33。幕間 勇者をやめた方が身のためね
2025年5月5日 視点変更(物語に影響なし)
概要:
レヴァスタ王国での会議
勇者サナダと少女の会話
時は少し遡って、フェルたちが丁度ギーフに向かう準備をしている間、レヴァスタ王国には会議が開かれた。
「これから汝らに遥か北にあるロダール女王国の王都、ギーフに行ってもらおう」
レヴァスタ王国の国王、グレン国王は数名の人たちに宣言した。
「なんでだ?」
国王に対して何と言葉遣いなのだ!? とこの中にいる人々は思っているけど、国王の向かいの席に座っている軽鎧を着ている短い黒髪の男子は直人じゃない。
「先週の事件でルナ・エアネスは戦死と認定されました」
その男子の質問に答えたのは国王の後ろに立っているひょろ身の宰相、クレスだった。
「調査の結果によりますと、事件はロダール女王国に所属している〝フェル〟という男の仕業だと分かりました」
クレスは更に続ける。
「勇者ミウラ様たちは我が国からの使者としてロダール女王国の女王と謁見をとり、件の男を引き渡すよう要請を述べて貰います」
そう、男子は勇者だ。
勇者を崇拝しているような国であるレヴァスタ王国では誰も彼の態度を正せないのだ。
……まあ崇拝は言い過ぎか。
「おいおい、勇者であるオレ様たちを行かせるから何か得あるだろうな?」
勇者ミウラの左側に座っている金髪の男子は話に割り込んだ。
「もちろんございますよ、ナリタ様。ロダール女王国は美貌に優れた女性が沢山いると有名なのです。もしロダール女王国はこちらの欲求を従わなければ国際問題になります、そうなればーー」
そこでクレス宰相はわざと間を置いて真っ直ぐに勇者ナリタの目を見る。
「なるほど、面白くなってきたな!」
意味ありのクレス宰相の説明を聞いた勇者ナリタは笑みを浮かべて頷いた。
「……」
一方、勇者ミウラの右側に座っている黒いパーカーを着ている黒髪の女子はただ黙って、彼らを見ている。
「どうしましたか、サナダ様?」
「……いいえ、なんでもありません」
召喚された勇者の中で唯一の女性である勇者サナダはクレス宰相に話しかけらるとアンダーリムのメガネを右手の差し指で押し上げて答えた。
「……では、明日に出発してください。こちらから数十名の騎士といくつかの馬車を用意します」
彼女は一体何を考えているのか全く読めないクレス宰相は話を切り上げた。
▽
「ーー本当なの?」
「ええ、このままだと我が王は必ず動き出すわ」
会議が行われたその日の夜、勇者サナダは一人の女の子と暗い部屋の中で話している。
「その王はやっぱり強い?」
「ふふふ……」
勇者サナダの質問に対して背中に付いている翼を軽く羽ばたかせて、女の子は笑みを浮かべた。
「……どんな人なの?」
「いい人よ、我々を愛して人間と同じように扱ってるの」
自分の両頬に手をやりもじもじしながら語っている女の子を見て、勇者サナダは溜め息を吐いた。
「……気になってきた」
「ん? 大丈夫よ。我が王の性格からすると向こうからあなたの前に現れると思うの」
どんな状況なのか知らないけどね、と女の子は加えた。
「……先週の事件はどう思う?」
幻想の森が消滅された事件の事だ。
「あなたたち人間が招いた災難、としか言えないわ」
ふふふ、と全く似合わない妖艶な笑みを浮かべて、女の子は答えた。
「……」
「まあ、人間の争いには興味ないわ」
そして興味なさそうに女の子は自分の爪を見ながら続けた。
「……大丈夫かな?」
「勇者をやめた方が身のためね」
何が、とは言わない勇者サナダだけど女の子は何の事かはちゃんとわかっている。
「なんで?」
「何ででしょうね?」
ふふふ、と笑った女の子はどこかへ消えた。
「……」
取り残された勇者サナダはしばらく何かを考えていた後、ベッドに身を投げて寝ることにした。
女の子「ちなみに我が王はイケメンじゃないよ?」
サナダ「……いらない情報」
女の子「そう?」
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