34。幕間 その間抜けな表情はやめろ
2021年9月25日 マイナー編集
2025年5月5日 視点変更(物語に影響なし)
幻想の森が消滅してから一週間が過ぎた。
その事件の被害は大きく、森の縁にある市町村は全て魔物の襲撃によって地均しされた。
森から数日間離れたミシーは勇者一行と探検者たちのお陰でギリギリ、なんとか南の門辺りだけ守った、持ち堪えたのだ。
しかしミシーの住民たちは前向きで、彼らは現在力を合わせてミシーを再建している。
この事についてディアはすでにレヴァスタ王国の王都、ケルティンにある探検者ギルドに宰相クレス宛の手紙を出したけど、詳しい報告をするために勇者たちは先に帰還させた。
そしてディア自身はーー
(……ここにもないな)
数日間、幻想の森だった場所にあるモノをずっと探している。
(可能性は……まだあるって事、か……)
彼女は先週の事件についていくつかの不明点があると思い、それらを調べるために残ったけど未だ何も見つかっていない。
例えばフェルの行方とか、フィリーの行動の理由とか、巨大な影とか。
「ルナねぇ……」
そして自分の姉、ルナの行方とか。
ルナは巨大な影と接触して、交戦もしたはずだとディアは確信している。そうなったらルナは確実に死んで影は近くの村や町を襲ってくるはずだったけどーー
(探しても死体が見つからない……)
何より影が他の所を襲ったという情報はディアの耳に入っていない。
(……まるで消えーーテレポート?)
そして彼女の頭によぎった。
もしあの時敵であるあの男が森に戻ったら、と。
(だが何故だ……?)
新しい疑問が浮かんだ。
(フィリーだ……フィリーに聞けばわかるかもしれない)
駆けつけた時既にいなかった自分の友人、フィリーのことを思い出したディアは一週間前の記憶を掘り出す。
(ハールによると彼女はミシーが魔物に襲われた三日前くらいから情報を既に掴んでいた。確かエンダール王国の王都、ルーゼンへ向かったよな?)
フィリー達がミシーを出たのは事件の二日前。
(まだ追いつける!)
自分の移動速度を踏まえてまだ間に合うとディアは結論に出て、準備するためにさっそくミシーに戻った。
▽
「本当に行くのですか、ディア様?」
「ああ、ルナさんはまだ生きている可能性があるから。それに確かめたい事がある」
避難所にある探検者のテントに戻ったディアは荷物をまとめている間にハールに以後の事を説明した。
「ミシーの事はお前に任せる」
「すぐに出発しますか?」
「時間が惜しいからな」
大切なものを魔法ポーチに、それ以外は革袋に入れたディアは荷物を担いでテントを出ようとした時、魔法ポーチから一本の剣を鞘ごと取り出してハールに投げた。
「こ、これは……?」
慌ててそれをキャッチしたハールは困惑した表情で問うた。
「レヴァスタ王国探検者ギルド、総ギルド長の証だ」
「は?」
「今日からお前が総ギルド長だ、ハール……いや、ハール様、か」
驚愕している彼をよそにしてディアは続ける。
「だからその間抜けな表情はやめろ、なめられるぞ?」
せっかく怖い外見しているんだ、と彼女は加えた。
「し、しかし、ディアさーー」
「自信を持て! お前の腕を信じているからこそお前に総ギルド長の肩書きをやるんだ!」
突然の事で状況についていけないハールは我に返って剣を返そうとしたけど、逆に激励された。
「元気でな」
ディアはそう強く彼に告げた後、出発した。
ハール「しかしディア様ーー」
ディア「だから自信を持て!」
ハール「そうじゃなく……私、剣士ではありません」
ディア「……」
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