18。いやです
2025年3月24日 視点変更(物語に影響なし)
ドゴーン!
時は少し遡って、ここは燕の宿だ。
レイアは燕の宿の看板娘、いや、看板女である友人、フィリーと話している最中に遠くから爆発の音が彼女たちの耳に入った。
「うわぁっ! なに、今の?」
ビクンとしたフィリーは音がした方向に一瞬振り向いた後、レイアに訊いた。
「いや、何であたしに訊くのよ?」
「それもそうね。んで? 今回はいつまで町にいるの?」
フィリーのその質問はまるでレイアがずっと旅をしていると聞こえるけど、実はこの四年間彼女はずっと幻想の森とミシーを行き来しているのだ。
森にいる事が多いけど。
「うーん、二日後また森に籠るわ」
「もう、もっとゆっくりしててもいいのに」
「それは出来ないって言ったでしょう? あの森にはーー」
「はいはい、自分の王子様を待ってるでしょう? わかったわかった」
森に大精霊がいるとレイアはフィリーに何度目か説明しようとしていたけど、いつものように適当にあしらわれた。
「全然わかってない!」
「まあまあ諦めたら? 四年間ずっと戻って来ないでしょう? 他にいい男沢山いるのに」
「だからそんなことーー」
「例えば三日前から泊ってるうちのお客様とか」
「興味ないわ」
「そう言わずに、ね?」
「今日はやけにしつこいわね」
まるで友人が自分の家に泊まり掛けに来て、夜のお約束の恋話を咲かせるかのように二人の女性が会話している。
「ロダール女王国から来たのよ? お金持ちに決まってるでしょう?」
「え? ロダール女王国から?」
レヴァスタ王国は大陸の中央のあるに対して、ロダール女王国は遥か北にある国だ。
距離だけあってもし二つの国の間に移動したいなら護衛と食物、長い旅に必要そうな物を揃う必要がある。
それらを揃うには決して安くないから、フィリーの中にフェルはお金持ちだ。
「どう? 興味湧いてきた?」
「ないない」
「そっか……じゃあ、あたしが貰うね?」
「好きにしたら? それより情報よ、何かある?」
「それよりって……女としてどうかと思うけど」
友人の未来が心配になってきたフィリーは呆れた顔で情報を言う。
「三日前に勇者たちは来たよ」
「……嫌な予感しかないけど?」
四年前フェルが言った事をまだ覚えているレイアにとって勇者の来訪は朗報ではなかった。
「そして二日前、あんたがよく行ってる森に出発したと聞いたけど、行き合わなかった?」
「え? それ本当?」
「その様子から行き合わなかったね」
ミシーから幻想の森まで二日間の距離があるから、時間帯から見ると確かにレイアが勇者たちに行き合う可能性は高い。
しかし森に行く道は沢山あるからすれ違わなかったのも有り得るのだ。
「……他には?」
まさかさっきの爆発音は戦闘の音? とレイアは内心で思って、次の情報を訊く。
「うーん、これと言った情報はもうないかな」
「……フィリー、念のためだけど」
しかし目ぼしい情報はそれだけで、しばらく黙って考えていたレイアは突然深刻な顔で言い出した。
「ん? どうしたの、急に?」
「……いや、やっぱり何でもないわ、忘れて」
考え直したレイアを変な目で見たフィリーはこの話は終わりにして最初の話題に戻った。
「本当に興味ないの? さっき言った男に」
「またそれ? ないない」
「夕食に必ず降りてくるから判断はその時にしてよね。身長は男としてちょっと低いけど結構イケメンよ、フェルさんは」
「……え?」
「どうしたの、レイアちゃん?」
「ち、ちなみに、そのフェルという人物はどんな外見してるの?」
「ん??? な〜に、レイアちゃん? もしかして気が変わった〜?」
「い、いいから、どうなの?」
ニヤニヤと悪戯顔しているフィリーを赤面になったレイアが促す。
「もう〜そうね、白髪混じった黒髪が印象的かな?」
白髪が混じったの黒髪、確かにそれはフェルのトレードマーク。
「そいつの部屋は!?」
「ふぇ? ど、どうしたの、急に?」
「いいから、部屋番号は!?」
「え、えっと、二一九ーーちょっとレイアちゃん!?」
部屋の番号を聞いた途端、レイアはフィリーの呼び止めをよそにして二階に上がってすぐに二一九号室に向かった。
(ここね……すぅー、はぁー)
部屋の前に深呼吸して自分を落ち着かせた後、レイアは勢いよくドアを開けた。
バン!
「やっと見つけたわ、フェ、ル……?」
入った途端、白いはずのベッドシーツの一ヶ所が赤く染まって、そのベッドの上にーー
「な、なななななにしているのよおぉぉ!」
伏臥位している上半身裸のフェル、そして彼の腰辺りの上に豊満な胸の元を覗かせているローブを着ている超美女が座っている、という光景がレイアの目に入った。
何より二人は疲れている顔をしている。
「ままままさかドライアード様とフェルが、そそそそういう関係……!」
「む? お主か」
「……知り合いか?」
冷たい目でレイアを見ているドライアードと、突然ドアが開かれて困惑しているフェル。
「今朝言っていた王の小屋に住み着いているレイアという女です」
「ふーん……」
説明を聞いたフェルはレイアを見て、顔を枕に埋めた。
「あ、あんたーー」
「レイアちゃん! お客様の部屋に勝手に入っちゃーーって、フェルさん!?」
遅れて付いてきたフィリーはドライアードとフェルを見て大声出した。
「ん? フィリーか……」
彼女の大声に反応したフェルは再び顔を上げた。
「そこのお主、飯と飲み物を持って来い、出来れば肉多めにしろ」
「え? は、はい! ただいま!」
混乱していながらもドライアードの注文を聞いたフィリーはすぐに行った。
「ドライアードや、人に頼み事をする程度じゃなかっただろう」
「頼みではなく、命令です」
「いや、だめじゃねぇか……」
後でマナーとか教えようと内心で密かに決意したフェルはレイアに視線を向けて話かける。
「んで? なんの用だ?」
「〝なんの用だ?〟じゃないわよ! あんたに色々訊きたいことがあるわ!」
「まあ、そう大声出すなよ……てか、誰?」
「とぼけないで!」
「いや、本当、どっかで会ったのか?」
え? 本当に覚えてないの!? とフェルの表情を見てレイアは軽くショック受けた。
元々人の名前と顔を覚えるのが苦手なフェルは流石に四年間が経過した今レイアの事を覚えている訳がない。
「ドライアード、そろそろ降りろ」
横になっているまま他人と話すのは礼儀にならないから、せめて座りたいと思ったフェルだけど、未だに彼の上に座っているドライアードはそのフェルの要望を聞いて、レイアとフェルを見た後、言った。
「いやです」
それはもうとっても素敵な笑顔だった。
レイア「っていうかあれ何なの?」
フェル「あー、貫かれた時の血なんだよ」
レイア「え!? どどどどういう意味よ!?」
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