131。あと数発打たせて!
「まあいい……もう十分離れたとおもーー」
「隙ありっ!」
肩をすくめて洞窟の出口の方へ振り向いたネヴァテオにレイアは再びファイアボールを放った!
「ううぉおおいい!」
ドーン! とまた洞窟内に爆音がして洞窟全体は震えている!
「もういいだろう!? 領主はもう行ったぞ!」
ギリギリ魔法が当たる前に横へ跳んだネヴァテオは抗議した。
「まだ安心できないでしょう?」
まだちょうど洞窟の入り口にいるかもしれないじゃない? そうさらに言ったレイアは杖を構える。
「待て待てっ! もう十分と思うんだけど!?」
「あと数発! あと数発打たせて!」
「動機が変わってるっ!」
再び杖を掲げたレイアにネヴァテオは慌てて待ったをかけたけど、ファイアボールはすでに発動されて迫ってきている!
「ま、待て! 洞窟! 洞窟が、持たないぞ!」
ポンポンっと出されたファイアボールを躱しながらネヴァテオは必死にレイアを止めている!
「……」
「なんで残念そうにしてるんだよ!?」
流石にこれ以上やると洞窟が崩れ落ちて自分も生きているまま埋められてしまうと思って、レイアは本当に残念そうな顔を浮かべた。
「まあいいわ」
「はぁ……」
杖を魔法袋にしまって、代わりにレイアは魔法道具テープを取り出た。
「じゃあこれをやるよ」
「おう、ありがとう!」
投げられた魔法道具をキャッチしたネヴァテオはすごい笑顔になった。
「約束通り隣の子連れて行くわよ?」
「あぁ、問題ない」
さっきの戦闘と違って二人の間にはまるで何も無かったかのように会話している。
「よかったね、上手くいって」
「……殺されるところだったぞ?」
「だから殺す気はないよ」
「まあ結果的に計画通りだから別にいいけどよ」
俺の靴を履けよ……さっきまで必死にレイアの魔法を躱していた自分を思い出してネヴァテオは肩を落とした。
さて、気になる方いると思うからここで少し説明しよう。
初めてネヴァテオはレイアに接触した時のこと覚えている? リーブリでレイアがナンパ男を追い払おうとしていた夜のことだ。
あの時ネヴァテオは必死にレイアを引き留めて自分の話を聞いてもらうためにある情報を提供した。
それはーー
「あんた本当に光玉を見たよね?」
「本当だって」
「誰かから聞いた、ということはないよね?」
「ないない。光玉は確かに南方へ、つまり魔大陸へ飛んだよ」
そう、それはレイアが欲しがっていた情報、光玉の進行路だった。
「っていうか他に見て覚えている人いるか?」
「一応ね」
ヴェリヌーも同じことを言ったからこそレイアは最後的にネヴァテオの計画に乗ることにした。
「いやぁお前から連絡あった時驚いたぞ」
てっきり情報だけ持ってどっかに消えたかと思ってたぜ、とネヴァテオは正直に言った。
「魔族の子を救出するついでによ」
魔大陸に行くためにガイドが必要だから、魔族の子供を攫ったとネヴァテオから直接聞いたレイアはその子の居場所や救出する方法を知るためにネヴァテオの話を飲み込んだ。
「俺はついでかよ……」
まあレイアはすでに最優先事項を決めたからな。
「それでお嫁さんを解放できるからいいでしょう?」
ネヴァテオの手の中にある魔法道具テープを指しながら文句言わないでよ、とレイアは続けた。
「それに関してはマジで感謝してるぞ?」
妻を領主の手から解放したい、それはネヴァテオの唯一の目的だ。それの一歩、もしくは決め手になる物を手に入れたからファイアボールに焼かれそうになった事はどうでもいいと彼は思っている。
「ところでどうやってこれを使ったんだ?」
対魔法使いの鎖に拘束されていても魔力がいる道具、魔法道具を発動できたレイアにネヴァテオは疑問を覚えた。
「魔力さえあればいいでしょう?」
「そうだけーーそうか! 精霊だな!?」
魔法道具を発動する条件は魔力をその道具に流すだけだ。魔力の源はどこから来ても問題ない。
「伊達に精霊女王やってないからね」
「まあなーー待って、精霊女王?」
自分の耳を疑って、ネヴァテオは勢いよくレイアに向いた。
「言ってなかった?」
「精霊の仲間じゃなかったのか?」
「あー、昇格した」
「昇格って……」
そんな制度あるのか? とネヴァテオは半眼でレイアを見ている。
「ないけどなったよ」
「は? どういう意味だ?」
まあ知らない人からしたらレイアが言っている事の意味は不明だろうな。
しかし彼女は精霊の仲間から精霊の女王になった、言葉通り称号が昇格したのだ。
「あー、どうしようかな……」
その称号の変化の理由を教えたいけど、そうすると自分の正体を明かさなければならないからレイアは悩んでいる。
「どうした?」
「……あんた、お嫁を取り戻したあとどうする?」
「は? 突然だな……」
しばらく沈黙しているレイアからの突然の質問にネヴァテオは疑問を覚えつつも考え始めた。
「正直わからん」
妻を取り戻したあとリーブリに戻ってそのまま住んでもいつ領主の手が来るか分からない。ずっと恐怖の中で生きることになるかもしれない。そんなのはごめんだけど今のところ計画はなく、どうしたらいいかネヴァテオには分からないのだ。
「ローダル女王国に移住するかな……」
「そうすれば?」
「けどな……」
別に悪くない考えだけど、ローダル女王国のどこかに移住すればいいか彼には分からない。
「……なるほどね」
まあいいわ、と悩んでいるネヴァテオにそう言ってレイアは魔族の子供が囚われている檻に近付く。
「この子全然起きないけど?」
戦闘の音、洞窟に響いた爆音にも全然起きないのだ、魔族の子は。
「あぁ、領主の麻酔だ」
先程の戦闘の最後にポンポンっと出されたファイアボールは出した本人であるレイアでさえ煩かったと思っている、っていうか煩すぎたのだ。
それでも魔族の子は今も起きる気配はない。
「そうとう強い麻酔ね」
「攫った時にも使ってたぜ!」
「……自慢する話じゃないでしょう?」
確かに……悪事を誇りに思っている! レイアが呆れても仕方がない。
「んで? 鍵は?」
「本当に必要か?」
本気で言ってる? みたいな顔でネヴァテオは再び半眼でレイアを見ている。
「……ないね!」
そりゃあないな!
別に隠密行動をしているわけじゃないから檻の鍵を破壊しても大丈夫だろう、音とか心配する必要ないから。
「っていうかそうするしかないぞ」
それに鍵は今も領主の懐にあるのだ……。
「はぁ……最初からこうすればよかった」
カンッ! と杖で錠を破壊したレイアは溜め息を吐いた。
「おいおい、そうしたら計画は台無しになってしまうだろう?」
レイアを捕まえて、普通の鎖で拘束して、捕まった彼女は魔法袋にしまってある魔法道具テープを使って領主に色々と話してもらう。
それは最初の計画だった。
「一時どうなるかと思ってたぞ……」
しかし鎖は領主によって対魔法使いに変えられたから、レイアは普通に魔法道具を使えない状態になってしまった。
どうしようと焦って思考を走らせている自分に反して、レイアは余裕な態度を見せているからもしかしてなんらかの計画あるじゃないかと思ったネヴァテオはそのまま計画を実行した。
「無事成功したからいいでしょう?」
確かに結果だけ見れば問題なし!
「それよりこの子を運ぶの手伝って」
と魔族の子共の具合を確認したレイアはネヴァテオに言った。
「なんで俺命令されたばかりなんだろう……?」
何故だろうね……。
ネヴァテオ「本当に殺す気なかったよな?」
レイア「……別に頭が打たれた事になんとも思ってないよ?」
ネヴァテオ「絶対に思ってる!」
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