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勇者? 人違いです  作者: Adhen
31/128

31。せめて上を見たい!

2022年8月22日 マイナー編集

2023年5月14日 マイナー編集

2025年4月25日 視点変更(物語に影響なし)


「ヒック……もう、お嫁にいけない……」


 床に座っているフェルは両膝を抱えている。


「何バカな事を言ってんの? あんた男じゃない」


 あ、違った、とレイアの指摘に気付いたフェルは言い直す。


「ヒック……もう、お婿にいけない……」


「あなた、バカですか……?」


 そんな彼に完全に呆れたルナは半眼で彼を見ている。


「大丈夫ですわ、わたくしが貰いますので安心してください」


 しかしアンナは違う。彼女はそんなフェルを背後から抱きついた!


「アンナ……」


 誰もが見てもアンナはとっても優しいだろう。


 フェルも感動ーー




「なら首をゆっくり締め付けてるのをやめてくれないか?」




 このまま死ぬぞ? と感動にならなかったフェルはアンナの手をタップしている。


「あら、いけませんわ!」


 まるで無意識にやっていたかのようにアンナはバッと両腕をほどいて驚愕している。


「ふぅ……さて、冗談はさておき、女王との謁見は明日だ。今日はゆっくり休めってよ」


 立ち上がって、そう言ったフェルは部屋をーー




 ガツッ!




「どこへ行きますの?」


 出ようとしたけどアンナは彼の腰辺りにまた両腕を回して、笑顔を浮かべた。


「……ちょ、ちょっとトイレ」


 言い訳、手口、色んな言葉はある。


 それらに分類される事を言ったフェルは苦笑する。


「付いていきますわ」


「「……」」


「いや、お前、流石にそれはーー」


 ……真顔でそう言い切ったアンナに、この部屋にいる者たちは全員引いた。


「こればかり譲る気はありませんわ!」


「譲れぇよ!!!」


 しかし彼女には見事な覚悟がある!


 使い所が間違っているけどな!


「はぁ……逃げないからとりあえず放してくれないか?」


「本当ですの?」


 頷いたフェルを見て、アンナは両手を解いたあと解放されたフェルは部屋の中心にあるソファーに座った。


「……逃げないと言っただろう?」


 ピッタリと自分の真後ろに付いてきて、そしてソファーに座った女性陣にフェルは呆れる。


「いいじゃありませんか? 私たちも座りたいのです」


 ルナの言葉に他の二人はうんうんと頷いた。


「……仲いいな、お前ら」


「あら、当然じゃありませんの? あなたの妻ですから」


 ピタッ! と一瞬時間が止まったかのように、誰もアンナの発言に反応出来なくて部屋は沈黙に支配された。


「あんたもバカじゃないの!?」


「レ、レイアちゃん! 言葉!!! 確かにバカかもしれませんが言葉遣いに気をつけてください!」


「お前もさらっと言ってるぞ!」


「何そんなに慌てていますの? あなた達はこの男の妻になりますわ」


「いや、何様のつもりだ、アンナ?」


「王女様ですわ!」


「確かにそうだったな!」


 自信満々な顔でアンナは胸を張る!


「バカじゃないの!? そんなのありえない!」


 怒りで顔が赤くなったレイアは立ち上がってベッドに身を投げた。


「同感ですね。そのような冗談はおやめください、アンナ様」


 そしてレイア同様にルナの顔はちょっと赤くなっている。


「ほら、お前のせいで二人は怒ってるぞ?」


「むぅ……そういう事にしておきますわ」


 二人の反応を見たアンナは頬を膨らませて、腕を組む。


「……ところで、何で白衣なんだ?」


 そう、レイアのアンナに対しての喋り方、最初に誰何したのも全部彼女の服装のせいだ。


「あ、そうでしたわ! あなたに相談したいことがありますの!」


 訪問の目的を思い出したアンナは指パッチンすると彼女の前に一つの巻物が現れて、それをフェルに渡した。


「これは?」


「開けてください」


 結び糸を解いて、フェルは言われた通り巻物を広げた。


「これは……設計図だな」


 紙の真ん中には四角があって、矢印と文字がいっぱい書かれている。


「魔法道具〝ゲートミラー〟の設計図ですわ」


「ゲートミラー? まさか転移魔法の魔法道具ですか!?」


 怒っているはずのルナはアンナの言葉を聞いて反応した……。


「ご存じかもしれませんが、〝ゲート〟とは〝テレポート〟と違って予め二ヶ所に同じ魔法を使わなければなりません」


 ゲームによくあるワープポイントという事だ。


「まあ原理はテレポートと同じだから作動はするだろう、むしろ魔力の方が問題だ」


 転移魔法を使えるフェルだからこそ言える事だ。転移系の魔法は距離に応じて必要な魔力が変わる、と。


「一瞬で終わるテレポートと違って、ゲートは展開した後にも維持しなければならない。当然その間魔力は減り続けるんだ」


「ということは……魔力を溜めて置ける物、容器は必要になりますね」


 フェルの後ろから設計図を見ているルナは言った。


「はい、その通りですわ。魔力の事はまだ検討中なのですがーー」


「そもそも、どれくらい魔力が必要なのでしょうか?」


 もっともの疑問だな。


「フェルさん、テレポートをする時どれくらい魔力を使いますの?」


「いや、そう訊かれてもなぁ……」


 測定器(そくていき)はないから、わかる訳ないだろう? と思っているけど、それでもフェルは考え込む。


「そうだな……感覚で言うなら最低でも小規模魔、例えばアースウォールの数千? いや、数万かな?」


 当然それは距離により、アースウォールの展開位置にもよるのだけど、とフェルは更に加えた。


「数万……? どれくらい魔力を持っているのですか……?」


「おい、その顔やめてくれないか? なんか変な人を見てるような顔なんだが?」


「その男を基準にしちゃダメよ。四年前平気な顔でテレポート数回使ってたし」


「お? もう復活したのか?」


 レイアはベッドから話に加わった。


「魔法道具のことはよく分からないから、今まで黙ってただけよ」


「「「……」」」


「な、なに?」


 ただ黙って自分を見ているフェルたちにレイアはちょっとたじろいだ。


「何でもないよ? 決してバカだなーなんてこれぽっちも思ってないぞ? うん!」


「「フェル(さん)……」」


 正直な者であるフェルにルナとアンナ、二人にして哀れそうに見ている。


「ふ~ん、ちょっと話があるの、いい?」


「あ、あの、身の危険を感じるから辞退してもいい?」


「観念した方がいいだと思いますよ?」


 一応訊いてみたフェルにルナは小声で助言した。


「……」


 そしてその通り、諦めたフェルはレイアに近付いて彼女の前に両膝を床に着き、土下座する!


「すまん、レイア、間違えた」


「そ、そこまでしなくてもーー」


 突然の事に戸惑ってもじもじしている彼女を他所にしてフェルは更に続ける。


「お前は精霊にしか詳しくないから、分からなくてもとうぜーー」




 ドス!




「「フェル(さん)……」」


 全然学習しないフェルにルナたちは今度哀れむではなく、呆れるのだ。


「どうした、フェル? 何か言ったの? ん?」


「あ、あの、レイア……?」


「ん? な~に~?」


 可愛く返事したけど、フェルには恐怖でしかない。


 何故ならーー




「なんか、頭が踏まれてない? 頭上げれないんだが?」




 彼の額は床にくっついているままだから!


「それはそうでしょ、あたしが踏んでるから」


「り、理由を聞いても?」


「自分の胸に訊いてみれば?」


 そう言いながらレイアはゴシゴシとフェルの頭を踏んでいる。


「そ、それは無理かな」


「なんで?」


「胸がないかーーあ、あの、なんか力が強くなってないか?」


 ルナとアンナに比べたら持ってない方のレイアにとってフェルが言おうとしている言葉タブーだ。


「ふ~ん、そうかな~?」


「いや、そうだろう、痛くなってきーーいたたたたた! すすすみません!」


「き こ え な い~」


 だから彼の許しを仰ぐ声に対してレイアはわざとらしく大声を出して打ち消した!


「ル、ルナ! 助けてくれ!」


「……」


 名前が呼ばれたルナは顔を背ける!


「アアアアアンナ!」


「……今のはフェルさんが悪いのですわ」


 明らかに彼に好意を持っているアンナにまで見捨てらた!


 ……終わったな、フェルは。


「せ、せめて上を見たい!」


 そんな自分のこの先の未来を悟ったフェルは突然変な要望を出した。


「な、なにその願い?」


「だ、だめですよ、レイアちゃん! この男ったら!」


 戸惑っているレイアを見てルナはすぐに遮って近寄ってきてーー




 ドス!




 フェルの背中を踏みつける!


「スカートを覗くつもりでしょう、このバカ!」


「し、信じらんない! バカ!」


「フェルさん……」


 今のレイアは短いスカートを着ているから、もし彼女はフェルの要望を叶ってあげたら彼にとって眼福になるだろう。


「ままま待って! わ、悪かった! ゆゆゆるしてくれ!」


「「だめ(です)!」」



 当然の仕打ちであった。

フェル「あ〜新しい世界に目覚めるところだったわぁ」

レイア「何それ?」

フェル「知らなくていいよ、まだこどーー」

レイア「ふん!」

フェル「や、やめろ、踏めないでくれ!」


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