何を言っていますの!?」


「大丈夫です、気持ちは分かります」


「え? それってーー」


 耳元で囁くルナにアンナは驚いて、勢いよく彼女に振り向いた。


「……このことについて後日で伺いますわ」


「もう……それより行きましょう」


 溜め息を吐いて、ルナはアンナの腕を自分のとを組んで彼女を促した。


「仲いいな? 何があったんだ?」


「ふふふ、どうでもいいでしょう? それよりちゃんと付いてきてくださいよ?」


「……子供じゃないから大丈夫だ」


「……」


 後ろにいるフェルに一瞬視線を向けた後、アンナは再び前を見る。


「な、なんだ?」


 何か言いたい事があるようなその動作に、フェルはちょっと引っかかった。


「いいえ? 迷子にならないでくださいね?」


 彼女は知っている、フェルは方向音痴だという事を。


「……」



 そして実際にそう言われた事あるフェルは気まずそうに目を逸らして、頭の後ろに両手を組んでアンナたちに付いていった。







「着きましたわよ?」


「……」


「どうかしましたか、フェルさん?」


 白いドアの前に止まったアンナとルナは後ろにいるフェルに振り返った。


「あー、いや、よく迷子にならなかったなぁっと」


「一方道でしたよ? 迷子になる要素はありません」


「いや、ドア沢山あっただろう? 分からなくない?」


 確かに道中同じデザインのドアたくさんあったな。


 ……。


 いや? それでも迷子にはならないだろう。


「それはフェルさんだけじゃありませんの?」


「人がすぐに迷子になるような言い方はするなよ……」


「え?」


「……え?」


 フェルの答えにドアノブに手をやっているアンナは勢いよく彼に振り向いて、きょとんとした顔になった。


「じ、自覚ありませんの……?」


「哀れな人を見るような目で見ないでくれないか?」


 もし迷子になったら気付いかないだろうな、フェルは。


 そりゃあ哀れみ出るさ。


「……ア、アンナ様、入りましょう!」


「え、ええ、そうですね」


 気まずそうな空気が流れて、耐えられないルナは先を促した。




 カチャ。




「……む? これはこれはアンナ様ではありませんか。相変わらず無理難題な研究をしているのですかな?」


 一行が部屋に入ると大きな窓ガラスの前に立ってる一人の男は振り返って、アンナを(あざけ)った。


「あら、ライドーズ様、相変わらず口から嘲笑(ちょうしょう)しか出ませんわね」


「ちっ! やなおんーーん? そっちの美しい女性は?」


 舌打ちした男、ライドーズは誰もバレないように小さく呟くとルナの存在に気付いた。


「初めまして、ルーールイーズと申します」


「ーーっ!」


 一歩前に出たルナは偽名で自己紹介したけど、その偽名を聞いた彼女の後ろにいるフェルは腹を抑えながら笑いを堪えーー




 ドス!




「ぐふっ! い、いっでえぇぇ……」


 ーーているのだけど、ルナの素早い攻撃に違う原因で腹を抑えている。


「大丈夫ですか?」


「……大、丈夫、じゃねぇ、よ!」


 なに普通に心配しそうな顔で訊くんだよ!? お前の仕業だったろうが!? と言わんばかりにフェルは隣にまで来たルナを睨む。


「アンナ様、あっちのソファーに移動しましょう」


 恨めしそうな眼差しで自分を見ているフェルを無視して、ルナは彼を支えてソファーに移動した。


「じょ、上手に、なった、な……」


 ルナだけに聞こえるようにフェルは小さく呟いた。


「なんの話でしょうか?」


「とぼける、なよ……くっそ、いってぇ……」


 一見他人を心配している優しい人に見えるけど、そもそもフェルを攻撃したのは彼女自身だから騙されるなよ? さっき彼女は自己紹介していながら、真後ろにいたフェルに魔力を素早くぶつけたのだ。


 どれだけ痛いのかって? そうだな……高速の野球ボールを腹に食らったような痛み、かな?


 まあ、食らったことないけど。


「ふふふ、いい先生を持っていますからね」


「嬉しそうな顔で言いやがって……」


 くっそ……! と喜ぶべきか、怒るべきか分からなくなってきたフェルは複雑な気持ちになった。


「二人とも、イチャイチャはそこまでにしてくれませんの?」


「どこが、だよ!?」


「ア、アンナ様!」


「別にいいですけど」


 先にソファーに腰を掛けたアンナはポンポン、と自分の隣に空いているスペースを叩いて、合図をしっかり受け取ったルナはフェルをアンナの隣に座らせた後、空いているフェルの隣に座った。


「大丈夫ですか、フェルさん?」


「大丈夫、だ……」


 痛みが全然引いていないフェルはなんとか自分の顔を伺っているアンナに笑顔を見せた。


「格好をつけていますね……」



 それを見たルナは溜め息を吐いた。

フェル「……くぅー」

アンナ「あら、本当に寝ちゃいましたね」

ルナ「早いですね、まだじょばーーっ!?」

アンナ「ーー!」


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