35。ゾビマアァァ〜
2021年9月25日 マイナー編集
2025年5月6日 視点変更(物語に影響なし)
「これからルーゼンに行くつもりだが、お前らどうする?」
女王との謁見から結構な時間が過ぎて、ある日の朝フェルは朝食を取りながらレイアとルナを見て問いかけた。
「王、私は?」
「残れ」
きっぱりとフェルが答えて、それを聞いたドライアードはすごくショックを受けているような顔をしてーーいや、実際に受けているのだ。
「何ショックを受けてるんだよ? ちび達の家を作るんじゃなかったのか?」
しかしフェルは意地悪している訳じゃない。
実はここに来てからドライアードは精霊界にいるちび達のために森の様子をずっと探っていて、彼らの住む場所を作っている。
結構あちこちに行くフェルに一々付いて行ったらいつまでも終わらないのだ。
「ねえ、何で手伝わないの?」
「俺が手を加えたらちび達は怖がって住みたくなくなるんだよ……」
手伝いたい気持ちはあるけど、精霊たちは彼が怖い人だと思っているからな……前から、ずっと。
「あ、あの子たちはただ王にどう接触すればいいか分からないだけです!」
「いいんだ、ドライアード……フォローしなくても」
「そういえば四年前も精霊たちを脅かしたよね……」
すざっ! とレイアの言葉に思い出したくない事を思い出してしまったフェルは更にダメージを負った。
「ま、まあ、それを置いといて、どうするんだ? あ、りゅうじぃはドライアードを手伝ってもらっていいか?」
「フォッホッホ、いいじゃろう」
「ありがとう! 仲良くしろよ、ドライアード?」
「わ、分かりました……」
釘に刺されたドライアードは嫌そうな顔になって、肩を落とした。
「あたしは……付いていくわ、フィリーの事心配だし」
「そういえば友人だったな。んで、ルナは?」
「そうですね、せっかく自由になりましたし、付いていきます」
宮廷魔術師としてずっと仕えていた国が自分を死んだと認定したから、ルナには仕事は疎か、帰る場所もない。
「待てよ……」
「?」
自分を見て突然食事を止めたフェルにルナは首を傾げた。
(ルナって、ニートにクラスチェンジしたってことじゃないか!?)
……そりゃあ、まあ、間違いないけど別の言い方があるだろう。
「ルナ、ここは自分の家だと思って過ごしても構わないからな」
「なんかむかつきますけど……とりあえずありがとうございます」
礼を言ったルナの表情は半眼だった。
「あら、優しいですわね、フェルさん」
……。
「なあ、なんでいるんだ……?」
「あら、あなたがわたくしをお持ち帰ったからですわ。それにお母様からの許可も出ましたし」
そう、今のはアンナだった。
フェルの隣の席に座っている白衣を着ている彼女はフェルに向いて笑みを浮かべた。
「……言い方はあれなんだけど、まあ確かにそうだったな。でも今すぐじゃないだろう?」
「まあまあ、細かいことは気にしないでくださいまし」
……こいつと話すといつも頭が痛くなるわぁ、とフェルはなんとか頭を抑えるのを堪えた。
「はぁ……俺たちはルーゼンに行くんだが、付いていーー」
「付いていくに決まっていますわ! ルーゼンですわよ!? 機械と技術の都市ですわよ!?」
色んな機械と技術の誕生地と言われ、世界中の研究者が集まる場所であるルーゼンに同じ研究者であるアンナが行かないわけがない。
「あ、やばい」
アンナのスイッチを押してしまった事に早速後悔したフェルだった。
「研究者であるわたくしがーー」
「あー、わかったわかった。連れてくからそう熱くなるなよ」
そのままにしておけば彼女は暴走するとなんとなく予測できたフェルはすぐに彼女を止めた。
「それとレダスとダルミア、ソフィマを連れて行くつもりだが、いいか?」
「うん?」
食事を夢中に食べているソフィマは自分が呼ばれていると勘違いして、頬いっぱいの顔でフェルを見る。
「そ、それはーーっ!」
「フェル様がそうしたいなら」
「うぅ……ダ、ダルミア、痛いよ……」
何か言おうとしているレダスは急に涙目になって、彼を無視してダルミアは答えた。
「あ、ああ、ありがとう……二時間後に出発するから準備してくれ」
何も見なかった事にしたフェルは話を締めた。
▽
「ううぅぅ~ゾビマアァァ~」
「……なんか悪い事したな」
玄関に集合していざ出発した時レダスはガン泣きしてソフィマに手を伸ばしている。
「なあ、ダルミア、本当に大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。夫の事は任せてください」
「いや、そうじゃなくて……まあいいや」
チラチラ、とフェルの視線はレダスに行き来している。
彼は今ダルミアにヘッドロックされていて、そんな彼を助けようとしたフェルだったけど気が変わった。
こうでもしないとこの親ばかは娘から離れないだろうなと思っていたからだ。
「ソフィマちゃん可愛いですからね、気持ちは分かります」
「そうね、その服とっても似合ってるわ」
ルナとレイアはソフィマを見て意見を述べた。
今のソフィマはいつものメイド服ではなく、フリルがついている薄い青色のドレスを着ている。
この服はさっきフェルとアンナ二人でロダール女王国の城にテレポートして持ってきた、アンナの小さい頃の服だ。
ちなみにソフィマは獣人だから、尻尾のためにドレスはちょっとアレンジされた。
「可愛い服沢山あるのになんでお前は白衣のままなんだよ?」
ソフィマの頭を撫でているアンナを見て、フェルは呆れた。
「まあ、フェルさんこそどうしていつもの黒いシャツですの?」
「俺はいいんだよ。せっかく可愛いと綺麗な顔をしてるんだ、ソフィマのようにもっとおしゃれしろよ、お前ら」
ソフィマを抱き上げていながらフェルは三人に告げた。
「……ど、どうしよう、ルナさん? 褒められた同時にディスされたけど?」
「あ、敢えてポジティブに受けましょう」
「失礼だなぁ……せっかく助言したのによ」
「ふふふ、お上手ですわね、フェルさん」
何が? とアンナに褒められた理由が全然わからないフェルはスルーする。
「ま、まあいい。出発するぞ、いいな?」
「気をつけていってらっしゃいませ、王」
「娘をお願いします」
「ああ。りゅうじぃ、レダス、みんなを頼んだぞ?」
「任せるのじゃ」
「うぅ……わがりまじだ……」
男性陣に家の事を頼んだのはいいものの、レダスはまだ泣いていると見てフェルはちょっと不安になった。
「ほ、ほら、ソフィマもお父さんとお母さんになんか言えよ?」
「うーん? おかあしゃん、おとうしゃん、いってきましゅ」
「うん、いい子にしなさいね」
満面の笑みで両親に挨拶したソフィマに対してダルミアは微笑んで優しく言いつけを述べた。
「うううぅぅぅ~ゾビマアァァァ~」
一方レダはずっとヘッドロックされているままなのだ……。
「じゃ、じゃあ行くぞ!」
流石に可哀想だから早めに出発した方がいいと思ったフェルはテレポートを発動した。
「ゾビマアアァァ~」
「もうあなたったら顔ぐちゃぐちゃよ?」
「うーむ、デカい子供じゃな……」
「まったくだ……」
と更に泣き出したレダスに呆れるドライアードたちだった……。
ダルミア「もういい加減にしなさい!」
レダス「だっでぇぇ〜」
ダルミア「久々の二人の時間よ?」
レダス「うぅ〜う? はっ!?」
りゅうじぃ「単純じゃのう」
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