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勇者? 人違いです  作者: Adhen


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130/136

130。やるわね、じゃねぇよ! 殺す気か!?


「見たところあなたまだ独身だね」


 苦しんでいる子供を見て、何もしてあげられない母親の悲しみや悔しさをわかるはずがない! そう領主はレイアの目をまっすぐ見て断言した。


 確かにレイアはまだ子供を持っていない、だから領主が言っていることは間違いない。


「あたし独身じゃないけど?」


 ……その一点を除いて。


「なるほど、失礼なこと言ったね」


 レイアの視線を辿って、彼女の左手に嵌めてある黒い指輪を見て領主は苦笑した。


「それで娘を治療するために人攫いでもした」


 魔法に優れた人を、だよね? と確認に近いレイアの質問に領主はただ黙っている。


「いつから?」


「え?」


「あんたの娘よ。いつから魔障害に?」


 突然の質問にしばらく黙っている領主は洞窟の天井を見上げて目を閉じて答えた。


「……もう覚えていないわ」


 笑った愛しい我が娘の姿を最後に見たのはいつのことかもうはや記憶の途方にあると領主は実感した瞬間だった。


「なるほど……少なくとも数年前から、じゃないわね」


 リーブリでの失踪事件は数年前に始まったから、少なくともその時点で領主の娘はすでに魔障害にかかった。


「それでついに世間に魔法にとても優れると知られている種族まで手を出した」


 レイアの視線は隣の檻に釘付いた。


「母親としてやれる事をやっただけよ」


「魔族だよ?」


 そう、隣に監禁されているのはリーブリに話題になった攫われた魔族だ。


「バレなければいいの話」


「いやバレてるでしょう?」


 まあ現に魔族たちは毎日押し付けてきているからな。


「完全にバレているわけないでしょう?」


 確かにそうだ。


 魔族たちが知っているのは自分の仲間はリーブリにいただけで、その仲間は今どこにいて、何をしているか領主たち以外誰も知らないから、まだ完全にバレていないと言ったらその通りだ。


「はぁ……あんたその偉人に騙されてるよ?」


「じゃあ他の道あるとでも?」


 色んなことをやり尽くして、もうやれることはないと思い始めた領主の耳に偉人が言ったことはまるで神託なのだ。


「わかったわ」


「何が?」


「あんたが止める気はないってことが」


 これ以上何を言っても固い決意を持っている領主に無駄だとレイアは結論に出た。


「それで? 拘束されているあなたは何ができるの?」


「……こうよっ!」


 ガキンッ! とレイアの言葉が終わった同時に彼女を拘束している鎖は壊れた!


「な、なにっ!?」


「おいおい、マジかよ!?」


 突然のことで領主とネヴァテオは驚きを隠せなくて、身構えしてしまった!


「あぁ~肩痛いわぁ……」


 やっと自由になったレイアはグルグルと肩を回す。


「……それ胸が大きい女性の言葉よ?」


「あー、確かに」


 レイアはその、あるかないかと分類されたらないの方なのだ。


「な、なによ!? 事実を言ってるだけじゃん!」


 まあ吊るし鎖で拘束されていたから、肩痛いだろうな。


「コホン! ところでこれは何なのか知ってる?」


 気を取り直して咳払いした彼女は後ろポケットから四角い半透明ガラスを取り出して勝ち誇った顔で領主たちに見せびらかした。


「っ!? ま、まさかーー」


 それは何なのかすぐに理解した領主は目を広く開いてしまった!




『ふふふ、わかちゃった?』


『大体の状況は、ねーー弱み握ってるのね?』




 そんな彼女に構わずレイアはガラス、魔法道具テープに魔力を流して、記録されたさっきまでの会話を聞かせた。


「くっ……!」


「……やられたな」


 自分の迂闊さに領主たちは悔やんでいる!


「別に騙したわけないでしょう?」


「その通りだけど……」


「全部は俺たちの早とちりだけか……」


 要求されたのはただの理由、行動の動因を殺される前に聞かせて欲しいだけで、それを答えなきゃいけないなんて誰も言ってない。答えないとレイアはアンデッド化するとか、全部は領主たちの早とちりだった。


「領主、先に逃げた方がいい」


「……わかったわ」


 目の前にいる相手に視線を固定しているネヴァテオを見た領主は事の深刻さを悟った。


「魔族を連れさせないわよ?」


「……」


 一度隣の檻に視線を飛ばした領主はレイアの言葉を聞いて、大人しく撤退し始めた。


「圧が怖いな」


「買い被りよ」


「はっ! よく言うぜ!」


 対魔法使いの鎖に拘束されながら魔法道具を使い続けて、最後に鎖を破ったレイアは只者じゃないとネヴァテオはちゃんと理解した。


「そのテープ渡して貰おうか?」


 それでも彼はそう言いながら腰に吊るされている剣を鞘から抜いて、構えを取った。


「渡すわけないでしょう?」


 それに応じてレイアは魔法袋から杖を取り出した。


「ネヴァテオ! 必ずそのテープを取り戻してっ!」


「……無茶言うぜ」


 馬車に乗り、去る際に領主が放った言葉にネヴァテオは苦笑した。


「まあ、命令もされたし行かせてもらうぜ!」


 あまり気が乗らないし、勝てる相手ではないかもしれないと思いながらもネヴァテオは剣を握り直してレイアに攻撃を仕掛ける!


 キンッ! とネヴァテオの剣はレイアの杖に進路が阻まれた!


「おい、杖じゃねぇのか!?」


 見た目だと木からできた、ただの杖だけどその頑丈さはネヴァテオの剣並みだ。


「杖だよっ!」


 杖に剣が押し戻されて、仕方なく後ろへ跳躍して距離を取ったネヴァテオにレイアはファイアボールを放った!


「くっ! 遠慮がないなぁおい!」


 その魔法を回避するために彼は横へ跳び込んだ。


「自分ごと埋め込めようとしてるのか!?」


「大丈夫、魔法に自信あるから!」


「洞窟にはねぇよ!」


 ファイアボールによって生じた爆発は洞窟を振動させて、天井が崩れ落ちないかネヴァテオはずっとハラハラしている!


「っていうか魔法使いじゃねぇのか!?」


 杖の使い方や腕の力からレイアはまるで魔法使いではなく、戦士だと感じているネヴァテオは険しい顔になった。


 それは仕方がない。


 本人の努力のおかげでもあるけど、ディアの指導によって護身術(ごしんじゅつ)をできるようになったレイアの腕力は以前と比べにならないのだ。


 達人まではいかないが、大抵の相手とは問題なく戦える。


「魔法使い、よっ!」


「ううおぉ!」


 それでも彼女はちゃんとした魔法使いだ!


 その証拠に今ネヴァテオの両足首は土に、アースバインドに拘束されて、そんな彼にファイアボールは接近している!


「チッ! マジで魔法使いだな、おい!」


 舌打ちして、ネヴァテオは地面に四角を剣で描いて最後に真ん中に強く剣を刺した! 最後に彼はその衝撃で高く舞い上がった地面を全力で殴った!


 ドーン! と迫ってきているファイアボールは空中で飛ばされた瓦礫とぶつかって爆発した!


「あっぶねぇ……」


 冷や汗してるぜ……そう言いながらネヴァテオは自分の両足を拘束している土を破壊した。


「やるわね」


「やるわね、じゃねぇよ! 殺す気か!?」


 命懸けの戦いだからそれは当然のことで、命が消されるところだったけどネヴァテオには文句を言える筋はない。


「あらそんなわけないでしょう?」


 しかしそれは命懸けの戦いの時だけ、レイアは別にネヴァテオを殺す気はない。


「じゃあなんで全力で行ったんだよ!?」


 何でさっきまで彼女はネヴァテオを殺せる攻撃を放った?


 それはーー




リアル性(・・・・)いるでしょう?」




 その理由にネヴァテオは呆れるしかなかった。

ネヴァテオ「命を幾つ持ってよかったぜ……」

レイア「あんた猫か?」


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