36。いいな、お前、自由で……
2025年5月12日 視点変更(物語に影響なし)
「ほわあぁぁ!」
肩車されているソフィマはルーゼンの光景を見てはしゃいでいて、尻尾が凄い勢いで振っているのが背中の感触からフェルに伝わっている。
ルーゼンは機械と技術の町として有名だ。
世界中の研究者と科学者は大抵ここに集まっていて、機械と面白いアトラクションが沢山あるから旅行の目的で訪れる人も大勢いる。
しかし今のルーゼンはちょっと違うのだ。
もうすぐ世界の研究者たちが自分の研究成果を自慢して、他人の成果を見定めるイベント、論争の時期だ。
機械と技術マニアたちは絶対に見逃さないイベントだから、今のルーゼンは非常に賑やかだ。
そんな光景を見て、生まれてからずっとフェルの屋敷で育てられたソフィマがはしゃいでるのも仕方ないだろう。
仕方ないがーー
「ソフィマ、〝おっさん〟じゃなくて〝お兄さん〟でいいよ?」
あれこれ見て、好奇心を抑えきれずにいるソフィマはずっとフェルに質問していて、その度に彼を〝おっしゃん〟と呼んでいた。
まあ、確かに実の年齢ならおっさんだけど今の彼は違う。
「ぷふ……お、おっさん……」
さっきからレイアは震えて必死に笑いを堪えている!
「ねえねえ、おっしゃん! あれなに!?」
「全然聞いてねぇし……」
「ふふふ、あれは〝ゴンドラ〟というものですわ。昔の勇者が開発されたものですの」
彼を無視してゴンドラリフトを指したソフィマの質問を答えたのはアンナだった。
「街、回ろうか?」
見上げて、フェルは自分の頭を両手で掴んでいるソフィマに訊いてみると彼女は楽しそうに頷いた。
「ほ、ほら、レイアちゃんも行きますよ?」
ルナはさっきから笑いを堪えているレイアを見てちょっと引いてしまった……。
▽
「そういえば今年の論争はちょっと特別だそうですね」
「そうそう、昔の勇者が開発された魔法袋に新機能を加えた発明家がいますの」
街を回って、昼がやってきて一行は大きなレストランで食事をしてる時、向かいの席でルナとアンナはそんな会話をしている。
「驚いたな、ルナがそんなことに興味があるとは」
「そうですね……普段はありませんが、今回はちょっと、ね」
「フェルさんは興味ありませんの? 魔法袋の新機能ですわよ!?」
「ないない。あ、ほらソフィマ、顔がめちゃくちゃじゃないか……」
適当にアンナをあしらったフェルは隣に座ってるソフィマの口の周りについた食べ物をハンカチで拭いた。
「……あんたも食べたら? さっきからソフィマの世話してるんじゃない」
「あー、俺はいいんだ。お前もかわりがいるなら遠慮なく注文しとけよ?」
会社員だった頃から昼飯抜きの生活を送っていたフェルにはいつもの事だ。
「それにしても何の機能でしょ?」
「知り合いの探検者から聞いた話ですけど、時間停止という機能みたいです」
「あんたなら何か知ってるんじゃない、フェル?」
とアンナとルナの会話を聞いたレイアは突然フェルに話を振った。
「どうしてそう思う?」
「あんた旅人でしょ? 情報、持ってないの?」
「……」
押し黙ってしまったけど、フェルの内心ではレイアがこれ以上喋らないと願っている。
「……そう言えばそうでしたわね。どう、フェルさん?」
何故ならアンナのやばい目線が自分に向けられるだろうと彼は予測したからだ。。
「ご、ごめん……」
見事にその予測が当たってしまって、責任取れよ! と言わんばかりに彼はレイアの方に視線をやって、流石に今のは自分が悪いと認めざるを得ない彼女は目を伏せて謝罪した。
「フェルさん?」
「……とりあえず宿を探してソフィマを寝かせよう」
今朝からずっとはしゃいでいる彼女はフォークを握っているまま寝落ちてしまった。
「いいな、お前、自由で……」
そんなソフィアを優しく抱き上げて、フェルは小さく呟いた。
▽
会計を済ませた後、フェル一行は宿を見つけて部屋を取った、もちろん二室だ。
最初はソフィマ以外それぞれの部屋を取るつもりだったけど、アンナの提案により女性陣は一つの部屋で泊まることになった。
「どこへ行くつもりですの? お話聞かせてくれませんの?」
ソフィマを女性陣の部屋に寝かせ、退出しようとしているフェルはアンナに止められた。
「嫌そうな顔ですね」
と振り向いたフェルを見てルナは指摘した。
「諦めたら?」
「お前のせいじゃねぇか……」
「だからもう謝ったじゃない」
部屋にある白いソファーに座っているレイアは気まずそうに目を逸らした。
「……ほら、お前らもすわーー」
溜め息を吐いて、ソファーに座ったフェルが言葉を言い終える前にルナとアンナは素早く座った。
「お前もあっちに座れよ……」
「いやですわ」
ルナみたいにフェルの向かいのソファーではなく、アンナは彼の側に座ったけどな……。
「……まあいい、とりあえずこれを見ろ」
構えたら話が進まないとなんとなく分かったフェルはテーブルの上にいつも持ち歩いているポーチを投げた。
「これはーー魔法袋?」
「そうだ、正確にいうと魔法ポーチだな」
それで? と全員の顔にそう書いてあるかのようにフェルを見ている。
「そのポーチはさっきお前らが話してた魔法袋だよ」
「「「え?」」」
さすがにこれにはレイアも驚かされた、彼女は一応探検者だから。
「ほ、本当でーー」
「しー! バカ! 大声だすなよ!」
興奮して大声を出してしまったアンナの口をフェルは慌てて手で塞いだ。
「放すから静かにしろよ? でないとこの話はおしまいだ、いいな?」
釘をさされたアンナはコクコクと頷いた。
「ぷはっ! じゃ、じゃあ、このポーチには時間停止の機能が?」
「ああ、ついてるさ」
静かに、おそるおそると訊いたアンナにフェルは即答した。
「よくこんなものを手に入れましたね……」
「最近流行っている物でしょ? どうやって手に入れたの?」
「ああ、知り合いに手伝ってもらったんだ、訳がーー」
「ねぇ、まさかーー」
さらに説明を入れかけているフェルは何かに気付き始めたレイアに遮られた。
「大声だすなよ?」
このままだとルナとアンナは必ず大声を出すからフェルは再び注意した。
「あ、あの、フェルさん、新機能を加えた開発者ってーー」
「俺一人じゃないぞ? それに加えたじゃなく、改造したのさ」
加えるというのはない物、足りない物をただ足すだけ。それに対して改造は元からある物をよりいい物に変えて、ない物をあるようにするのだ。
「改造、ですか?」
「ああ、確か二年前だったかなーー」
とフェルは昔の事を思い出していながら、ポーチの事を女性陣に説明し始めた。
フェル「アンナ、ちょっと離れてくれないか?」
アンナ「そんな!? 私臭うですか!?」
フェル「そうじゃねぇ! 寧ろいいにーーあっ!」
ルナとレイア「「……」」
フェル「な、なんだ?」
ルナとレイア「「別に」」
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