38。まるでフェルの女性型ですね
2021年9月25日 マイナー編集
2025年5月20日 視点変更(物語に影響なし)
「コホン……話が脱線したな。うーん、どこまで話したっけ?」
後ろ頭を掻きながらフェルはさっきまで何について話していたか覚えようとしいてーー
「まあいい」
ーー諦めた。
「とにかく既存の魔法袋は空間魔法で作られたのだ。その魔法の名は〝ディメンション〟」
「また聞いたことのない魔法ですね……」
「まさかーー」
「いやいや、昔の勇者が作ったものだろう?」
まあフェルは言ったしな、〝既存〟の魔法袋、と。
「でもあんた精霊王でしょ? 精霊は年を取らないからあんた昔の勇者となんか関係あるんじゃないの?」
確かに精霊は年取らないのだ。
「俺、人間だけど?」
「「「え?」」」
彼は歴とした人間だ。
それを聞いた女性陣は信じられないような顔をしている。
「いやいやいや、テレポートを好き放題使うやつが人間なんてありえませんわよ?」
「魔力量が人間のものと思えないですもの」
「隙があればすぐセクハラするやつは人間じゃないでしょう?」
「意義あり! セクハラは人間がするものだろう!?」
いや、まあ確かにそうだろうけど、ツッコむポイントはそこじゃないだろうな。
「自信満々言いましたね」
「フェルさん……」
「あんたバカなの?」
「言いたい放題だな……遠慮というものを少し学んだ方がいいと思うぞ」
女性陣の言葉にフェルは溜め息を吐いて、講義した。
「あんたがそれを言うの?」
「フェル、もう少し自覚した方がいいと思いますよ?」
「あなたの辞書に〝遠慮〟という言葉はないと思いますわ」
見事に無駄に終わったけどな!
「と、とにかく! ディメンションの原理は亜空間を作ってゲートで現世に繋ぐ」
「亜空間はどうやって作りますの?」
「うーむ……想像だな。想像力と魔力によって亜空間のサイズと形を変えるんだ」
空間とは上下、左右、奥行きという方向、形がある。
空間の形は想像力によって定められて、魔力はその形を取って空間そのものになる。
例を挙げれば……キューブだ。
想像でキューブの大きさを定め、魔力でキューブの正方形六枚を作ってそれで空間を囲む。
「フェルさんが作った亜空間はどんなものですの?」
「棚だ」
質問を即答し、フェルは魔法ポーチを指す。
「このポーチは約二千の高魔法薬を格納できるんだ」
高魔法薬というのは魔法薬の大きいバージョンで理解すればいい。魔法薬と同じ効果をもって、魔法薬より大きな瓶に格納されるのが高魔法薬なのだ。
どれくらいの大きさ?
そうだな……大きいペットボトルの半分くらいだ。
「はあ……空間の方はもういいとして、時間停止の機能はどうなります?」
一々ツッコんだら話が終わらないから、呆れている三人を代表してルナは話を進めてフェルに訊いた。
その質問は今回のメインディッシュみたいなものーー
「分からん」
ーーだけぞ、フェルにも分からないのだ。
「はあ……え?」
「どういうことですの、フェルさん?」
「あのフェルが、分からないって……!?」
「俺を何なんだと思ってる?」
驚愕している三人に神じゃないんだぞ? と言わんばかりにフェルは半眼で見ていて、加えた。
「理解できないんだよ、原理が」
どうやって時を止めれる?
それは未だに誰も解けない問題だ。
動きが速ければ速い程、一つの場所から他の場所にまでの移動時間が短くなる。
例えば足より車で移動する方が早く目的地に着けるだろう? つまり必要な時間をゼロ、完全に無くすためにに速さがいる。
それを踏まえてもし人間は超高速、それこそ光の速さで移動出来れば時間を止めれるんじゃないか、という話がある。
理論上では確かに筋が通っているけど、そもそも人間は光の速さで移動出来る訳がない事と、光は遠くから見るとゆっくり動いているように見えるから結局無理なのでは?
まあ、昔フェルも自分なりに色んな仮説を立ててみたのだ。
例えば、時間停止は別に時間そのものを止める必要はない。
食べ物が腐らないように、ありのままの状態を保ったら時間停止みたいな現象に見えるだろう? だけどそれを成し遂げるためにいくつかの要素を維持しなければならない、温度とか、鮮度とか。
しかし結局それは時間停止そのものではないよな。
「だから知り合いに頼んでその機能を付与してもらったんだよ」
「すごいですね、その方」
「そうですわね、フェルさんでさえ分からない事を分かるなんて……」
「……大精霊?」
「……」
レイアって鈍いじゃなかったっけ? と抜けているレイアを見たことあるフェルは彼女の突然の指摘に思った。
「なんか失礼な事を考えてない?」
「ま、まさか〜」
だけど今日の彼女は鋭いのだ!
「……まあいいわ。んで? どうなの?」
「あ、ああ、大精霊だよ、時の大精霊だ」
フェルが世界を一周していた時ちょっとした出来事で知り合いになった大精霊だ。
「ど、どんな大精霊なの?」
「ん? うーん、変人?」
最初に会った時、何言っているのかさっぱり分からなかったフェルからするとそうとしか言えない。
「とにかく、魔法ポーチを作った時あいつは時魔法を、俺は空間魔法を担当してたんだ」
あの時大変だったぁ……主にあいつのせいで、と遠い目になったフェルはすぐに我に返って続ける。
「それと知ってる限り、この魔法ポーチの他に世界中三六個しかない」
まあ、その性能はもちろんフェルのポーチより劣るのだけど。
「三六個、ですか……」
「よく三六個で流行りになりましたね」
いや、少ないからこそ流行るのだ、限定品ってやつ!
「まあ、この話はこの辺に終わりにして、俺は部屋で休むわ」
話せる事はもう話して、喋り過ぎて疲れてきたフェルは話を締めた。
「え? もういいの?」
まだ時の大精霊について訊きたい事があるレイアは不満そうな顔をしているけど。
「後は自分たちで好きに過ごしてくれ、俺は部屋で寝る」
「では、わたくしも」
立ち上がって、フェルとアンナはドアの方へ歩く。
「……お前の部屋はここなんだが?」
「え!?」
信じられないと言わんばかりにアンナは驚愕している。
「アンナはこっち」
「はあ……まるでフェルの女性型ですね」
そんな彼女はレイアとルナに捕まれ、部屋の中心へ引き戻された!
「あ、あまり騒ぐなよ、じゃあな」
「そ、そんなあぁ〜」
引っかかる言葉はあるけど、早く出た方がいいと思ったフェルはツッコまないことにして部屋を後にした。
最後にアンナの残念そうな声は部屋の中に響いた。
アンナ「フェルさ〜ん、見捨てないでください〜」
ルナ「フェルが二人いるみたいですね……」
レイア「頭痛いわぁ」
アンナ「フェルさ〜ん」
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