22。幕間 このおっさん顔は怖いけどいい人だ
2025年4月1日 視点変更(物語に影響なし)
「ぎゃあああぁぁ!!!」
「た、助けてくれええぇぇぇ!!!」
門が壊れて、火に飲まれている建物、人間と魔物の死体という町の状況ははっきりと町の外にいるディアたちの目に映った。
「遅かったのか!?」
ルナを置いて急いでミシーに戻るつもりだったディアたちだけど、魔物の数が想像より多かったせいで予想以上時間が掛かってしまった。
あれから既に三日間が経ったのだ。
「……そうだ! フィリー!」
「お、おい! ディア!」
「南だ! 南の門に行け! そこで落ち合おう!」
友人の事を思い出したディアは勇者たちにそう言い残して燕の宿の方へ走り出した!
「フィリー! いるか!? 叔母さん、叔父さん!?」
全力で走ったディアはすぐに宿に着いて、燃えて壊れかけている宿の中に危険を顧みずフィリーと彼女の家族を探し回った。
(……よく考えたらもう避難したよな)
フィリーのことだ、きっと情報を既に持っているだろう、と返事はなく一回宿から出たディアは自分にそう言い聞かせ、南方へ歩き出すーー
「うわぁぁぁぁぁ!!! ママ、起ぎで!!!」
ーーのつもりだった彼女の耳に泣き声が聞こえ、その方向に行った彼女の目には血溜まりの中に倒れている女性を揺さぶって、泣いている小さな女の子の姿が入った。
そして他にはーー
「ぐぅらあぁぁ!」
一匹の虎の魔物がいて、女の子を襲い掛かっている!
「危ない!」
時間との勝負! 危険を知らせたディアはすぐに駆け抜けた!
「ーーっ! ミラージュ!!!」
体内の魔力を操って酸素を筋肉に運ばせ、残像が残せるほどの速さで移動を可能にする身体強化魔法、〝ミラージュ〟だ。
瞬間移動にも似てるこの魔法だけど、無理矢理に筋肉を働かせるから体に負担が大きく、鍛えているディアでさえこの魔法を一、二回しか使えなく、使ったら確実に次の日に体が痛むのだ。
最早この魔法でしか女の子を虎の牙から助ける方法がないと判断した彼女は自分にその魔法を掛けた!
シュバッ!
「はぁ、はぁ……」
女の子に飛びついた虎の魔物は一瞬で真っ二つになった!
「大丈夫か?」
「うぅ……ママがぁ……うわぁぁぁ!」
息を整ったディアは女の子に振り向いて、彼女の姿を見た女の子は血まみれの女性、母を抱いてまた泣き出した。
(……まだ助けられる!)
しゃがんで、女性はまだ息をしていると気付いたディアは魔法薬を二本取り出して、一本はさっきの虎の爪で出来た女性の背中にある傷に掛けて、もう一本は女性に飲ませた。
魔法薬というのは教会の神官が回復魔法を水にエンチャントして、ガラス瓶に保存する物だ。
普通の薬と違って効果はすぐ見える。
(そういえばあいつの魔法はちょっと違うんだな……)
見た目からもすでに違うのだ。
フェルのヒールは灰色を発光するに対して、ポーション及びこの世界の回復魔法は大体緑色の光をしている。
原理と仕様は言うまでもない。
「これでしばらく大丈夫だ。さあ、ここから逃げよう」
「ま、ママは?」
「……大丈夫だ、お母さんは私が背負っていくから、さあ!」
一瞬幻想の森に見捨てた自分の姉を思い出したディアは軽く頭を振って、しっかりしろ! と内心で自分に言い聞かせた後、女の子の母を背負った。
「さあ、行くよ!」
「う、うん!」
片手で襲いかかるモンスターを屠りながら、ディアは女の子と一緒に南方へ進む。
▽
「ディア様! ご無事でしたか!?」
南の門前に着いた途端、ハールは慌ててディアの元に駆けつけた。
「ああ。状況は?」
「勇者様たちのおかげで何とか持ち堪えています」
ここ南門は幻想の森から最も遠い場所だ。だからもし避難するならここだろうと思ったディアは先に勇者たちをここに行かせた。
そしてその推測は当たって、先に着いた勇者たちは探検者と共にここを何とか防衛出来た。
「その子は?」
「ヒィッ!」
ハールの視線を受けた女の子は咄嗟にディアの後ろに隠れた。
「ああ、さっき街の中で会った子だ。この子と彼女の母親を任せても大丈夫か?」
「はい、お任せください!」
「お、お姉ちゃん……」
会話を聞いた女の子はディアの手を引いて不安そうに彼女を見上げる。
「……大丈夫だよ、このおっさん顔は怖いけどいい人だよ」
一瞬どうしたと思ったディアだったけど、ハールを見て理解した。
「ディ、ディア様ーー」
「ちょっと黙っていろ」
「は、はい!」
抗議しようとしているハールはディアに睨まれて黙ってしまった。
「だから彼に付いていきなさい。君とお母さんを守ってあげるでしょう」
「……うん、分かった」
ハールの顔をしばらく見ている女の子は頷いた。
「あ、そうだ、フィリー見なかったか?」
一緒に治療所に向かっていながらディアはハールに訊いた。
「フィリー嬢ちゃんならもう家族と共に街を離れました」
「え?」
「被害を最大限に抑えられるのも彼女のおかげだと言えます」
「どういう事だ?」
「実はーー」
二日前、フィリーは街中を駆け回って街が滅びると言い広めた。彼女の言葉を信じる人は町を出て、信じない人は彼女をバカにして残った。
そして彼女自身も家族と共に昨日の朝エンダール王国へ向かった。
(何でエンダール王国……いや、誰から情報を? まさかあいつから?」
自分たち聖剣フォレティアを回収した人でさえ町が滅びる未来を疑っていたのに、フィリーは確信しているかのようにその事を言い広めた。
いくら酒場で働いて、色んな客から情報を聞ける彼女でも流石にこの情報を知って予測したのはディアが知っている限りフェルのみだ。
(……あり得るな。三日前酒場であったんだ、可能性はゼロじゃない)
まあ、フェルもその客の一人だしな。
「ディア様?」
「ん? ああ、すまん、何でもない」
考え込んで足を止めたディアは再び歩き出す。
その後しばらく魔物と激しい戦いが続いて、ディアと勇者たち、そして探検者たちは何とか南の門だけ守りきった。
世の歴史に刻まれたのだ、今日この日にレヴァスタ王国の地図から数町と村が消えて、無数の命が亡くなった事を。
ハール「私の顔、そんなに怖いのですか?」
ディア「その喋り方が何とかしてくれるさ」
ハール「ディ、ディア様!?」
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