表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者? 人違いです  作者: Adhen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/136

136。だから寝ないでよ!


「じゃあね、姉ちゃん!」


「ええ。忍びはほどほどにね」


 また拉致されるわよ? そう言ったレイアにパルメトンは苦笑した。


「改めて息子を助けてありがとうございました」


「しっかり目を配ってくださいね」


 感謝を述べて頭を下げたマリルたちはレイアの言葉を聞いて頷いた。


「じゃあまた何処かで」


「またね、姉ちゃん!」


「気をつけろよ」


「コーゲンにまた訪れたらいつでも来てください」


 ありがとう、とウゲザー達の言葉にレイアは感謝して、家の前に止まってある馬車に乗った。


「出発して」


「はっ!」


 指示に従い、御者は馬車を走らせて段々遠くになっていくパルメトン達にレイアは馬車の窓から手を振っている。


「良い人たちね」


「本当、最初に出会った魔族は彼らでよかったわ」


 やがてもう十分離れて、パルメトン達は自分の視界にいない時にレイアは大人しく座り直した。


「まあそのあと出会った領主はあれ何だけどねぇ」


「や、やめてぇ~! もう忘れて~!」


 まるでかつて封印された黒歴史、恥ずかしい過去のエピソードがバラされていて聞くに堪えないかのようにイェリアは自分の顔を両手で隠した。


 ……いや、実際に恥ずかしくて彼女の耳は真っ赤だ。


「冗談よ」


 ふふ、とレイアは愉快そうに笑った。


「ところで王都までどれくらい着くの?」


「えっとね……数ヶ月?」


 王都は国の中央に建てられる事は多い。これは他国からの侵略の対策になるし、国の経営にも役に立つのだ。


 これは人間や魔族、という種族限定の知識ではなく建国する時に誰もが検討しなければならないポイントの一つなのだ。


 それでコーゲンは魔大陸の辺境にあるから当然王都からは遠い。


「長い旅になる決定かぁ……」


 分かりきった事だけどね……とレイアは先がまだ長いと思って席の背にもたれかかった。


「ところでイェリア、魔大陸に盗賊とかいる?」


「え!? 人間大陸はいないの!?」


 そんなのあり得るの!? みたいな顔でイェリアは驚きの表情を見せた。


「だよねぇ……」


 どんな生き物でも知性がある限り悪事を働くのだ。レイアもそんな事わかって溜め息を吐いた。


「居ても大丈夫よ、護衛たちは何とかするから」


「あのねぇ、フラグやめてくんない?」


「ふらぐ?」


「あー、なんでもないわ」


 分からなかったら無視していいわ、と自分を見て首を傾げているイェリアにレイアは苦笑した。


「しかし領主の馬車でも何もないわね」


「何を期待していたの?」


「普通の馬車とあまり変わらないじゃん」


「だから何を期待していたの!?」


 言葉通り、イェリアが出した馬車のインテリアは普通の馬車とほぼ変わらない。違いがあるとすれば席がちょっと豪華で、ふかふかで、窓にカーテンがあるくらいだ。


 それ以外だと何もない。


「王族の馬車でしょ? 茶道具とかないの?」


「……溢れてしまうわよ?」


 まあ道路はアスファルトではなく土だし、馬車の車は輪ゴムではなく木製だから揺れるのだ。


「振動が頭に来なくてよしとしようか」


「そこちゃんとしているわよ」


 まあ一般馬車とほぼ変わらないと言っても使われた素材、デザイン、造り込みはお金が掛かるから木製の車輪でも振動はあまり激しくなく、道中辛い思いをしなくて住む。


「……寝るわ」


「え!? 話しようよ!」


 何で寝るの!? とレイアが寝たら一人で暇になるから、イェリアはとしては是非レイアを邪魔したい。


「あんたも寝ればいいでしょ?」


 まあ正論だけど、イェリアに寝ない理由があるのだ。


 それはーー




「寝れないの!」




 乗り物の中に寝れない体質を持ちしているのだ。


「あ、そうか」


「だから寝ないでよ!」


 と再びリラクスして寝ようとしているレイアの席に来て、イェリアは彼女の腰を抱いてイヤイヤと頭を振っている!


「あーもう! うるさいわね!」


「仲良くやろうよ!」


「わかったからちょっと離れて!」


「いーやーだー!」


「えー!?」


 じゃあどうすんの!? と全然離れないイェリアに呆れたレイアは後ろ頭を掻いた。


「イェリア様どうかしましたか!?」


「あっ! いえ、何でもないから気にしないで!」


 そこで馬車の前、御者席からかなり焦っている声が聞こえて、ビックリしたイェリアは慌てて答えた。


「ふざけ過ぎよ?」


「こうでもしないと寝るでしょ?」


「……」


 出てきたイェリアの言葉は図星でレイアは気まずそうに顔を背けた。


「まあいいわ」


 寝たら叩き起こすだけ、そう言ったイェリアはレイアから離れて自分の席に戻った。


「あなた人間だよね?」


「そうだけど?」


 いきなりの質問にレイアはイェリアの質問の意図を掴めずに首を傾げた。


「やるわね、精霊王の目を引き留めて」


 難しかったでしょう? みたいな顔で言ったイェリアだけどその言葉にレイアは苦笑して言う。


「一応七人いるよ?」


「多くない!?」


 確かに多い!


「何でそんなにいるの!?」


「うーん、なんでかな……みんな彼の人柄ちゃんと見てるから?」


「どう言う意味?」


「そうね、あんた魔族だし話してもいいでしょ」


 そう言ったレイアは幻想の森の事件、フィリーの救出、精霊王国マナフルの事、狐人村の事件、エルリン王国の事件、そして戦争の事を全部話した。


「人間は大変だね」


「まあ欲がある限りそういうのは起こり得るのよ……」


 自分は一番だとか他人の物を羨むとか、そう言った欲がある限り争いは消えない。


 そもそも生き物は競い合って生きているから平和というものはただの表面的なものだ。


「確かにそうね」


 魔族にも盗賊はいるからね……そうイェリアは肩をすくめながら言った。


「しかし何て言うか……人っぽいね、精霊王様は」


 赤の他人のために動いて、親しい人のためにもっと頑張って、建国して、報酬のために働いて、戦争にも出た。


 確かに誰もが聞いたら精霊王は人間っぽいと思うだろう。


 しかしそれはあながち間違いではない。


 なぜならーー


「人間だからよ」


 そう、フェルは人間なのだ。


「え? 精霊王じゃないの?」


「精霊王よ? 前精霊王の孫みたいな者でつい一年前ほど精霊王の儀式を終えたの」


「儀式って、そんなのあるの?」


「そうみたいけど?」


「分からないの!?」


 全部自分が聞いた話で、実際に見たものではないから本当にあるの? と訊かれたらレイアは〝らしい〟としか答えないのだ。


「まあ前精霊王マクスウェル様はあると言ったから多分あるんじゃない?」


 マクスウェル様嘘はつかないしね、とレイアは言葉を足した。


「すごい話聞いたわ」


 やがて話が終わるとイェリアは溜め息を吐いて席の背にもたれかかった。


「そう? 満足した?」


「ええ」


 ありがとう、と笑顔でイェリアは言った。


「じゃああたし寝るわ」


「だから寝ないでよ!」


 と、再びリラクスして寝ようとしているレイアの腰にイェリアは両手を回した!


「話しようよう!」


「満足したでしょ!?」


「ウソウソ、さっきはウソなの!」


「嘘じゃないでしょ!」


 離して! そう言いながらレイアはイェリアの頭を押し戻している!


「いーやーだー!」


「あぁもう!」



 頭を抱えたレイアだった……。

レイア「あんた長旅する時いつもどうするの?」

イェリア「何も? 暇なの」

レイア「えー、この旅中絶対寝れないじゃん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ