37。喧嘩売っているの!?
2025年5月12日 視点変更(物語に影響なし)
アイテムボックス、インベントリ、魔法鞄、魔法ポーチ、魔法袋……まあ、名前は色々あるけど重要なのはそこじゃなく、どんな原理で働くのか、どうやって機能するのか、という点だ。
「原理、ですか……時空魔法ですよね?」
「じゃあ訊くけど、どんな時空魔法だ?」
説明を聞いたルナは確認気味で答えて、フェルは質問で返した。
「いいか? よく聞け、特にレイア」
「名指し!? 何でよ!?」
「いや、お前、この面子の中で一番魔法の知識が乏しいじゃないか……精霊魔法ならともかく、魔法そのもの下手じゃん……」
「うぅ……」
そう指摘されるレイアは肩を落とした。
「えー、魔法は原理、イメージと魔力、この三つさえあればどんな魔法でも作れる。流石に知ってるよな? レイア以外」
ルナとアンナは頷いた。
「だから何で名指しなのよ!? そのくらい知ってるわよ!」
「再確認しただけだ、気にしないでくれ」
「喧嘩売ってんの!?」
「レイアちゃん、声が大きいですよ?」
さっきから小声でツッコんでいたけど、流石に今のはちょっと大きくてソフィマが起きてしまう。
「だ、だってルナさん、こいつむかつくだもん」
レイア、小学生である。
「まあ、冗談はさておき、何かを格納するには必ず空間が必要だろう? だが袋にはそんな空間はない」
なら空間そのものを作ればいい、という思考が自然に来るだろう? とフェルは肩をすくめた。
「簡単に言いましたわね……そもそもどうやって空間を作りますの?」
「まあ、本当に袋の中にもっと空間が必要なのか? 物を他の所に飛ばす、というテレポート系の魔法とか思わないか?」
「……確かに、その可能性ありますね」
「え? あるの? テレポートは凄い魔法でしょ? 使うために膨大な魔力が必要じゃないの?」
レイアの言う通り、テレポートは不可能だ。
そもそもテレポートは明確な行先を把握する必要がある。魔法袋の中にある空間を特定するのは不可能だ、座標がないから。
「答えは時空魔法、いや……正確に言うと空間魔法か?」
「空間魔法? 聞いた事ありませんね」
「だろうな」
ルナが知らないのは当然だ。時空魔法は元々時魔法と空間魔法の融合から生まれた魔法だから。
例えば〝瞬間移動〟とい魔法。
この魔法は時空身体強化魔法で、空間である距離を縮め、身体を強化する事によって速さが上昇され、目的地に素早く着ける。
しかし正確に言うとこれは空間魔法と身体強化魔法を組み合わせる融合魔法で、空間魔法と時魔法じゃない。
まあ世間に時空魔法として扱われているけど。
理由としては空間魔法と時魔法はあまりにも珍しくて使い手が少ないせいで〝時空魔法〟という名に一つに纏められた。
「うーん、ですが空間を縮めるだけで目的地に辿り着けるのでは?」
確かに移動するだけならそれで事が足りるだろう。
移動するだけなら、な。
「そうだけど、瞬間移動の重要点は〝勢い〟だ」
「……戦闘用の魔法ですからね」
うんうん、とルナは納得して頷いた。
「ねぇ、フェル、どうしてそんなの知ってるの?」
両足上げて、ソファーの上であぐら座りしているレイアは不思議そうに訊いた。
「……」
今の彼女は普段と違って木の絵がついている白いシャツと茶色ショットパンツを着ている。
フェルの目にはそれが可愛くて凄く似合っているけど、普段のワンピースに着替えてくれないかな? と彼は今切なく内心で願っている。
「何よ?」
「……何も見えねぇ」
そう、それが理由だ。
「「「……」」」
正直に答えるフェルを女性陣は半眼で見ている。
「じょ、冗談さ、ハハハ」
「どうでしょうか……」
流石に過去の被害者だ。
言葉を鵜呑みにしないルナは肩をすくめた。
「と、とにかく、知ってるんじゃなくただ個人の意見だ」
いたたまらない気持ちになったフェルは無理矢理話を進めた。
「瞬間移動を編み出したやつは何考えていたか知らん。俺にとって攻撃の方面に使えそうな魔法だ」
「まあ、フェルさんの意見は一理ありますわ。常識ではありませんが」
「テレポートを使えるからそう言えるでしょう……」
「異常な考え方ですけど、フェルにとってそうじゃありませんね」
「お前らちょっと言い過ぎじゃないか?」
悲しくなるぞ? と言いたい放題されたフェルはちょっと肩を落とした。
「ですが、どうして以前の戦いで瞬間移動を使わなかったのですか?」
「あ、もしかして前にりゅうじぃさんが言ってた〝魔法の加減がまだ甘い〟とかに関係してるの?」
「……」
ルナの質問で幻想の森の出来事を思い出したレイアは確認すると、フェルは押し黙ってしまってただ彼女を見る。
「うーん、ルナさんを助けた時人間の姿になったりゅうじぃさんは確かにそう言ってたよ」
しかし自分に向けられた視線を全く気にする素振りすらないレイアは更に続けた。
「え?〝人間の姿になった〟? りゅうじぃさんは精霊じゃないのですか?」
「精霊? 人間じゃなくて?」
「違うよ、りゅうじぃさんはライトドラゴンなの。ねえ、フェル?」
そういえばこの二人にはまだ話してなかったっけ? とフェルは今更思い出した。
「あ、あー、言い忘れてた、ごめん」
そうでしょ? と言わんばかりレイアはフェルに視線をやると彼は後ろ頭を掻きながら苦笑する。
「……それは本当でしたら、りゅうじぃさんがドライアード様と同じ魔法で会話しているのは理解できません」
「魔法? ドライアード様は話している時魔法使ってんの?」
「微かながらも魔力感じますよ、しかも魔力の流れは非常に似ています」
大精霊とライトドラゴンは初めて会ったけど、それでもルナの中に全然違う種族はほぼ同じ魔法を使うのが可笑しい。
「いやぁ、さすが元宮廷魔術師様だな」
「フェルさん、では……?」
「ああ、ルナの言う通りだ」
ドライアードとりゅうじぃは人間の言葉で話す時必ず〝ブロードキャスト〟という魔法を使っている。
彼らは元々声帯とか、舌の動きの流暢さとか人間が言葉を放つための必要な物は持ってないからな。
しかし今になって慣れつつある彼らにはその魔法もうすぐ要らなくなるだろう。
「ブロードキャスト? 聞いた事のない魔法ですね……」
魔法の名を聞いたルナは腕を組んで右手の親指を顎に添える。魔法に博識である彼女でさえ、今の魔法名は聞いたことない。
しかしそれは仕方ない事だ。
何故ならーー
「そりゃあそうだろう、俺が作った魔法だから」
「「「……」」」
そう告げられた三人は呆れた顔になってしばらく黙っていてーー
「ほーんと、何でもありよね、あんた」
「さすがといいますか、なんといいますか……」
「あなた、本当にただの旅人ですか……」
最後に溜め息を吐いて、首を横に振った。
フェル「っていうかお前喋りすぎ」
レイア「だから誤ったじゃん!」
フェル「軽っ!」
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