27。わお! 意外と乙女だった!
2021年6月28日 マイナー編集
2021年9月25日 マイナー編集
2025年4月19日 視点変更(物語に影響なし)
「生き物は必ず魔力を持ちます、これは知っていますよね?」
「うん」
「魔法を使わなくても魔力は必ず減り続いて、その減り具合を補うために体は魔力を生み出して同時に周囲から吸収します」
人によって速さが違ってもこの現象は必ず起こるのだ、じゃないと大変な事になる。
「どうして魔力は減り続くと思います?」
「えっと、確か魔力は精神に反映されるものだから、よね? 精神が疲れたら魔力は減って、癒されたら回復する、でしょう?」
簡単に言えばそうだけど人間には感情と思考がある複雑な生き物だ。
例えば怒りは精神に負担を掛けて癒しでもなんでもないけど、人によって怒りはモチベーションになって逆に魔力を回復する。
「ではどうやって魔力を回復するのですか?」
「精神を落ち着かせる? あ、魔力の魔法薬もあるよね?」
この世界の一般人にはあんまり知られていないけど、魔力の魔法薬という物には精神を強制的に落ち着かせる効果があるのだ。
抗うつ薬の仕組みと非常に似ている。
「はい、回復させるにはそれしか方法はありません」
「いや、他にもう一つの方法あるぞ」
さっきから黙って二人のやりとりを見ているフェルは遮った。
「その方法はな、他人の魔力を自分のものにする、だ」
「それはありえません。魔力は指紋みたいなものです、人それぞれ違いがあります。もし他人の魔力を無理矢理体内に取り込んだらーー」
「拒絶反応が起こって魔力が暴走する、だろう?」
溶血みたいなものだ、しかしこの場合死ぬではなく魔物になるけどな。
「ルナ、手を出せ」
「な、何をする気ですか?」
フェルが手を差し出すとルナはベンチから立ち上がって逆に身を引いた。
「そんなに警戒しなくてもいいんじゃねぇか……」
「この男に何かされたの?」
レイアに肩を掴まれて揺さぶられたルナは顔を背ける。
「あ、あんたねえええぇぇ!」
「いやいやいや、何もしないって! 信用ないな! あれは自業自得というか、不可抗力というかーー」
「あれ!? 不可抗力!? あ、あんた、な、何をーー」
「ル、ルナもなんか言ってくれ!」
段々激昂になりつつあるレイアを見て、助けを求めるフェルはルナに顔を向けると彼女は赤面になって俯いた。
「わお! 意外と乙女だった!」
っていうかお前に何もしなかったんだけど!? とフェルは更にツッコんだ。
「フェ〜ル〜? どういう意味かな〜?」
笑顔を浮かべるまま寄り付くレイアに危険を感じたフェルは身を引く。
「あ、あの、レイアちゃん、まだ何もされていませんから!」
「ほ、ほら! 彼女もそう言ったじゃないか!? だ、だからお、落ち着け!」
……あんまりの必死さでルナの引っ掛かる言い方にフェルは全く気付いていない。
「そうなの? ならいいけど。もしルナさんに変な事をしたらーー」
レイアは真顔で右手の親指を立てて自分の首元に沿って左から右へ動かした!
「……」
そしてその仕草を見たフェルは可愛いと思ってしまったけど、同時に恐怖を感じた……。
「と、とにかく! 手を出せ」
「は、はい、どうぞ」
頭が痛くなってきたフェルは強引に話を進めて、彼の要望通りルナはおずおずと右手を差し出す。
「よし、ちょっと我慢しろよ?」
「え、どうーーひゃあう!」
出された手を握って、何に対しての我慢なのかルナが訊ける前にフェルは彼女の魔力を吸い込み始めた。
「くっ! ま、魔力が……!」
「感覚から分かるだろう? おっと、このくらいでいいか」
ふらつき始めたルナから魔力を吸い込むのをやめて、今度フェルは逆に自分の方から魔力を流す。
「ひゃっ! はぁっ、んー!」
「……」
「フェ〜ル〜?」
突然自分の中に注ぎ込まれて、異常な速さで全身に流れている魔力にルナは強い刺激を感じている。
そんな彼女を見て、レイアは席から再び立ち上がってポキポキと指を鳴らしながらフェルに近付いていく。
「い、いや、おかしいな……ドライアードから魔力を受ける時何もなかったけど?」
「知らないわよ、そんなの! いいから手を放して!」
「あ、ああ、悪いな、ルナ」
本当に申し訳ない気持ちになったフェルは素直にルナに謝って、困った顔を浮かべる。
「はぁ、はぁ……ふぅー、あなたの、魔力量はどれくらいですか?」
「大丈夫、ルナさん?」
赤面になったルナを心配して、レイアは彼女に肩を貸した。
「ありがとう、ございます。フェル、どうやってーー」
「説明するからとりあえず二人とも座れ」
そう言いながらフェルは魔法ポーチから革の水袋を取り出して、ルナに差し出す。
「見辛いかも知れないが、ルナの無色な魔力は灰色になって俺に流れていく事、そしてその逆も見えただろう?」
「うん、平気なの? さっきの話からしてそれはあり得ないよね?」
「取り込む直前に変換したらいいさ」
「ふぅー、そんなの可能ですか?」
水袋を返したルナはフェルにそう問いかけて、それを魔法ポーチにしまった彼は続ける。
「魔力変換は簡単なものじゃない、相手の魔力をよく知らないと出来ないんだ」
「ま、魔力をよく知る、ですか……」
「ああ。まあ、魔力変換の事は今置いておこう」
「え? どうして?」
「まだ開発中だから」
「「……」」
な、なんだ? と二人にしてじっと目で見られたフェルはたじろいだ。
「よく開発中の技を私に使いましたね」
「不安になってきたわ……」
人体実験と変わらないから開発中の物を人に使っちゃダメだ。
何か間違いが起こったら大変な事になる。
「い、いや、もう完成したはずだが、さっきのルナを見てまだ完璧ではないかなと思って、だから開発中なんだよ」
ルナの反応からなんか副作用があるんじゃないかなとフェルは睨んでいるから、魔力変換の技術をもっと研究する必要があると結論に出た。
その理由を聞いたルナは納得して、説明を続ける。
「レイアちゃんはさっき言いましたよね? フェルの魔力に色が付いていますとか」
「うん、半透明の灰色だったわ」
「半透明、ですか?」
「……」
そこまで見えるのか、と感心しているフェルにルナは視線を投げるけど、彼はただ黙って知らん顔をしている。
「……色が付いている魔力について様々な説がありますが、はっきりとした説はありません。この辺についてフェルの方が詳しいかも知りませんね」
そういう事なら、とルナはそんなフェルに話を振った。
「あー、色は属性がついてるという意味をするよ。だから精霊はみんな自分の色があるんだ」
精霊はそれぞれ司る属性があって、何の属性かは彼らの色からわかるのだ。
例えば火の精霊は赤で、水の精霊は青だ。
「んで、稀に魔力が見えない精霊使いはいるけど、彼らは普段精霊に魔法を頼んで、頼まれた精霊は自分の属性に通りの魔法を使う」
ところが、魔力が見えたら精霊の魔力をコントロールできる、正確に言えば精霊から流れる魔力を、だ。
「す、すごいですね。もしそれが本当なら魔法の正確さが上がりますね」
どこを狙えば、どれくらいの規模の魔法を出すのか自分で決められるからな。
「ああ。だからレイア、お前の課題はまず魔力の流れをコントロールすることだ、完璧にな」
「は、はぁ……」
「なんだ? テンション低いな」
「うーん、あんたの説明からするとあんたの魔力にも属性があるよね?」
考え素振りをしてレイアはフェルに問いかけた。
「……そうだが?」
「そういえばそうですね。何の属性ですか? 黒いなら想像できますが灰色、しかも半透明になると分かりませんね」
妥当な質問だな。
魔法使いとしてルナは色んな知識を持って、当然魔力の色についてもある程度知っている。しかし半透明灰色の魔力なんて彼女は聞いた事ない。
「あー、俺の属性なんてどうでもいいだろう?」
「「……」」
そんなフェルの答えに納得いかないと言わんばかりに二人は無言で圧をかけるとーー
「と、とにかく今日はここまでだ! じゃな!」
「ちょっ、逃げるの!?」
……彼は情けなく逃げ出した。
レイア「気になるわ……」
ルナ「そうですね」
フェル「気になる? 気になるだろう!? 教えない!」
レイア「……うざいわ」
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