15。別にやましい事じゃないよ?
2025年3月16日 視点変更(物語に影響なし)
「くっ! 一閃!」
「おっと! 格好いいね! アイスニードル!」
「シッ!」
高速一直線の剣技〝一閃〟が躱されて、がら空きになった自分の背中から三本の氷柱が迫っている事を感知したディアはすぐさまジャンプ回転してそれらを剣で切り落とした。
「こんなもんか!?」
「ヒュ〜! 言ってくれるな! ウィンドカッター!」
挑発に乗ったフェルは強盗団に放った魔法を、ウィンドカッターをディアに向けて発動した!
同じ魔法だと一瞬で分かったディアは魔法を切り上げてーー
(っ! 威力が全然違う!)
全く違う威力に自分の手が震えて、彼女は険し顔になった!
ここは四年前フェルが生活していた小屋がある開けた場所だ。フェルの魔法によって二人がここに来てから既に数時間が過ぎて今は深夜だ。
その間ディアとフェルはずっと交戦している。
(おかしい! 普通の魔法使いならとっくに魔力切れに陥るはずだ)
ずっと魔法を使って何ともない顔をしているフェルを見て、ディアは違和感を感じた。
彼女は魔法使いじゃないけど、姉がレヴァスタ王国の宮廷魔術師だから魔法についてある程度理解している……魔法にうるさいから、姉が。
だからこそフェルがまだ魔法を使える事に彼女は疑問を持っているのだ。
「なぜまだ魔法を使える、という顔してるな」
「っ!」
自分が考えている事を突然指摘されてびっくりしたディアは一瞬反応に遅れた!
「ブラスト」
「きゃあぁ!」
辛うじて魔法を防いだけど、衝撃を耐えきれず彼女は飛ばされた!
しかしフェルの攻撃はそこで止まるはずがない!
「アイスウォール!」
「ガハッ!」
氷の壁にぶつかって、背中から強烈な痛みを感じたディアは倒れて、それでも剣を強く握って衝撃によって肺から逃げ出した息を取り戻すために深呼吸して、立ち上がった。
「驚いたな、まだ起き上がれるとは」
そんな彼女の目の前に突然現れたフェルは素直に感心した。
「っ! お前にもーーケホッ! 驚かされたよ、ケホッ、ケホッ!」
「ならもう一度飛べ、ブラスト!」
「くっ! ルーンブレイカー!」
剣に魔力を纏って相手の魔法の魔力を打ち消す。魔力を失った魔法は魔法でいられなくなってやがて消える。
それはディアが編み出した対魔法使い、カウンター用の魔剣技〝ルーンブレイカー〟の原理だ。
今までフェルとの戦いの中で使わないのは単にその機会がなかった。だけどディアの目の前に転移したフェルは今完全にその技の範囲内で魔法を使った。
カウンターのチャンスだと悟ったディアは素早く右手で剣を左斜め上へ振って、魔法を消した後その勢いを利用してフェルの首目掛けに剣を振った!
「もらったああぁぁ!」
カウンターが成功! そしてこの戦いの勝者は自分であると思ったディア!
ズッシン!
「なっ!」
「惜しいな」
しかしその未来はフェルによって破壊された!
彼はあの一瞬で右足を後ろへ引きながらいつの間にか左手に剣を持って、ディアの剣を弾けたのだ。
体勢が崩されてがら空きになったディアは次の絶対に来る攻撃に備えようとしたけど、フェルの方が速かった!
「烈風斬」
そう技の名を呟いて彼は剣を薙ぐ!
「きゃああぁぁぁ!」
数えきれないほどの斬撃を受け、ディアはまた吹き飛ばされた!
(つ、強い……)
彼女は一つ勘違いした。
確かに戦いの中にフェルは魔法しか使っていない。だけどそれは接近戦が苦手だからではなく単にその方が彼にとって楽なのだ。
ここ四年間彼はただ魔法に没頭したわけがない。
色々やって、沢山冒険していて、その結果彼は色んな技術、知識を持つ事になった。
さっきが使った〝烈風斬〟もその一つだ。
剣に魔力を纏って、振る時に剣の進路にある空気を圧縮し、無数の鎌鼬に変形して飛ばす、魔剣技だ。
「安心しろ、急所はちゃんと避けた。せっかく綺麗な顔をしてるから顔もな」
倒れて動かないディアが意識を失う寸前に、フェルは右手を突き出してさらに続ける。
「剣の事は忘れろ」
そう言われた直後、ディアは意識を失ってフェルの魔法を受けた。
▽
「う、うぅ……」
鳥の鳴き声にディアは目を覚めた。
(ここは……?)
カチャ。
「目覚めましたか、ディア様?」
「ルナさん、か……」
ぼーっと知らない天井を眺めながらここはどこ、何故自分はここにいると彼女は考えているとレヴァスタ王国宮廷魔術師ルナが入って来た。
「ここは?」
「病院ですよ、血まみれのあなたは門前に倒れている状態で門番達に発見され、ここに運ばれたのですよ」
「……そう、か」
上半身を起こしたディアはそれを聞いた後、俯いて目を閉じる。
(やっぱり負けてしまったのか……)
フェルの技を防御出来ず丸々と受けてしまった事を思い出して、彼女は悔しい思いになった。
「急所をちゃんと避けたのはさすがですね」
「……生かされたんだ」
「……誰に?」
悔しくて今にも泣きそうなディアを見ているルナは間を置いた後、低いトーンで問いただした。
「あ、あの……ルナさん」
「何でしょう?」
ルナは素敵な笑顔を見せているけど、長い間ずっと一緒にいるディアからしてその笑顔はーー
「……怒っている、ルナねぇ?」
怒りに満ちている。
「……はぁ、誰にやられたと聞いていますよ?」
「あ、はい」
その怒りを少しでも和らぐためにディアは昔のようにルナを呼びかけたけど、その効果は薄かった。
「件の男だよ」
「件の? フェルという人物ですか? まさか会ったのですか!?」
「ええ、酒場に彼とばったり会って、尾行している事がバレてそのまま戦う事になったの」
「そして負けてしまいました、か? それにしても戦闘の音が全然聞こえていませんでしたけど?」
「……転移された、幻想の森に」
ディアは昨日の事を説明して、それを聞いたルナは確認した。。
「で、魔法使いなのに剣の腕前ディア様以上、ですか?」
「悔しいがそうなるな。でもそれだけじゃないよ」
フェルが放った最後の斬撃、〝烈風斬〟をルナに説明するとーー
「俄に信じがたいですね。魔法使いが剣を使って戦っていながら自分の剣にエンチャント系の魔法を掛けるなんて……」
基本魔法を発動するには目標を定め、魔法をイメージし、そして魔力を流す、三つの過程がある。
何に魔法を使うのは目標を定める過程。それによって魔法のイメージも変わって、魔法のイメージが鮮明になればなるほど威力が上昇し必要な魔力が少なくなって、その量に応じて魔力を流す。
これらの過程を終えたら後は魔法を放つだけだ。
しかしエンチャント系の魔法は普通の魔法と違って、発動後に魔法を維持する必要があって、当然それをやり遂げるために集中力が必要だ。
接近戦していながら自分の得物にエンチャント魔法を掛ける事はどれくらい難しい事か魔法使いであるルナよく分かっているから、彼女からしてフェルは異常者だ。
「でもディア様を見て信じるしかありませんね」
でもそれは決して不可能ではない。その証拠はルナの目の前に全身が包帯に包まれているディアだ。
「それで? どんな感じでした?」
「ん?」
「テレポートされたでしょう? どんな感じでした?」
羨ましいです! という顔をしている姉をディアはジーッと見つめる。
「な、なんですか?」
「はぁ……」
溜息を吐いたディアは仕方ないと思ってテレポートされた感覚を説明した。
▽
「いやぁ、昨日の女性は中々だったな」
……。
「あ、剣の腕前の話だぞ? 別にやましい事じゃないよ?」
多分みんな分かっていると思うぞ、フェル?
……コホン!
えー、意識を失ったディアをミシーの門前に飛ばした後、フェルは宿に戻ってそれから一日が過ぎた。
今でも死体を発見したというニュースはないから、ディアはまだ生きてるだろうとフェルは密に彼女の事を心配している。
「まあ、最初から殺すつもりはないからな」
必要がなければ無用に命を取らない、相手は誰であっても、それも自分の敵になるかもしれない人、勇者パーティーの一員かもしれないけどフェルのポリシーは変わらない。
そう、彼はディアの正体と所属を彼女と交わした会話と酒場で聞いた男たちの話からかある程度推測したのだ。
「アルマ教会と探検者ギルドは友好な関係、と。面倒な事になりそうだな……」
まあ、考えても仕方ないか、とさっきから宿の部屋で一人で喋っているフェルは考えるのを捨てて、食事をするために一階に降りた。
腹減ったら頭が回らないしな。
ルナ「ーーなるほど」
ディア「だから別に大した体験じゃあーー」
ルナ「実に羨ましいですね!」
ディア「……姉はこういう人だった!」
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