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勇者? 人違いです  作者: Adhen
19/127

19。そんなに速く食えないよ!?

2021年9月25日 マイナー編集

2025年3月30日 視点変更(物語に影響なし)


「どうしてこうなった……?」


 と、フェルは呟いた。


 勇者一行に負かされて負傷しているフェルはドライアードと共に宿に転移した。


 部屋でドライアードに傷を治してもらっている所、レイアが勝手に入ってきて続いてフィリーまで来た。


 そしてドライアードに頼まれた(・・・・)フィリーは部屋に食物をいっぱい持ってきた。


 ではさっきのフェルの呟きの原因なんだけど、それはーー


「ドライアード様、その男から早く離れてください」


「何度も言ってやる、いやだ」


「あの……フェルさん、どうぞこれを」


「ありがとう」


 レイアとドライアードのやり取りを見ているフェルにフィリーは焼肉を勧めた。


 彼らは今フェルの部屋で床にシートを敷いて食事をしている最中だ。


 位置はフェルの隣にドライアード、彼女の正面にはレイア、そしてフェルの正面にフィリーが座っている。


「お前らなぁ……食事の時ぐらい静かにしろよ」


 これである。


「ドライアード様から離れれば静かにするよ?」


「ふん! 逆にワレの方から近付くわ!」


「あの、フェルさん、これもどうぞ」


「あ、ああ、ありがとう」


 また始まったドライアード達の言い合いにフェルは溜め息を吐いて、そんな彼にフィリーは食物を勧めた。


「てかさ、なんで当然の様に一緒に食事をしてるんだ、レイア?」


「そうだそうだ!」


「お前子供か!?」


 うんうん、と頷いているドライアードにフェルは突っ込んだ。


「な、なによ? 文句ある?」


「いや、別に文句とかーー」


「ワレにはある!」


「あのなぁーー」


「フェルさん、これもどうぞ」


「フィ、フィリー!? そんなに速く食えないよ!?」


「えっ!? あ、はい、すみません!」


 ドライアード達に何か言おうとしているフェルはまた皿を差し出したフィリーに遮られた。


 自分の前に並べられた皿を見たフェルは彼女にストップを掛けたら彼女は申し訳なさそうな顔になって俯いた。


「い、いや、いいんだ」


 あぁ! そんな顔すんなって! 食えばいいだろう!? と彼女を見てフェルは内心でヤケクソになって、彼はフィリーの手から皿を取って食べ始めた。


「は、はい!」


 嬉しい気持ちになったフィリーはともかくーー




「ーー知らないだけだ!」


「た、確かにそうですけど……で、でも!」


「王に仕えるのがワレらの本望だ!」


「で、ですがーー」


「うるせえぇぇぇ!!!」




 さっきから訳がわからない言い合いをしているドライアードとレイアがあまりにもうるさくて、頭が痛くなってきたフェルはついにキレた!


「し、しかし、王!」


「な、なによ!?」


「お前ら議論したいなら他所でやれよ! 静かに食事をしたいんだ!」


「……申し訳ありません」


「……ごめん」


 二人そろって謝罪して俯いた。


「分かればいい」



 と、その後何事もなく食事はスムーズに進んでいた。







「さて、ちょっと出かける」


「お供します」


「ちょっと、あんたにまだ訊きたい事あるのよ!」


「後にしろ。フィリー、家族は?」


「え? えっと、下にいると思います」


「なら家族と共にこの街から去れ」


「「え?」」


 フェルの突然の言葉にレイアとフィリーは困惑している。


「ど、どういうこと、フェル?」


「聖剣フォレティアがもうすぐ祭壇から抜かれるんだよ」


「っ! あんた! なんで止めないの!?」


 その告げられた言葉はどんな意味をするか知っているレイアはフェルの胸蔵を掴み掛かった。


「……」


 止めようとしたけどな……と言ったら言い訳になって、まるで責任から逃げるかのように聞こえるからフェルはただ黙っている。


「四年前あたし達止めたでしょ!?」


「四年前?」


 力強く訴えているレイアにフェルは目を広く開けた。


「な、なに?」


「いやぁ、まさかあの時の少女だったとは」


「今まで覚えてなかったの!?」


「ははは、すまんすまん」


「照れるんじゃない!」


 褒め言葉じゃないのに後ろ頭を掻いて謝罪したフェルにレイアは頭を抱えたくなった。


「まあ、今回は四年前と違って勇者、国の宮廷魔術師、凄腕の探検者、そして数名の護衛が相手なんだよなぁ」


「くっ! それでも何でここにいるのよ!?」


 負傷したからここに戻るに余儀なくされたけど、レイアはそんなこと知らない。彼女の目からフェルは状況を知っているのに宿でのんびりしている、ただの怠け者だ。


「お主、何も知らなーー」


「いいんだ、ドライアード」


 そんな彼女に怒りを感じたドライアードはここにいる理由を言おうとしたけど、フェルに遮られた。


「今更そう言われてももう遅いさ」


「だからって……」


 悲しい顔で言ったフェルを見て、レイアは彼の胸蔵を掴んでいる手を力なく放して俯いた。


「あのー、どうしてここを出ないといけないのですか?」


 当然の質問だ。


 フィリーは親が経営している宿を手伝っているから色んな情報を客から聞かされる事が多い。


 しかし聖剣フォレティアと幻想の森の関係を知っているのはフェルは当然として、レイアたち、他にはディアたちレヴァスタ王国の偉いさんたちだけだ。


 だから彼女からすると自分が住んでいる街から出る理由を聞かせたいのだ。


「……街が滅ぶからよ、幻想の森の魔物たちによって、ね」


 聖剣フォレティアが抜かれたら森自体が消える、〝幻想〟の森だからだ。


 そうなると中に生息(せいそく)している動物と魔物たちは必ず表に顔を出すのだ。


「そ、それは大変! みんなに知らせないと!」


 フェルの代わりにレイアから説明を聞いたフィリーはやっとその危険性を理解した。


「フィリー、二日だ!」


「はい?」


「二日後大量の魔物が襲ってくるだろう。もし行き場がないなら、エンダール王国のルーゼンにあるディンゼール商会に行くがいい、俺の名前を出せば迎え入れるだろう」


「はい! ありがとうございます!」


 頭を下げた後、彼女は走って一階に降りた。


「……んで? これからどうするつもり?」


「そうだな……他の市、町、村を回ってこの事を伝えていくよ」


 幻想の森の周囲にある市町村(しちょうそん)はかならず滅びる。


 フェルは決して聖人ではないけど、悪人でもないのだ。


 助けられるなら助けたい、もし忠告されても聞き入れなかったら滅びるがいいと彼は思っている。


「ならあたしも行くわ」


「なんでだよ?」


「あんた一人じゃあ確実に詐欺師だと思われるわよ」


 まあ、当然だ。


 知らない人に家を捨てて逃げた方がいいと言われたら信じるはずもなく、詐欺師だと思われるだろう。


「顔よ、顔」


 しかしどうしてそうなるか分からないフェルは考えていて、まるでエスパーで人の心を読めるかのようにレイアは突然そう言った。


「意外と読みやすいわね」


「変わりませんね、王」


「う、うるせえなぁ!」


 喧嘩するばかりレイアとドライアードだけど、これに関して意見が一致している。


「い、行くぞ!」



 そんなに読みやすいのか? と思いながら、上機嫌な二人を連れてフェルは部屋を出た。

フェル「あぁ〜食えすぎた……」

フィリー「す、すみません」

フェル「あー、いや、フィリーはいいお嫁になるよ……」

フィリー「え!? そ、そうですか……」

レイア「騙されないでよ、フィリー!」



よかったらぜひブックマークと評価を。

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