133。姉ちゃん料理上手だなっ!
「……姉ちゃんすごいな」
「そう?」
まだまだと思うけどね……とルナとフェルの腕を思い出していながらレイアは言った。
「衛兵たち全然気付いてなかったんだよ?」
「ハラハラしてた?」
そうだよ! とレイアのドヤ顔を見てパルメトンはムカついた。
「もうちょっと離れたらキャンプしようか?」
「え? 俺まだいけるけど?」
「あたしがいけないの」
全然寝てないのよ……そう一日中ずっと行動していたレイアは肩を落とした。
まあネヴァテオとの戦闘が終わって、レイアがリーブリに戻った頃にはすでに周りが暗かった。その後、彼女はパルメトンを老婆たちの所に連れて少し経ったら起きたパルメトンを連れて魔大陸に入った。
体力は以前と比べ物にならないけど、さすがに一日間ずっと行動していたらそんなレイアでも疲れるのだ。
限界に近いと感じた彼女はただでさえここは未知の土地で、どんな物かどんな危険があるか全然分からないから流石にこれ以上進んだら危ないと思って、リーブリの南門からもうちょっと離れたら野営する事に決めた。
「そっかぁ……」
「早く帰りたいかもしれないけど、ごめんね」
早く我が家に帰りたいパルメトンの気持ちにレイアは共感できるから、それを叶えない彼女は申し訳ないと思っている。
「……別にいいよ」
前を向いているままパルメトンはそう小さく言った。
「ここなら大丈夫でしょ」
大分歩いて、もう十分離れたと思ったレイアはちょうど木がある少し開けた場所を発見し、野営の準備に入った。
「俺にもなんかやらせてくれよ」
「……そうね、近くの木の枝を拾ってくれない?」
「わかった」
暇を持て余しているパルメトンは気を利かせて、指示通り細い枝を掻き集める。
「魔法って便利よね」
土魔法で窪みを作って集められた枝を入れてからレイアは指先に小さな炎を具現化させて火を灯す。
「色んな魔法使えるんだね!」
「まあね」
勉強したから、と言いながらレイアは魔法袋から食物を取り出してパルメトンに渡す。
「……」
「どうかした?」
食物を受け取ったものの、パルメトンはただ自分の手にある物を見ている。
「なんか……知ってる食べ物とほとんど変わらないな、と思って」
「そりゃあ食べ物だから」
なに言ってんの? みたいな顔してレイアは自分の食べ物に視線を落とす。
「捕まってた時との全然違うんだよ……」
「……どんな物食べさせたの?」
牢屋の食物だから期待できないけど、どんな物なのかレイアは一応訊いてみた。
「えっとね、ネバネバして白くて、味はしなかった」
「それってーー」
「食べ物というか、あれ飲み物?」
「ーーお粥じゃん……」
確かに……まあ、お粥ならそんなに酷くないだろう。
「味はしなかったんだよ!?」
「大体そうよ!」
健康的なお粥ならそうだな!
「そんなに酷くなかったみたいだね」
「あれは酷かったんだよ!」
はいはい、と適当に抗議してきたパルメトンをあしらったレイアは食べ始めた。
「う、うめぇ~!」
うめぇよ~! そう自分の食べ物を口にしたパルメトンは涙ぐんでしまった。
「姉ちゃん料理上手だなっ!」
「あー、うん、あたしじゃないけどね」
女性力が終わっているレイアは罰が悪そうに無邪気で自分を褒めているパルメトンの視線から逃げるように顔を背けた……。
「うんんんめえぇぇ~」
「もううるさいわね……」
パルメトンの晩御飯はちょっと塩っぱかったようだ……。
▽
「お、おい! あれはっ!?」
「パ、パルメトン!?」
「おい、ウゲザーたちを呼んでくれっ!」
衛兵たちはそうざわざわと騒ぎを立てた。
「隣にいるのは、誰だ?」
「あれはーー」
「人間だぞ!」
「おい! 増援呼べ!」
忙しい衛兵たちである……。
「……なんか歓迎されないような気がするけど?」
「姉ちゃん人間だから」
そんな衛兵たちの様子を遠くから見ているレイアは溜め息を吐いた。
「いざとなったらあんた人質にするよ?」
「えっ!? いやだよ!」
「そしてあんたの身柄と引き換えに財産をもらうわ」
「……姉ちゃんお金で釣られるような人じゃないと思うけど?」
それもそうね、と町に近付いていながらレイアとパルメトンは呑気で会話している。
「止まれっ!」
やがて十分町に近付いたレイアたちに一人の衛兵はそう声を張った。
「その少年から離れろっ!」
そう言われたレイアはパルメトンに顔を向けた。
「離れろだって」
「姉ちゃん緊張感ないの?」
「ん? 何あんた緊張してんの?」
「そりゃ、おじさんたち怖いから……」
「男の子だからシャキッとしなさいよ」
それは……仕方がないと思う。パルメトンはまだ八歳だからな。
「何をこそこそ話してる!? 早くしろ!」
「はぁー、あんたの目節穴なの?」
仲良くしているレイアたちを前にしても衛兵は怒鳴って命令した。
「パルメトンっ!」
「母ちゃん!」
「お、おいっ!」
どうしようかなとレイアは悩んでいる時、衛兵たちの後ろから一人の女性、パルメトンの母親が出てきて走ってきた。
「大丈夫!? 怪我は!? お腹空いた!?」
「お腹空いたって……」
今訊くべき質問じゃない気がするよな……。
「母ちゃん、大丈夫だよ」
「そ、そう? よかった……」
自分の息子の温もりを精一杯に感じるようにパルメトン母は強く彼を抱きしめる。
「パルメトンっ!」
「父ちゃん!」
今度は一人の男性、パルメトン父は出てきた。
「大丈夫か!? 怪我は!? 腹減ったか!?」
「同レベル!?」
「だ、大丈夫だよ父ちゃん」
言葉こそ違うけど意味は全く同じ! 流石夫婦!
「……あなたが助けてくれたのですか?」
息子と一緒にやってきたレイアに顔を向けて、パルメトン母は確認の質問を投げた。
「うーん、そうなりますかな?」
「そこは自信満々で言ってよ姉ちゃん……」
善行はベラベラと言いふらしていい物ではない、必要ないというスタンスで生きているレイアは敢えて答えをはぐらかした。
「そうです、か……」
とパルメトン母は呟いて、自分の夫に向いた。
「父ちゃん?」
「?」
すー、と立ち上がったパルメトン母と父は衛兵たちの所に話し合って、しばらくすると一人の衛兵と一緒に戻った。
「……すぐに逮捕したいがパルメトンに免じて目を瞑っておこう」
そうレイアを睨みながら言った衛兵は自分の仲間を連れて持ち場に戻った。
「そりゃどうも」
自分の存在はあまり歓迎されていないとちゃんと理解したレイアはふてくされてしまった。
「ごめんなさいね、人間にあまりいい記憶はないのですよ」
「あー、大丈夫です」
っていうか仕方ないからね、そう答えたレイアは肩をすくめた。
「とりあえず家に帰ろうか」
「そうね、話はその後でいいわ」
そう言ったパルメトンの両親は先頭を歩き始めた。
「姉ちゃん行くよ?」
「え、ええ」
周りをキョロキョロして見ている、全然動かないレイアにパルメトンはそう声を掛けると彼女は慌てて追いかけた。
「どうしたの?」
「いやね、何かすごい注目されてるかなぁって」
「姉ちゃん人間だからね……」
魔族が人間の所に行くように、人間が魔族の所に行ったら必ず注目されるのだ。
「なんか希少な動物になった気分だわ……」
……え? 動物になった事あるのか?
レイア「……お腹空いたかってさ」
パルメトン「い、いい質問だと思うけど?」
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