30。あなたの部屋はここですわよ?
2025年4月23日 視点変更(物語に影響なし)
「……」
「フェルさんは悪人ですの? それとも善人ですの?」
しばらく黙り込んで考えているルナを見て、向かいのソファーに座っているアンナは質問を変えて再び問いかけた。
「……正直、分かりません。本人は善人ではないと仰いましたが」
「ふふ、変わりませんわね、フェルさんは」
くすくすと笑ったアンナは更に続ける。
「三年前もそう言いましたわよ? だからこそ信頼できますの」
「ど、どうしてですか?」
「人間は自分の過ちを意識しているからこそ自分は善人ではないと言い切れますの。フェルさんは過去で何の過ちを犯したのか知りませんけどそれを意識しているのでしょう」
まあ、リバースサイコロジーと言うものをやっているかも知れないけどな。
「あちこちで〝自分は善人だぞ!〟と言いふらしたら逆に怪しいでしょう?」
そりゃあそうだろう、あんまりの必死さで逆に怪しい。
「彼は紛れもなく善人です、わたくしが保証しますわ」
自信に満ちた顔でアンナは宣言した。
「どうしてそこまでーー」
その自信の根拠はなんだと訊こうとしたルナよりアンナは言い出した。
「だって彼は勇者ですから」
「え? あ、あの、今なんてーー」
「ですから彼は勇者ですわ、この国にとって、そして無数の人々にとって」
「あ、ああ、そういう事ですか」
一瞬レヴァスタ王国以外勇者召喚の儀式を行った国あるかとルナは思っていた。
まあ、そんな国があったらとっくに話題になっているはずだけどな。
「お母様は彼は勇者だと思っていますから、間違いありませんわ」
あ、今の内緒にしてくださいね? とアンナは苦笑を浮かべた後また続ける。
「フェルさんは自分についてあんまり知られたくありませんから、わたくしが色々と話したと知ったら間違いなく怒られますの」
それなら質問を答えしなくてもいいでしょうに、とルナは内心で呆れた。
「じゃあ、あなたの番ですわね。フェルさんとどんな関係ですの?」
説明が終わりと言わんばかりにアンナは質問を投げた。
「やっぱり、アンナ様はフェルのことが気になりますね」
「え? あ、あら、そ、そんなに表に出ていますの?」
「バレバレですよ」
「と、とにかく質問を!」
ちょっと赤面になったアンナは無理矢理に先を促した。
「そ、そうですね……以前は敵ですが、今はーー」
敵対していたけど助けられて、家にまで泊まらせてくれた。そんな敵であるはずのフェルは自分にとって一体どんな存在なのかルナは決めかねないでいる。
「すみません、私によく分かりません」
一週間前くらいなら敵ですと彼女は宣言できるだろうけど、戦う理由が消えて特にない今それは出来ない。
なぜ彼を敵視していると訊かれたら答えが出ないから。
「以前? 敵? 恋人じゃありませんの?」
「こ、恋人ぉ!? ありえません!」
「う、うぅ……」
突然の質問にルナは思わず立ち上がって大声を出してしまったせいでレイアは起きてしまった。
「レ、レイアちゃん、気分はどうですか?」
「ん~? ルナさん? ここはーーそうだ! アイツは!? フェルは!?」
「お、落ち着いてください! フェルなら衛兵に連れていかれましたよ」
慌ててルナはベッド添いに座って上半身を起こしたレイアを宥めた後、彼女が倒れた後の出来事を説明した。
「あら、そんなことありましたの……?」
「……誰?」
「レ、レイアちゃん! 王女様ですよ! 言葉をーー」
「構いませんわ。レイアさんでしたっけ? どうしてそんなに慌てていますの?」
さっきのレイアはまるで悪夢を見ていて起きてしまうような起き方をしていたのだ。
「……あんなの初めてなの」
アンナの質問に対してしばらく俯いて黙ってからレイアは自分の身を抱いて重い溜息を吐いた。
(この反応ーー)
その動作に見覚えがあるルナはどうやって? と思考を走らせているけど考えても答えが出ない、出るはずがない。
何せレイアが倒れた時にフェルはガランドと揉めていて近くにいなかったからだ。
しかしついこの前自分の妹にも同じ事が起こったからルナの中に原因は間違いなくフェルだと確信している。
だから彼女は訊くことにした。
「ね、ねえ、レイアちゃん、まさかと思いますが、その……よかったのですか?」
「っ! ルナさんも同じ事をされたの!?」
勢いよく顔を上げたレイアの顔は真っ赤だった。
(あのバカ! 後で懲らしめてやります!)
その彼女の言葉で全てを悟ったルナは心の中で自分に誓った!
「どういう事ですの?」
会話に付いていけなかったアンナは彼女たちの間に視線を行き来している。
「い、いえ、何でもーー」
カチャ。
「おい、ルーー」
流石に何の事か教える訳にはいけなくて、丁度ルナが話をはぐらかそうとしている時フェルは部屋に入った。
「わりいぃ、部屋間違えたようだ」
そしてルナたちを見て頭の後ろを掻きながら踵を返して再び出ーー
「何処へ行こうとしていますの?」
「え、えっと、自分の部屋?」
ーーようとしているとアンナの素早い行動に右肩が捕まえられて、振り返った彼はぎこちない笑みを浮かべる。
「何を仰っていますの? あなたの部屋はここですわよ?」
彼女の言う通りここはフェルの部屋だ。
「……」
「……」
しばらく見つめ合っている二人だけどーー
「逃がしません!」
「は、放せ! 放すんだ、アンナ!」
一早くフェルの腰に両手を回したアンナによって脱出が失敗に終えてしまったフェルは暴れ出している!
「お、俺にはルナとレイアというつーー」
ポキポキ!
「フェ~ル、言ったよね?」
「っ!」
ベッドから降りたレイアはフェルに近付いていながら指をポキポキと鳴らしている。
「レレレレイア! ちょっとおおお落ち着け!」
「門前で言ったよね? 覚えてないとか言わせないわよ?」
そのまま彼女はフェルの前に笑みを浮かべてーー
「ま、待て! 待ってくれ! は、放せ、アンナ! 殺される! た、助けてええぇぇぇ!」
それから誰も彼を見た人はいない……。
フェル「もっと強く抱け!」
アンナ「え!? 逃げませんの!?」
フェル「いいからやれ!」
ルナ「アンナ様、騙されないでください!」
フェル「チッ! 惜しかった!」
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