24。かわりがいるならまた作るぞ?
2025年4月8日 視点変更(物語に影響なし)
「う、うぅ……?」
目覚めたルナの視界に最初に入ったのは知らない天井だった。
(ここは……?)
上半身を起こした彼女は周りを見渡す。
(まさに客室という部屋ですね……)
そこそこ広い部屋にベッド、その右側にナイトテーブルと椅子、そして壁に洋服タンスしか置かれていない、ミニマリストの部屋だ。
(二階、ですね……)
ベッドの左側の窓から木々の天辺とオレンジ色に染まっている空が見えて、それらを踏まえてルナはその結論に至った。
(病院、ではありませんね)
医療機器が見当たらない事に彼女はその可能性も除外した。
「ーーきゃははーー」
「……?」
思考の海へ旅立ったルナは外から微かに聞こえる笑い声に連れ戻された。
ベッドから降りた彼女は窓越しに外を見ると庭に楽しそうに肩車されている子供と、それをしている人が見える。
子供の方はメイド服を着ていて、獣耳とふかふかそうな尻尾がついている。
(獣人?)
ルナにとって獣人は珍しい種族だ。
差別の問題もあって、レヴァスタ王国では獣人族はあんまり見かけないのだ。
カチャ。
しばらくぼーっとして庭の様子を見ていると背後からドアが開かれる音がして、ルナはすぐ振り返った。
「もう起き上がれますか?」
「……あなたは?」
部屋に入ってきたのは綺麗な獣人の女性、ダルミアだった。
「この屋敷の使用人、ダルミアと申します」
警戒しているルナをよそにダルミアは自己紹介して頭を下げた。
「聞きたい事は沢山あるでしょう? 付いてきてください」
「ちょ、ちょっと待ってください」
自分の呼び掛けを無視したダルミアにルナは慌てて追う。
▽
「こ、これは?」
「かき卵スープです。あなたは二日間ほど寝込んでいまたからこれが一番かと」
「え!? 二日間!?」
一瞬で魔力が全部持っていかれて、完全に枯渇状態になったから目が覚めるまで時間が掛かったのだ。
「さあ、遠慮しないでください。主を呼んでいきますから、少々お落ちを」
「……」
ダルミアが食堂から出るとルナはしばらく黙った後スープに口にした。
(お、美味しい!)
二日間寝込んだから本人は気付いていないだけで実はお腹が空いていて、彼女はスープに夢中になってしまった。
(……主を呼んでいくと言いましたけど、一体だーー)
カチャ。
早くにも完食したルナは暇になって窓ガラス越しに外を眺めながら考えていると食堂のドアが開かれた。
「気分はどうだ?」
「っ! サンダーボーー」
そして入ってきたのはフェルだと認識した途端、ルナは立ち上がって魔法を発動しようとしたけどフェルは一歩速かった。
「ディスパース」
その一言と共に彼は突き出して開いた手を閉じて、その瞬間ルナが魔法を発動する為に集めた魔力は一気に消し飛ばされた!
「っ! なんですか、今の!?」
魔力の塊を潰す魔法、〝ディスパース〟はディアのルーンブレイカーと違って相手の魔力に自分の魔力をぶつけるではなく、相手の魔力を自分の魔力で包み込んで押し潰す。
まあ、最後の結果は同じだけどな。
「落ち着けって、お前に害を加えるつもりはないさ」
自分の魔法が知らない術に消された事に驚愕しているルナを無視して、フェルはさっきルナが座っていた席の向かいに腰を掛けて、テーブルに頬杖をついて呆れた顔で彼女を見る。
「美味しかったか?」
「……」
「かわりがいるならまた作るぞ?」
頬杖しているままルナが食べたスープのボールを指したフェルは問うた。
「っ!」
自分が美味しいと思っていて完食したスープ、それは誰が作ったのかフェルの質問から悟った途端ルナは赤面になった。
「席についたらどうだ?」
「……はぁ〜」
勧められた席に着いたルナは自分を落ち着かせた後、フェルを見る。
「色々疑問あるだろう? 聞こうじゃないか」
「……では、ここはどこですか?」
「俺の家だ」
確かに答えてくれたけど、ルナからしたらそれだけですか? って感じだ。
「ん? どうした?」
「もう少し詳しく説明してくれませんか?」
「あー、ここはロダール女王国の辺境にある俺の家。これでどうだ?」
「えっ!?」
ロダール女王国、大陸の遥か北にある国だ。
レヴァスタ王国からだと数ヶ月間離れていて、そんな遠い国にたった二日間で移動した事にルナは驚いた。
(そうでした! 彼は転移魔法使いでした!)
そして直ぐに理由を思いついて、納得した。
「コロコロ表情を変えてどうしたんだ?」
表情を保っているつもりだったけど、全然出来ていないルナを見てフェルは首を傾げる。
「私を、どうする気ですか?」
「いや何も? むしろこっちが訊きたい」
フェルの言葉の意味が分からないルナは内心で疑問を覚えた。
「他に質問は?」
「勇者パーティーは、どうなりましたか?」
「さあ? 知らん。生きてるだろう」
最後に見た光景はライトドラゴンのブレイズだから、ルナはその後のこと全くしらない。もしかして勇者たちは自分が戦っていたライトドラゴンとミシーで戦闘に入ったのでは、と彼女は思っていたのだ。
「ど、どうして私はここに?」
しかしその仮説に突然違和感を感じて、彼女は思い直した。
「そうだなーー」
考え素振りを見せたフェルは立ち上がって窓際へ歩き出します。
「倒れかけたお前を見つけてそのままここに連れて来たのさ」
「ま、まさかあのライトドラゴンを倒したのですか!?」
いくらフェルが強くても流石それは無理だとルナは思っているから、彼女の言葉に疑いが含まれているのだ。
「いや? 俺の知り合いだからそれはないだろう?」
「〝だろう〟と言われましても……」
そんな事知るわけないよと言わんばかりにルナ呆れている。
「で、では、ドラゴンは?」
「この時間なら……散歩してるかな? もうすぐ帰ってくると思うぞ?」
「……散歩? 帰る?」
あー、言葉だけでならフェルはさっきから何言っているか理解出来ないだろうな。
事情知らないし。
「勇者一行の事は知らん、お前を見つけたあと直ぐに転移したからな」
「そう、ですか……」
ドラゴンはミシーへ向かわなかったとフェルの言葉から何となく悟ったルナは密かに安心した。
「なぜ私を助けたのですか?」
しかしこればかりは理解できない。
自分を襲って危うい殺した人、正確に言うと集団の一人を助けたとか、ルナからすると何か裏があるしかない。
「人を助けるには理由なんているか?」
全く正論で返して、フェルは窓から空を見る。
「俺は善人じゃないが人を助けれるなら助けたい、まあ助けられたくないならそれはそれで別にいいけどな」
「……」
「しばらく休むといいさ、詳しい話は夕食で話す」
「ちょ、待ってください」
そう言い残して食堂の出口へ歩いているフェルはルナに止めれた。
「なんだ?」
何のために自分を助けたのか知らない、理由なんてないかもしれない。しかし自分が今こうして生きているのは彼のおかげ、それが事実だとルナはちゃんと理解している。
だから彼女はーー
「ありがとう、ございました……」
「……」
素直に礼の言葉を述べた。
「……ふん、いいさ」
そんな彼女にフェルは口の先端を上げて踵を返して食堂を後にした。
ルナ「あなたは料理上手なんて意外でした」
フェル「お? つまりさっきのかき卵スープは美味しかった、と」
ルナ「そそそ、そんな事言っていません!」
フェル「はいはいはい」
ルナ「っ!!!」
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