14。テンプレありがとう!
2025年3月13日 視点変更(物語に影響なし)
時は一日前に遡って、ここはミシー付近にある開けた場所だ。
「おい、ディアねぇちゃん、ちょっとここに座れよ」
「……遠慮する」
焚き火の近くに座っている少年は自分の誘いが断られて、舌打ちした。
(魔物より勇者の方が身の危険を感じるなんて……)
ディアはアルマ教会から派遣された勇者とレヴァスタ王国の宮廷魔術師であるルナ、そして彼女の護衛として三名の騎士と一緒にミシーへ向かった。
「俺は勇者様だぜ? 俺の言う事を聞いてくれねぇってどういうつもりだ?」
若い勇者は今まで何回も遠征に行ったけど、その毎回必ず女性員にちょっかいを出して迷惑をかけた。
そして今回の遠征に女性員はディアとルナの二人だけで、そんな二人に勇者はちょっかいを出そうとしているけど、相手が悪かったのだ。
「思いあがらないでくれます、勇者サトウ様?」
「なんだーーっ!」
笑顔で彼を注意したルナだけど、その声は冷たくて目が笑っていない。
(怖いよな、ルナねぇは)
若い勇者、勇者サトウが押し黙ってしまったくらいだな。
(思う所あるだろうな)
小さい頃から孤児院で一緒育てられたルナとディアはお互いの事を理解して、大事にしている。だから今のルナの発言の中に怒りが含まれている事をディアはちゃんと分かっている。
だけど勇者サトウの態度に理由があるのだ。
彼は召喚された勇者の中で最も強いと言われ、周りからチヤホヤされているからこう、女からして好ましくない性格になった。
ディアはこの遠征でよ〜く実感した。
▽
「おぉ、ディア様、お待ちしておりました」
「……ハールか。 ギルドの調子はどうだ?」
翌日の夜、ミシーに着いた途端、ルナ達と別行動して探検者ギルドに行ったディアはギルド長、ハールに出迎えられた。
禿げ頭とごつい体格、外見のわりに丁寧な喋り方の彼にディアは半端なく違和感を感じてしまった。
「はい、順調です。して勇者様たちは?」
「別行動中だ。最近の幻想の森は?」
「今まで、いや、四年前から何も変わりません」
階段を上がっていながら、二人はそんな会話をしている。
そう、教会の依頼からすで四年間が経ったのだ。
そしてここ四年間、幻想の森は変わらずであって、誰も森の奥へ行くことが出来ないのだ。森の中で歩いて気付いたら森の周縁に戻ってしまった、という不思議な現象が落ちだ。
「そうか……まあ、今回は大丈夫だろう、勇者もいるし」
腐っても勇者、実力は本物だ。
「さようでございますか……ちなみに夕食は?」
「ん? まだだけど?」
「でしたら燕の宿に行きましょうか?」
「お? フィリーのところか、いいだろう」
燕の宿はディアの友人の親が経営している宿だ。
「久々にフィリーと話したいしな」
そこに行けば必ず給仕をしている友人に会えると思って、ディアは嬉しい気持ちになった。
▽
チリンチリン!
「おっと、すまん」
「いいえ、こちらこそすみません」
ハールが入ろうとしたとき一人の男性とばったり会った。お互いに謝って、男性は道を譲って、先に宿に入ったハールの後にディアは付いて行こうとし時ーー
(あの男性は……?)
すれ違っていた時、ディアの目に男性の白髪が混じった黒髪が偶然見えて、後ろの頭が引かれた彼女は振り向くと宿の外には体を伸ばしている男性、フェルがいた。
「……すまん、ハール、先に食事をしてくれ」
「え? どうかしましたか、ディア様?」
「いやぁ、ちょっとした野暮用でな」
「ちょっ! ディア様!」
ハールの呼びかけを無視して、ディアはさっき見た男性の後を追いに行った。
(確かあの男性はーー)
と真剣な顔を浮かびながらフェルにバレないように静かにして、彼の後を付いていく。
(ん? 尾行されてるな)
まあ、当のフェルはフェルは自分の尾行者が増えた事に気付いたけど。
「何の用だ?」
周りには一般人がいないと確認した彼は、立ち止まって何もない夜の道に言った、威圧感を籠めて。
(っ! 気付かれたか!?)
(俺、格好いいなぁ)
自分の位置がバレたのかと驚いたディアをよそにフェルは自称格好良い宣言を内心でした。
「……」
どうしようと険しい顔になったディアは頭の中で考えて悩んでいるとーー
「よくわかったな、にぃちゃん」
「へっへっへ、命が惜しいなら金を置いてけぇ、全部なぁ!」
「おぉ!!! テンプレありがとう!」
……自分が置かれている状況をまるで理解していないかのようにフェルは喜んでいる。
変人である。
「断る! さぁ、いけいけ!」
シッシッ! とわざとらしく相手を怒らせる言い方でフェルは手を振った。
「なめんなぁ、クソガキが!」
「かかれ!」
気に障って、怒りに染まった顔で集団、強盗団は全方向から一斉にフェルを襲ってきた!
「ミシーの治安はいいかと思ってたんだがなぁ……」
そんな強盗たちを見てフェルは呆れた顔になった。
「しねぇ!」
(まいいや。こいつらを使って、最後の一人誘き出そうか)
強盗団の一人が得物を自分に振っている事に全く気にしなくて頭の中で計画を立てた後、フェルは魔法を発動する。
「ブラスト」
魔力を圧縮して爆発させる、それが〝ブラスト〟だ。
超簡単な魔法だけど純粋な魔力を使うから必要な魔力がバカに出来なくてコストが悪すぎる魔法である。
「「「「「ぐはぁ!」」」」」
「なっ!」
突撃している男を仲間の所まで押し戻して、フェルの魔法は爆発した。
それによって強盗団たちは気絶した、一人を除いて。
「さて、お前はコイツ等のリーダーか?」
「ま、待って!」
「待たねぇよーーじゃあな、ウインドカッター!」
弁明しようとした最後の一人に向かって、フェルは大声で別れの言葉を言って、空気を圧縮し細い形に変えた後、魔法を前方へ飛ばした!
風魔法だけあって、尋常じゃない速さで魔法が男へ一直線に迫ってきてーー
ズッシィン!
強盗に直撃する前に両断された!
「ひぃ!!!」
両断された魔法はそのまま男の左右に通り過ぎて、後ろの建物に直撃した。
自分が殺されそうだったと、喧嘩相手間違えたとやっと理解した強盗団の最後の一人はあまりの恐怖で気絶してしまった。
でも彼は一つ間違えたーー
(弱めにしてよかったよ……)
そう、もしフェルの魔法がそのまま強盗団に当たったとしても彼は死なない、精々数メートル飛ばされただけだ。
何せフェルはこの展開を読んでいてわざと魔法の威力を弱めたのだ。
「そこまでだ! この男を殺す気か!?」
そう言って、いつの間にかフェルと強盗団の間に入って魔法を切断した者がいた。
(……こいつは宿にばったり会った男のつれじゃないか?)
白いリボンで結ばれた黒髪のポニーテール、身長はフェルより少し高かく、黒スーツが体のラインを強調している女性だ。
(クールビューティでナイスボディー、うん、いいね!)
突然現れた女性、ディアを観察したフェルはうんうんと頷いた後、彼女に問いかける。
「やっと姿を見せたか。んで? 何の用だ?」
「っ! 気付いたか……名前は?」
「おいおい、人の名前を尋ねる前に自分の名前を言うのが礼儀だぞ?」
そう言われ、ディアはフェルを睨む。
「……ディアだ」
礼儀ってそんなに難しいもんなのか? とフェルは呆れた。
「フェルだ。んで、なんの用だ、ディア?」
「っ! やっぱり……!」
「やっぱりって……初対面なんだが?」
「……」
「まあ、用はないならもう行くぞ」
「ま、待って!」
しばらく待ってもディアはただ黙っていて何も言わなかったからフェルはその場から去ろうとしていると止められた。
「なんだ?」
「幻想の森の結界を解いてくれ」
探検者ギルドの総ギルド長であるディアはミシー支部のギルド長であるハールから四年前のルーガンたちの報告を聞いたから、当然フェルが張った結界の事は知っている。
四年前の事まだ覚えているフェルはディアの質問を聞いて彼女の立場をある程度推測した。
「なんでだ? あの剣を回収したいか?」
「ええ、それがこの世界のためになるから」
「前に似たようなもの聞いたけどな……」
それはルーガンたちが四年前フェルに言った理由だ。
「まあ、それは出来ない相談だな。あの剣が回収されたら何が起こるかーー」
「森が消えて、中に居座っている魔物は近くの町や村を襲い掛かってくる、そうだろう?」
「知った上での要望か? ミシーはどうする? 森周辺にある他の町と村はどうする?」
「ギルドの力で守って見せる!」
力強く宣言したディア。
レヴァスタ王国にある全探検者ギルドに連絡して援護を要請するのは彼女にとって簡単な事、それだけ彼女に権限があるのだ。
「無理だな」
それでもフェルはキッパリと言った。
「あの森の中に何かいるか把握したか?」
いや、把握してないだろうな、でないと簡単にそう言わないだろう、と何を言っても無駄だと悟ったフェルは再び去ろうとした時ーー
ヒュゥ!
「何のつもりだ?」
「っ! よく躱したな!」
ディアは一瞬で距離を縮め、踵を返したフェルの背後から剣を振り下ろしたけど、さらに一歩を前に踏むことでフェルはその攻撃を躱した。
「はぁ……ここはやり辛いな」
「だろうな、魔法使いのお前にとってはな」
「そうじゃないんけどなぁ」
俺は魔法使いじゃないし、と肩を落としたフェルはーー
「テレポート」
「なーー」
魔法を発動してディアを連れてその場から消えた。
最後にそこに残されたのは意識を失った強盗団たちだけだった。
盗賊頭「う、うぅ……ここ、はっ!?」
衛兵「よっ! 目覚めてよかったよ、囚人が一人いなくなる所だったよ」
盗賊頭「っ! な、なんの事ですかね?」
衛兵「……諦めろ」
盗賊頭「はい……」
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