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勇者? 人違いです  作者: Adhen
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2。俺、二週間後たぶん無職にクラスチェンジするぞ、やったね!

2021年2月20日 マイナー編集

2021年3月20日 マイナー編集

2025年2月19日 視点変更(物語に影響なし)


「あっ……!」


 自分に起こった事を思い出した男の目を広く見開いた。


(そうか……事故に遭ったな。あの爺さんはーー待て、あの爺さんショックで心臓が止まってーーいやいや、きっと大丈夫だろう、うん!)


 ちゃんと避けたし、と昨夜のお爺さんの事を心配している男は自分に言い聞かせて頷いた。


(って事はこれ夢? 昏睡状態にでも陥ったのか?)


 映画にたまに出るシチュエーション。自分が普通に生きていると思ったら全部夢で実は自分が昏睡状態に陥って結構な時間が経ったという。


「と、なるとーー」


 そう考えた男は身震いしてーー




「休暇だ!」




 ヒャッハー! とあんまりの嬉しさに跳ねたのだ。


 まあ、昏睡状態に陥ったらしばらく休暇になるだろうからな。ここ最近ずっと誠意(・・)を見せた男にとって嬉しい事だ。


 もっとも昏睡状態はめでたい事じゃないけどな。


「はっーーコホン! くっ、許してくれ社長……しばらく休ませていただきます!」


 夢の中での謝罪している、いい社員だーーと思うだろう? 謝っているけど男の顔は嬉しそうだぞ?


(クビにならないよな? でもいつ起きるか分からないし……多分ーー)


 そこは会社次第だ。いい会社はしばらくクビしないけどあまり時間が経つと……向こうはただで給料を出すわけないからな。


 男もそう思って俯いてしまった。


 そしてーー




「二週間かな? 俺、二週間後たぶん無職にクラスチェンジするぞ、やったね!」




 とポジティブに男は捉えたけどーー 


「はぁ……」


 自分の言葉でまた落ち込む。忙しい人である。


(この先どうなるのかな……? 今月の家賃まだ払ってないし)


 まだ払っていない、っていうか払えるかどうか分からないこの状況だから男は申し訳ない気持ちになった。


(美人の大家さんに悪いことしたな)


 ……彼の場合は大家が美人だからこその罪悪感だけどな。


「そんな事考えても仕方ない! せっかくの夢だ、現実はどうでもいいや!」


 それにその罪悪感はすぐ消えたし。


「とりあえず夢だから、全部俺の意思次第だな?」


 お試しに五メートルジャンプしたい! と男は決めた。


(もし出来たら確実に夢だな)


 そう、ただ適当にでそうしたい訳じゃないのだ。


 夢だから自分の意思次第。もし自分の意思が通らないなら夢じゃないかもしれないと彼は思った。


「いざ、ジャンプ!」


 両足に力を入れて、男は全力で跳んだ! その結果はなんとーー




「ダメじゃねぇか!」




 一メートルあるかないかすら怪しかった……。


「お、落ち着け……すぅーはぁー」



 深呼吸を数回して男は自分を落ち着かせる。







 全力で走ったり、石を投げたり、岩を持ち上げたり、あれから男は数時間掛けて色んな事を試した。


(都合の悪い夢だな……)


 全部ダメだった。


 超高速で走れないし、投げた石も数メートルしか飛ばないし、持ち上げた岩はすごく重たかった。全部現実と変わらない自分だと男は認めざるを得ない結論だった。


 何よりーー


(手、痛い……)


 そこら辺の大木を全力で殴ったからの痛みは今も彼の右手に残っている。


 ぐぅー、とそこで音がした。


(……本当、都合の悪りぃ夢だな)


 男は地面に大文字になって数時間何もしなくてただ空を眺めていると空腹を意味する音が彼のお腹から出た。


 自分の意志通りに全然行かなかった上に空腹まで感じさせる夢に男はうんざりしそうな顔になって起き上がる。


「とりあえず何か食べるもの探そうか」


 完全に空腹になったら動けなくなるかもしれない。やけにリアル過ぎるこの夢だからこその恐れである。


 それで食材調達するために釣りーーは得意分野じゃないから男はすぐその選択肢を捨てた。狩りも何らかの道具、武器がいるからそれも論外だから、彼は果物を調達することにした。


(夢だからイメージから武器を作らせてくれよ……そしたらア○チャーになれるのに……)


 とくだらない事を考えていながら男は森の中に入って、日が暮れる頃にはーー


「……これ本当に大丈夫だろうな?」


 川で拾った果物を洗った後、いざ食おうとすると男は躊躇っていた。


 無理でもない。今彼の手の中に毒々しい色の果物があるから。


「まあ、夢だしーーっ! 酸っぱっ!」


 しかも味は酸っぱくてとても生で食える物じゃなかった。


 あまりにも酸っぱかったから男は思わず顔を顰めて、次の食物を取った。


(これ砂糖黍(さとうきび)だよな?)


 外見は砂糖黍だ。


「味がない……」


 しかし全然甘くなかった!


(これたぶん(いかだ)とかそういうものに使うんじゃない? さっき川で洗った時浮いてたし……)


 もはや砂糖黍というよりたけである……。


「っ! まさかっ!」


 男はさっき自分がやった事を思い出して突然閃いた!


 彼は砂糖黍もどきを手にして川まで来て、砂糖黍もどきの葉っぱを落として数部分に分けてから川で表面だけ洗った後、その砂糖黍を齧ってーー


「何も変わらねぇじゃねーか!」


 さっき表面洗ったのに男は水が加われたら味が変わるじゃないかと思っていた……普通にバカだった!


「とんだ夢だな……色々試した結果ぜんぶ現実と何も変わらない。せめて魔法ーーそうだ、魔法!」


 果物の酸っぱさを思い出したせいで変な顔になった男は自分が試した事の中に魔法を撃つという事はないと気付いた。


「もしかしてなれるんじゃないか!? 三〇歳になったらケイケンがない人にのみ授けるあの称号に!」


 つまり〝魔法使い〟だ。


 男は女性と付き合う事あるけどそっちのケイケンはないのだ。


「とりあえずーー」


 再びやる気が灯された男は目を瞑って頭の中にゲーム中定番の魔法と言われているアレを思い浮かんで、イメージが鮮明になったその瞬間ーー




「ファイアボール!」




 男は魔法名を叫んだ! 同時に右手を格好良く前に出して魔法が成功にーー


「おおおおぉぉー! いい加減にしろよ!!!」


 発動しなかった。


 これもダメかと思った男は悔しくて叫ばずにいられなかった。


(は、恥ずかしい!!! 誰も居なくてよかったよ!)


 さっきの男は側から見れば何かを叫んで手を突き出した変人でしかないのだ……。


(お、落ち着けぇーーふぅ、他の可能性はあるかもしれない)


 たまに魔法の原理を理解しなければ魔法が発動しないというケースはあるんだよなぁ、と男は漫画、小説、アニメからの知識を持ち込んだ……。


(物は試しってな)


 恥で蹲っていた男はやっと自分の冷静さを取り戻すと立ち上がって再び目を瞑る。


(ファイラボール、つまり火玉、火の塊……)


 火とは燃料、酸素、熱、これらがなかったら火を起こせない。燃料である水素と酸素は空気の成分に含まれているけど、空気の中に他の元素があるから空気をそのものに熱を追加したら燃えないのだ。


(空気の中にある水素と酸素を抽出しないと)


 男もそんな事理解していて、頭の中で空気に含まれている水素と酸素を抽出して自分の(てのひら)に集めるイメージをする。


(あとは熱なんだけどーー)


 そして肝心の熱なんだけど、今男の手持ちに熱源はない。


「……気合いだ、気合い!」


 自分を激励するために男は目を瞑っているままそう叫んで、さっきイメージしていた掌にある水素と酸素に熱のイメージとしてオーラを追加するとーー


「……っ!」


 ゆっくり目を開けると彼が突き出した右手の掌に小さな火玉があった! 辺りが暗く始まったからその火玉が発している光が鮮明に見える。


「や、やった、やったあああぁぁ!」


 ここまで期待がずっと裏切られた男にとってそれはものすごく嬉しいことだった。


「ってあれ?」


 そのせいで集中が切れて魔法がどんどん大きくなっていて、同時に男の体内の中心から何かが掌に高速で流れている。


「ま、まずい! 消せっ! 消えろおぉぉ! 消せない! ならーー!」


 火玉がバスケットボールより大きくなっていて、このままだとまずいと思った男は大慌てで火玉を消そうとしたけど火玉が全然消えない。


 そこで果物を洗う時の川が視界に入って、彼はすぐに火玉を川に打ち込むと決めた。


「離れーーっ! おまっ、接着剤でくっつかれたのかよ!? いいから離れろおおぉぉ!」


 手を皮に振ったけど火玉が放たれなかった。まるで生き物かのように男は火玉に文句を言って、何度も手を振るとーー


「あっ! やっとーー」




 ドーン!!!




 ついに火玉が手元にから放たれて川に打ち込まれて、その直後大爆発がして川が一瞬の間乾いた!


「……か、火事にならなくてよーー」


 緊張感から解放されて、川を見ながら胸を撫で下ろそうとした男は急にふらついて、前へ倒れ込んだ。


(くっくっく、ダ○クフレイムマスターになれーー)


 と男はそこで意識を手放した。



 その前にくだらない事考えていたけどな……。

本文の中にいくつかのマークがあります。それぞれの意味は:


▽  次のシーンへ切り替えます

△  フラッシュバックします


となります。

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