26。人を助けるには理由なんていりませんからね
2025年4月18日 視点変更(物語に影響なし)
「そういえば、ルナ」
「なんですか?」
ルナがフェルの屋敷で目覚めてから数日間が過ぎて、彼女とソフィマ三人で一緒に朝の魔法の練習をしていながらフェルはふと気になる事を彼女に問うた。
「これからどうする?」
「夜まで魔法の練習をするつもりですが?」
どうせやる事ありませんからね、とルナは更に続けた。
「……違う違う、そっちじゃない」
っていうかどんだけ魔法に熱心なんだよ、と呆れたフェルは言葉を変えた。
「未来の事を訊いてるんだよ」
「……未来、ですか?」
「ああ。レイアはこのままここで住んでる気なんだが、お前は?」
レイアからすでに確認が取れたからそれは間違いない。
「まあ彼女の場合は精霊、ドライアードが目当てだろうな」
それも間違いない。
「んで、お前は? 帰りたいのか?」
黙り込んでいるルナにフェルは振り向いた。
「私は……」
帰る場所がある人は普段この質問に帰りたいと即答するだろう、ルナは躊躇っている。
「まあ、明日ロダール女王国の王城に行くつもりだ。帰るか帰らないかはその後で決めればいいさ」
「おねえちゃん、いっちゃうの?」
さっきまでフェルの隣に浮いていて会話を聞いているソフィマは彼らの間に入って寂しそうな顔でルナを見上げる。
「……ふふ、安心して」
そんなソフィマを見てルナはしゃがんで彼女を抱きつく。
「さあ、練習の成果をお姉さんにみせて」
「うん!」
「ごまかーー」
「……っ!」
「何でもありません!」
何か言おうとしているフェルを目の前にいるソフィマに決してバレないようにルナは睨む!
そう睨まなくてもいいじゃないか、と怖い思いをしたフェルは黙ってしまった……。
▽
「ねぇ、ちょっと」
休憩してベンチに座っているフェルはルナとソフィマが魔法の練習をしている所を見ていると、レイアに声をかけられた。
屋敷から出てきた彼女はキョロキョロしながらやってきた。
「ドライアードを探してるのか?」
その質問にレイアは頷いた。
「ドライアード」
「お呼びですか、王?」
「あ、ああ……レイアが探してるぞ」
試しに読んでみたフェルはタイムラグなしに背後に現れたドライアードに驚かされた。
「む? なんの用だ?」
「いやいや、態度が違い過ぎるだろう!? さっきの笑みどこへ行った!?」
「む……」
ドライアードは基本フェル以外の人間に冷たいからこれはある意味彼女の通常運転なのだ。
「せ、精霊魔法を教えてください!」
「断る!」
跪いているレイアの頼みをきっぱりと断った刹那、ドライアードは再び消え去った。
「ド、ドライアード様……」
「いや、そんなにショックを受けなくても……」
願いが断られた彼女は四つ這いになって頭を垂れている。
「はぁ……精霊魔法もっとうまく使いたいのか?」
「……うん」
「そろそろ立ったらどうだ?」
「うん……くす……」
流石に可哀想と思ったフェルは彼女に言った。
「泣くなって、俺が教えてやるから」
「……え?」
その言葉にレイアは一瞬驚いて反応が遅れてしまった。
「元々あまり人間と関わらないから、精霊たちは人間に物を教えるのが苦手なんだよ」
だからドライアードを責めないでくれ、とフェルはドライアードのために弁明した。
まあ、もしドライアードはレイアに精霊魔法を教えたら……レイアは混乱するだろう。
(魔力をこう、ドンとして一気にパッ! とあの時大変だった……)
あの時酷かったわぁ、とフェルは少し懐かしい気持ちになったけど、すぐに切り替えて続ける。
「その前に確認したいんだが、なぜ精霊を見れるんだ?」
大精霊と違って精霊は普段目視できなくて、彼らを見るには二つの条件がある。
一つは魔力を見えること。精霊は簡単に言えば魔力の塊みたいなものだから。
もう一つは精霊を視認できる種族であること。この世界ではエルフやハーフエルフだ。もう一つの種族はあるけど、とっても稀な種族だから今はスルーしよう。
とにかくこれらの条件を一つだけ満たせば精霊を見えるのだ。
「さて、お前はどっちなんだ?」
とフェルはレイアに説明した後、問うた。
「……」
でもしばらく間を置いても彼女から返答がなく、フェルは続ける。
「理由によって教えるものは異なるんだ。正直に答えた方がおすすめだぞ?」
「……分からない」
「……は?」
誰が見てもレイアは人間だ。だから可能性としたら彼女は魔力を目視できるとフェルは予測していた。
「あー、まあとりあえずこれを見ろ」
本人が魔力を目視できる事に気付いていないだけかもしれないから、フェルは右手を胸辺りまで持ち上げて魔力を掌に集めた。
「そ、それは?」
「……見えるんだな」
そしてその予測は見事に当てた。
顔を上げたレイアは視線をフェルの手元にある灰色の魔力に向けて、不思議そうに訊いた。
「これは魔力だ、俺のな」
「どうかしましたか?」
と、そこで腕の中で寝ているソフィアを抱えながらやってきたルナは話に割り込んだ。
「おう、おつかれ。魔力切れか?」
「はい、これから部屋で寝かせていきます」
まだ子供だから魔力量は少ないのだ。
「丁度いい、ソフィマを寝かせた後戻ってくれ」
「……? 分かりました」
首を少し傾げたもののフェルの言葉に頷いたルナは屋敷に戻った。
「よし、ルナが戻ったら授業を始めるぞ。それまでお前の精霊魔法を簡単に見せてくれ」
何も知らない人ならともかく、ある程度基礎が出来ている人に物を教えるとその人がどこまでやれるか知る必要があるのだ。
それがスタートラインになるかもしれないから。
▽
「お待たせしました」
「おかえり。じゃあ座ってくれ」
しばらくレイアの精霊魔法を観察すると戻ってきたルナにフェルは席を譲った。
「よし、二人とも俺の手をよーくみろ」
そしてそう前置きして、彼は再び右掌に少し魔力を集めた。
「ルナ、何か見えるか?」
「いいえ? 見えるというより感じますね、魔力が」
「さすが宮廷魔術師様だな」
戦闘なら魔力が見えるより感知できる方がいいのだ。
確かに魔力が見えたら相手はどんな魔法を使おうとしているか、それによってどう対抗するか判断しやすいという大きなメリットがあるけど、遅すぎる。
それに反して魔力を感知できたら相手はどこに魔法を発動しようとしていて、規模はどれくらいか一瞬で分かって、対応できる。
まあ、魔力を感知出来る上に見えたらそれはそれでいいけどな。
「ところがレイアはちょっと違うんだ」
「うん、灰色の塊がそこにあるわ」
フェルに視線を向けられて、レイアは自分が見ている物をそのまま説明した。
「灰色? 魔力が見えるんですか?」
「こいつは魔力が見えることに気付いてないんだよ。宮廷魔術師であるお前なら魔力について詳しいだろう? それがどういう意味かこいつに教えてくれよ」
「あなたほどではありませんけどね」
「またまた、頼めるか?」
魔法は上手に使えるかもしれないけど、説明なら自分よりルナの方が適任だろうとフェルは思っている。
「あの、魔力の事なら多少の知識持ってるけどーー」
「多少じゃあ足りないな。精霊魔法を使いこなしたいなら完璧に理解しないと」
おずおずと手を挙げたレイアにフェルははっきり告げた。
「レイアちゃんは精霊魔法使いですか?」
四年前ルナも探検者ギルドミシー支部からの報告を聞いたけど、その時教会の依頼を受けた探検者の名前は報告に載っていなかったのだ。
だから彼女はレイアの事知らない。
「ああ、これからこいつを鍛える。まずは魔力についてからだ」
「分かりました、では協力します」
「……やけに協力的になったんだな」
ソフィマの件もそうだけど、ルナはあっさりとフェルの頼みを受けた。
まあ、ソフィマは可愛いから仕方ないけど。
「人を助けるには理由なんていりませんからね」
「……以前俺を疑っていた人の台詞とは思えないな」
「ふふふ、いいじゃありませんか?」
と呆れているフェルにルナは笑みを見せた。
フェル「お前なんで気付いていなかったんだ?」
レイア「仕方ないじゃない、生まれてからこうなんだから」
フェル「あー、バカってーーぐはっ!」
レイア「ふっ!」
よかったらぜひブックマークと評価を。