21。幕間 いやぁ、あまりにも柔らかいからさぁ
2025年3月31日 視点変更(物語に影響なし)
「アイスシールド!」
ドゴーン!
迫ってきている炎は薄青色のドームに阻まれた!
「そこまでにしておけよ」
倒れかけていた女性をキャッチして、フェルは背後にいる巨大なドラゴンに言った。
「るぅあ?」
「いい加減普通に話したらどうだ、りゅうじぃ?」
気を失った女性、ルナを横持ちしたフェルは少し圧をかけてドラゴンに振り向いた。
『……ふーむ、その呼び方、フェル坊か?』
「久しぶりだな、元気ーーまあ、訊くまでもないか? てか、元気すぎるだろう?」
『フォホホホ! ワシを誰だと思っておる?』
「へいへい、元気でなによりだ」
りゅうじぃはフェルの以前からの知り合いで、彼が世界を一周している時ちょっとお世話になった、気の良い竜のお爺さんだ。
(ルナには荷が重すぎるだろうなぁ)
ライトドラゴンはこの世界で最強のドラゴンと言われているドラゴンの一種。
そしてりゅうじぃは伝説に出てくる勇者と共に魔族を追い払ったドラゴンだ。
そんな相手をしていたルナはよく頑張ったとしかフェルには言葉がない。
『ところで、フェル坊、なぜその女子庇ったのじゃ? その女子は仲間と共に剣を抜いたのじゃぞ?』
「知ってるさ」
『ぬ? 知っておるのか?』
「ああ、とりあえずドライアードともう一人の人間を呼ぶぞ?」
ドライアードたちと一緒にいるはずのフェルがここにいるって事は何処かで彼女たちを置いたのだ。
「え?」
「お、王! せめて一言を言ってください」
「いや、言っただろう? ここに駆けつけた前に」
「そうなのですがーーむ? 爺さんか」
現れて早々抗議したドライアードはフェルの後ろにいる巨大なドラゴンことりゅうじぃを見て、いやそうな顔になった。
『フォホホ! 相変わらず美人じゃのう、ド嬢ちゃん』
「その呼び方はやめてくれないか?」
と、ドライアードは更にいやな顔になった。
「はぁ……仲良くやってーーん? どうした、レイア?」
「ふぇ!? あ、えっと……」
さっきからりゅうじぃを見上げているレイアは慌しく視線をりゅうじぃとフェルの間に行き来している。
『なんじゃ、この嬢ちゃんは?』
「ヒィッ!」
りゅうじぃに睨まれると彼女は咄嗟にフェルの後ろに隠れた!
(お? ビックリしたか? 分かるぞー)
りゅうじぃは一見怖そうに見えるけど、さっきも言った通り気の良いお爺さんだ。
しかしレイアはそんな事を知るはずがない。
「さっき言ったもう一人の人間だ。っていうかいい加減に姿変えろよ、可哀想だろう?」
『ふーむ……仕方ないのう』
ポフッ!
と、突然りゅうじぃの姿を覆われる程の煙が出た。
「どうじゃ?」
そして煙が晴れた時そこには立派な髭と白いローブを着ている老人がいた!
「……なあ、りゅうじぃ、こういう場合自分を小さくて可愛い姿に変化するんじゃなかったのか?」
あー、そうしたらマスコットになれるんじゃないかって? 確かにフェルのいう通りだけどーー
「なぜじゃ?」
りゅうじぃには分からないのだ!
「……忘れてくれ。それより行くぞ」
説明しても面倒だし、意味がないからフェルはツッコむのをやめた。
「剣を取り戻さなくても大丈夫かのう?」
「もう遅いんだよ」
今更剣を祭壇に戻しても魔物たちはすでに暴れ出したから無意味だ。
森が元通りになるまでどれくらい時間が掛かるのも分からない。間に合わないということだけは確実だ。
「滅ぶじゃろうな、周縁が」
「ああ……」
フェルの説明を聞いたりゅうじぃは遠い目をしていて空を見上げる。
幻想の森は超広大な森だ。中に様々な生き物が生息していて、その中に魔物という生き物がいる。
彼らはほぼ人間と同じく、静かに暮らしたいものがいたら、暴れ出したいものもいる。自分たちの平和が蹂躙されたら怯えて逃げるものがいたら、反撃するものもいる。
んで、今回は後者の方が多いのだ。
「どうするじゃ?」
「なにも。帰って寝るだけさ、やれる事はやったからな。りゅうじぃも来いよ」
「ほっほっほ、良かろう! どうせやる事はもうないじゃからのう」
「……すまんな、りゅうじぃ」
昔の勇者は全ての戦いが終わった後、何もない所に祭壇を立てて自分の得物である聖剣フォレティアをその祭壇に刺して、一緒に戦っていたりゅうじぃに聖剣のことを頼んだ。
やがて聖剣の力によってこの森、幻想の森が出来て、色んな生き物がやってきた。
その過程をずっと見守っていたりゅうじぃにとってここ家なのだ。
しかし聖剣フォレティアが祭壇から抜かれたから、その家は消えて、昔の相棒との約束も破ることになった。
フェルはそんな事を気にして本当に申し訳ないと思っている。
「お主が謝ってどうするのじゃ?」
「いや、あいつらを止められなかったにはちょっと罪悪感が、な」
「王が謝る必要はありません」
「ふん、お主が本気を出さなかった、いや、出せなかったじゃろう?」
「……」
その言葉にフェルは目を逸らした。
「加減はまだ甘いのう、フォホホ」
「え? どういうこと、フェル?」
「い、いや、何でもないぞ? そ、そんな事よりお前はどうする?」
「王、見苦しいですよ」
無理矢理話題を変えたフェルにドライアードはじーっと目で見ている。
「あたしはーー」
「付いてくるなら構わないが、しばらく戻れなくなるぞ?」
そもそもフェルはミシーに戻るつもりはないから、もしレイアが彼についていくなら自力で戻るしかない。
「残るならフィリーの所まで送ってやるよ?」
「……」
「まあ、時間をやるからよく考えろ」
考える時間がいるだろうとフェルは悟って、ちょっと離れた所でドライアードとりゅうじぃと話す。
「付いていく、あたし付いていくわ」
そしてしばらくするとレイアは決意した顔で答えを出した。
「それでいいか?」
最後の確認として訊いたフェルに、レイアは頷いた。
「よし、行くぞ!」
「ところで、王」
もうここでやる事はない、といざ魔法を準備しようとしたフェルはドライアードに止められて問いかけられた。
「いつまでその女を抱えるつもりですか?」
「ん?」
そう、今までフェルはずっとルナを抱えている。
「いやぁ、あまりにも柔らかいからさぁ、つい」
ルナは良い体しているからな。
「お、王……」
「あんたね……」
「ずるいぞ、フェル坊! ワシにも抱かせてくれんか!?」
「ああぁぁ! うるせぇ! 行くぞ!」
一人変なこと言っているけど、フェルは三人を無視してテレポートを発動した。
フェル「っていうか煙いる?」
りゅうじぃ「なぬ!? ワシの裸みたいのか!?」
フェル「言葉!!!」
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