16。えふぴーえす?
2025年3月19日 視点変更(物語に影響なし)
(あれぇ? 妙だな)
翌朝になってフェルは一人で幻想の森にある昔住んでいた小屋、旧拠点に転移して中に入るとそんな感想を抱いた。
(なんか俺が住んでた時より綺麗じゃない?)
誰か小屋に住み着いているかのように埃はない。
(でも二日前の夜、ディアと戦った時誰もいなかったよな?)
どういう事だ? と考えても答えが出ないからフェルは知ってそうな人を呼んでみる。
「ドライアード」
「お呼びですか、王?」
現れたらかっこいいなぁっと思って呼んでみただけだけど、実際に自分の背後に現れて、声を掛けられたフェルは一瞬びっくりした。
(……なんか部屋が明るくなってきたんだが?)
ドライアードが現れたその瞬間、部屋は明るくなってそれに気付いたフェルは嫌な予感を抱く。
(いやだぁぁ……ちょーう振り返したくないよ……)
それでも彼は勇気を振り絞って体ごと振り返してーー
「ーーっ! 光を消せ!」
すると彼の視界に光玉ーーじゃなくて、ドライアードの姿が入った!
「あ、失礼しました」
「あ、じゃねぇ! 目が痛いわ!」
手で自分の目を塞いだフェルは抗議した。
「FPSゲームで閃光手榴弾を食らったような感覚だったよ!」
「えふぴーえす?」
「いや、何でもない」
緑色の光が消えて、代わりに長い緑色のストレート髪と緑色の瞳、袖なしの胸元を覗かせている長い薄緑ローブを着ている美人、ドライアードが現れた。
「うむ、それでいい」
その姿を見てフェルは満足そうに頷いた。
「んで、ここに住み着いてるのは誰だか知らないか?」
「……レイアという女性です」
「ん……? いつから?」
どこかで聞いたような名前だなぁとフェルは一瞬思っていたけど話を進めた。
「約四年前からですね」
「四年前!? え? 俺、知らなかったぞ?」
「王はこの四年間、ずっとあちこち行っていたじゃありませんか……知らせる方法はありませんでしたよ」
「そ、それもそうか……」
その通り、この四年間フェルはある情報を求め世界を一周していたから、一ヶ所に留まる事は滅多になかった彼に情報を届かせる術はドライアードにはないのだ。
「で? そのレイヤは今どこに?」
「さあ? 二日前ミシーの方へ向かいましたから、たぶんミシーにいますよ」
「な、に……!?」
その答えを聞いたフェルは信じられないと言わんばかりに目を広く開いてーー
(……転移ばかり使うんじゃなかった!)
四つ這いになった!
「お、王? 大丈夫ですか?」
「俺、歩みの重要性に気付いたんだ……」
「???」
ゆっくりと立ち上がっているフェルの言葉に首を傾げるドライアード。
「コホン……ドライアード、引っ越しの準備をしろ」
「それはどういうーーまさか?」
突然フェルの指示にドライアードは一瞬驚愕したけど、すぐ彼の意図に気付いた。
「いつでも他の精霊たちと精霊界に戻れるように準備してくれ」
「……そこまでの相手ですか?」
「たぶん、な。ミシーで勇者一行がこっちに向かってる情報があってな」
「っ! 分かりました、直ぐに取り掛かります」
その言葉を残してドライアードは消えた。
(さて、ドライアードに伝えるべきこと伝えたし、行くか)
いくつか確認したい事があって、フェルは再びミシーに転移した。
▽
それからさらに一日が経って、フェルは小屋の前にのんびり座っている。
カッシャカッシャ!
すると前方から茂みが揺さぶられる音がして、人が出てきた。
「来たか……」
彼の目には六人、男は四人で女は二人が映っている。
「……先日お世話になったな」
六人組を観察しているとほぼ全身包帯状態の女性がフェルに話しかけた。
(……マ、マミー?)
知り合いの中に全身包帯女性はいないはずだ、と立ち上がったフェルは思い、女性の正体を頭の中で探ってしばらく彼女を見ているとーー
「おい! 俺様のディアをジロジロ見てんじゃねぇ!」
「あ、そうか、やっぱりディアか」
手をポンっとたたく。
「……忘れたのか?」
「いやいや、全身包帯だから分かり難いだろう? 確信がなかっただけだ」
もともと人の顔と名前を覚えるのが苦手なフェルにとって今のディアはほぼ別人に見える。
「おい! テメェ! 俺様のディアに気安く話すんじゃねぇ!」
「……彼氏か?」
「ふん、冗談はやめてくれない?」
さっきから無視された派手な鎧を身に着けている金髪の少年を指したフェルに、ディアはうんざりそうな顔で答えた。
「まあ、いいや。んで? なんのよーー」
ヒュウッ!
「ブラスト」
「ぐはっ!」
フェルが台詞を言い終える前に金髪少年は高速で接近して剣を真上から振り下ろした!
しかしその動きの速さ以上にフェルは反応して、左足を中軸にして身体を横にずらして勇者の剣を躱した後、勇者の腹にカウンターをかました!
「「「勇者様!」」」
吹き飛ばされた勇者を見て護衛として派遣された三人の騎士団の最も凄腕の団員あが驚きの声を上げた。
「今のが勇者か?」
通りで鎧が他の連中に比べにならないほど立派だった、と白青の鎧を着て鎧の左胸に左右に羽がついている剣の紋章がある少年、勇者が吹き飛ばされた方向を見てフェル構えを解いた。
「ディア様、彼が……?」
「ああ、フェルだ」
一方、ディアと彼女の側に立っている灰色髪の女性は静かに今の一瞬の出来事を見ながら会話している。
「……なんの用だ?」
穏便に済ませないと悟ったフェルは今度少し圧をかけて再びディアたちに質問した。
「……私はレヴァスタ王国の宮廷魔術師、ルナ・エアネスと申します」
前に出て自己紹介した長い灰色波がかかった髪の女性、ルナはその鋭い赤い瞳でフェルの姿をしっかり捕えている。
(うむ、これはまたまたナイスバディ)
タイトワンピースが体のラインを強調していて、側にいるディアと並んで今フェルの目にとってご褒美でしかない。
(まだ若いわね……いや、ニ、三年下か? 可愛いわぁ)
内心でお互いを観察し合ってしばらくこの場に沈黙が訪れるとフェルが先に話を進める。
「……フェルだ。さっきの質問を答えてもらおうか?」
「もうお分かりになっているはずです、私たちの目的が」
「さてなあ」
「……はぁ、聖剣フォレティアを譲って貰えませんか?」
分かりきった事を、と呆れ気味で溜め息を吐いたルナは丁寧に聖剣フォレティアを欲求してきた。
「譲る訳ないだろう? お前もリスクを分かった上であの剣を持ち去ろうと?」
「リスクはちゃんと理解しています、ですが先ほど飛ばされたーー勇者サトウ様が何とかするでしょう」
「……本当にそう思うか?」
〝サトウ〟と聞いたフェルは勇者が日本人だと確信して、ルナとディアに問いかけたけどーー
「「……」」
そこはフォローの言葉が入る所なのに黙っている!
「キサマ! 勇者様を疑っているのか!?」
一人の若い男騎士が吠えた。
「疑ってもなにも、さっき飛ばされたじゃねぇか」
「キサマーー」
フェルの言葉に気にくわなかった騎士が襲いかかってくる。
「はぁ……ブーー!」
「サンダーボルト!」
ブラストを発動しようとしているフェルは頭上から魔力の塊を感じて、とっさに後ろへ跳躍した。
ドカン! とさっき彼が立っている場所に雷が落ちた。
「おいおい、いきなりか?」
「……さすがにそう簡単にいきませんね」
そう言って、さっきの魔法を放ったルナは再び魔法を発動しようとしているとーー
「まあ、待て」
「……何か?」
フェルが待ったをかけてディアに問いかける。
「おい、ディア、この二日間ちゃんと食事を取ったか?」
「……そうだが、それがどうした?」
「ならーーヒール」
ディアに右手を突き出したフェルは魔法の名を唱えると彼女の体が灰色の光に包まれる。
細胞というものは常に新陳代謝していて、その活動は栄養に依存しているのだ。
体内にある細胞を刺激して、傷がある所に行かせ無理矢理は働かせ、自然回復能力を高める。
それが〝ヒール〟の原理だ。
栄養が足りなければ逆に対象に危険を及ぼしかねないから、さっきフェルがディアに食事の事を訊いたのはこの魔法を彼女に使えるか使えないかの確認だ。
何せ無理矢理に細胞を働かせるから体に負担が非常に大きい。
「んんっ! はぁ……」
「……何をしました?」
「えっと、回復魔法を掛けただけだが?」
全身に傷が出来たディアは今体が触られるような感触を感じている。
そして彼女の体を包み込んでいる光と彼女の反応を見て、ルナはフェルを睨む。
「回復魔法はああではありません!」
自分が知っている回復魔法とは全然違うから、ルナはフェルの答えを受け入れなかった。
「い、いや、本当だって!」
「問答無用です!」
そして完全に怒っているルナは再び魔力を集めて魔法を発動する!
まあ、大切な妹が何かされたからな……そりゃあ怒るわぁ。
フェル「お前なんでいつも光ってるんだ?」
ドライアード「いつもじゃありません、王が呼んでいる時だけです」
フェル「なんでだよ!?」
ドライアード「特に理由はありません」
フェル「嫌がらせ!? 嫌がらせだな!?」
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