25。なんも見えねぇじゃねぇか!?
2025年4月16日 視点変更(物語に影響なし)
「よし、みんな揃ったな? こいつはレヴァスタ王国の宮廷魔術師、ルナーーな、お前の苗字ってなんだっけ?」
夕食を取るために食堂に集まったみんながそれぞれの席に着いたと確認したフェルはルナを紹介しようとしたけど、人の名前を覚えるのが苦手な彼はルナの苗字覚えるわけがない。
「……エアネスです。ルナ・エアネスと申します」
「そうそう! ルナ・エアネスだ」
「あんたね……」
何もなかったかのようフェルは改めてルナをみんなに紹介した。
「んで、ルナ、こいつは俺の最愛のつーー」
バン!
「ちょっと待った!!! ドライアード様はあんたの妻じゃない!」
「まだ何も言ってねぇじゃん……」
ドライアードを紹介しようとしたフェルは食卓を叩いて身を乗り出して抗議するレイアに遮られた。
「そうですよ、王! そういう冗談はおやめください!」
「……コホン! じゃあ騒がしいのはレイアで、俺の最愛のつーー」
バン!
「ば、馬鹿なの!?」
席に着いたレイアは再び食卓を叩いて、真っ赤な顔で身を乗り出した!
「まあ、冗談はさておき、こいつはーー」
そんなに怒らなくてもいいじゃないか、とがっかりして肩を落としながらフェルは一人ずつ紹介した後、みんなで食事を始めた。
ちなみにルナの席はドライアードの隣だ。
▽
「きゃははは! しゅうごい〜!」
「そうだろう? ソフィマも自分でやってみるか?」
「うん!」
翌日の朝、フェルはソフィマと二人で庭に魔法で遊んで、あちこちに浮いている彼女は楽しそうにはしゃいでいる。
「……何やっているのですか?」
「おう、ルナか? ソフィマと遊んでるんだよ、ついでに魔法を教えようかなっと」
屋敷から出てきた肩だしワンピースを着ているルナは彼らの所にやってきた。
「おっしゃん! はやく!」
「お、おっさん、だと!?」
「ふふふ、〝おっさん〟」
「ソ、ソフィマ、〝お兄さん〟な?」
「うん?」
引き攣った笑顔でフェルはそうソフィマに言うけど、彼女はただ首を傾げた……。
「その頭を見ると確かにおっさんですね」
「よーし、ルナ! ちょっと面貸してくれないか?」
「いやですね、これから魔法の練習ありますから」
じゃあさっさといけぇや! とフェルに追い出されたルナは森の方へ歩き出した。
「コホン……えー、ソフィマ、これは風魔法だよ。風とはいったいどんなものなのか知ってる?」
ピタっ!
ソフィマに目線を合わせてフェルは説明し始めると立ち去ろうとしているルナは再び止まった。
「なんだ?」
「……いいえ、何も」
ふーん、とフェルはソフィマに視線を戻す。
「かぜ? う〜ん、わかんない!」
あー、四歳の子供にとって難しすぎる問題だな。
「そうだな……風の中に色んなものがあって彼らは手を組んで一緒にさまよってる」
どう説明すればいいか分からないフェルはとりあえず地面にいくつかのスマイルアイコンを描いて、それらの間に線を描いて繋げた。
「俺たちが風を感じる時、彼らの組んでる手がほどかされて離ればなれになったんだ」
そして今度はいくつかのアイコンと線を消して、距離を置いて悲しいアイコンを描いた。
「かわいそう……」
フェルを真似してしゃがんだソフィマは絵を見て悲しくなった。
「そう! 可哀想だろう? だから魔力を使って彼らのつないでる手を強くするんだ。そうしたらいつも一緒で笑顔のままでさまようことができる」
フェルは既存の線を太くし、離れているアイコンとの間にも同じ太い線を描いて、表情を笑顔に変えた。
「どう? イメージ掴めたか?」
「うん!」
頭いいな! と内心でフェルは驚いた。
彼自身でさえどう説明すればいいか分からなかったからな。
「やってみる?」
「うぅぅん……」
しゃがんでいるまま目を閉じるソフィマにフェルはさらに説明した。
「魔力ってのはな、水と思えばいいさ。その水は自分の体内から手のひらに流れていくと想像してみて」
魔法を使うには魔力の存在を意識しなければならない。最初は難しいことだけどイメージを鍛え続ければその存在は自然に感じられるのだ。
「イメージが固まったら自分の足元に風の繋いでる手を魔力で強化してみて」
そうフェルは伝えてしばらく経つとーー
「ほわあぁっ!」
しゃがんでいるソフィマの体が少し揺らいで、驚いた彼女は立ち上がって自分の足元を不思議そうに見ている。
「どうだ? 足元に何か感じたか? 例えば……ベッドの上に立っているような感覚とか?」
「う、うん」
「よし、今度その感覚があったら足元にある風をゆっくり上へ押してみて」
頷いて、ソフィマは再び目を閉じる。
(それにしても本当に頭いいな……羨ましくなってきたよ)
異常に早く事を掴めたソフィマを見て、フェルはそう思ってしまった。
彼は決して万能で頭がすごくいいという訳ではない。今こうして色んな魔法を使えるのは全部彼の四年間の動力の成果だ。
(うむ、揺らいでるが上出来だ)
すぐに完璧にやれるなんて最初からフェルは期待していない。こうして魔法を発動できるだけで上出来だと彼は思っている。
「よーし、ゆっくり目を開いていいぞ」
しかしソフィマの才能は侮れない!
彼女はすでに立っているフェルと同じ高さにいるのだ!
「うぅ……? ほわあぁぁぁ!!!」
目を開いて魔法が成功したと実感した彼女は足元を見て嬉しそうな顔になった!
「おっしゃん! できーーわぁ!」
集中が切れて魔法のコントロールを失ったソフィマが落ちかけるとフェルは彼女をキャッチした。
「おっと! だめだぞ? 集中しないと魔法が解かれるんだからな」
「うん!」
満面の笑みで頷いたソフィマを見てちゃんと分かってるのか? とフェルは心配になった。
「いいか、ソフィマ、初めて魔法が成功したその感覚忘れるなよ? それがお前の動機、刺激、そしてヒントになるから」
「うん!」
真剣にフェルの言葉を聞いた彼女はまた弾けるような笑顔を見せた。
「ふっ、かわいいやつめ」
「お、おっしゃん……」
下ろされて、フェルに頭が撫でられた彼女の表情は突然変わった。
「ん?」
彼女の視線はゆっくり上昇して、釣られたフェルは振り返るとーー
「ふふふ、いい先生ですね、フェルは」
さっきから黙ってフェルの魔法授業を聞いていて、今上空で腕を組んでいるルナの姿がそこにあった。
「おねえちゃんしゅうごい〜!」
「ふふふ、ありがとうございます。ソフィマちゃんもすごかったですよ」
「……」
「どうしましたか、フェル?」
「なんてことを……! くぅ……!」
「ふふふ、どうですか? 悔しいですか? 自分の魔法がーー」
「お前! なんでーー」
ルナを遮って、フェルは悔しそうに、強く言い出した!
「なんで黒タイツなんだ!? なんも見えねぇじゃねぇか!?」
何てことだあああぁぁ! と四つ這いになって地面を叩いた……。
短い肩出しワンピースを着ているから彼女は上空にいるのだ。本来パンツが丸見えになるはずだけど、彼女は黒タイツ着けているからそれはない。
ま、まあそれでも眼福になるはずだけど? 多分?
「っ! きゃあっ!」
驚いて慌ててワンピースの裾を両手で抑えるため、集中が途切れたルナは落下した!
「おっと! だめだぞ? しゅうちゅーー」
ビッタン!
「ば、バカですか!? バカですね!」
「いでぇ……」
素早い動きで反応したフェルはすぐ彼女をキャッチして注意しようとしたけど、ルナのビンタが先に物を語った!
「は、早くおろしてください!」
「ちょっ、暴れるなよ! 下ろせばいいだろう?」
「おねえちゃん、ダメだぞ! しゅうちゅうしないとまほうがとかれりゅんだから!」
ルナは下ろされた直後、フェルの真似をするソフィマにカミカミだけど、説教された。
「おうおう、もっと言ってやーー」
「……!」
「はい、ごめんなさい……」
頬を啜りながら冷やかしを飛ばそうとしたフェルはルナの鋭い目に睨まれて黙ってしまった。
結局その後三人は一緒に魔法の練習をやることになった。
ルナ「さっき見たことを忘れてください!」
フェル「いやいや! 今夜のーーなんでもありません!」
ルナ「よろしいです!」
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