13。まさか可愛い女性に出迎えられるとは
2025年3月9日 視点変更(物語に影響なし)
「はい、通ってください」
「ありがとう。ところで宿を探してるんだけど……」
「あぁ、それなら燕の宿がおすすめです。門をくぐって右へ進んだら宿の看板が見られので、分かりやすいですよ」
「右か、ありがとう」
門番に礼を告げて門をくぐると、大通りに人々が忙しく行き来している光景が青年、フェルの視界に入る。
(賑やかな町だな、噂通り)
旅人として色んなところに行ったから彼にとってこの風景自体は珍しくない。
(久々の町だし、とりあえず買い物でもするか……)
明日また旅に出るかもな、と次いつ町を訪れるか分からない旅人生活に慣れた彼は今のうちに必要な物を買いに行くために左方へ向かった。
「はい、確かに。荷物はどうなさいます?」
お金を受け取った男性店員はフェルが買った物に視線を向けた。
しばらく街を見て回った後、大きな雑貨店に入って買い物したフェルは今会計を済ましいてるところだ。
「あー、大丈夫だ、ありがとう」
お礼を言ったフェルはカウンターの隣に置かれたニ個の大俵に手をかざすと俵が消えた。
「お!? お客様、魔法袋をお持ち何ですか!?」
「ん? ああ、そうだが?」
俵が突然消えたことにびっくりした店員は興奮気味で訊いた。
「いいですね! じ、時間停止の機能は!?」
「もちろん付いてるよ」
「おぉ! いいですね!」
時間停止という機能はつい最近流行っている魔法袋の新機能だから、店員の反応は妥当だ。
「興味あるか?」
フェルは店員にそう問うとーー
「あ、それは、あるにはありますよ」
何故か歯切れの悪い答えが返ってきた。
「ならエンダール王国の王都に行くがいい」
「え?」
「お前、魔法袋よりその技術の方に興味があるだろう? ならエンダール王国の王都、ルーゼンに行くがいい」
困惑している店員を無視して、フェルは魔法袋から小さなメダルを取り出して問いかける。
「名前は?」
「あ、はい、へインです」
「へイン、もし技術に興味があって、ルーゼンに行ったらこれを持ってディンゼール商会に行け」
ポカーンとした顔でメダルを受け取ったヘインは、店を後にしようとしいるフェルに言う。
「っ! ありがとうございました!」
慌ててお礼を言って頭を下げているヘインの姿はしっかりとフェルの目に映った。
▽
ちょっとした出来事があったが、買い物無事に済ませたフェルは街を歩きながら空を見る。
(もうすぐ日が暮れるし宿へ向かおうか)
部屋をとって夜になったら酒場で情報を収集でもしよう、とフェルは再びミシーの門に行って、今度は門番が教えた通りの方向、右へ進んだ。
「いらっしゃいませ! 食事ですか? それとも部屋を取りたいですか?」
「おぉー! まさか可愛い女性に出迎えられるとは!」
宿の看板娘みたいな、メイド服を着ている可愛い女性に笑顔で〝いらっしゃいませ!〟と言われ、健康な男性であるフェルは歓喜の声を上げた。
「あら、ありがとうございます」
ふふふ、と可愛い女性は笑った。
「あ、部屋を取りたいけど……」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
ナンパするつもりで来たわけではなく、目的を思い出したフェルは軽く頭を振り出す。
「どうかしましたか、お客様?」
「い、いや、なんでもない」
しっかりしろ、フェル! と彼は自分に言い聞かせたけど、すでに女性に変な人を見るような目で見られているからもう遅い。
「えっと、部屋は二一九号室です。二階上がって左へ進んだらすぐに見つかりますよ」
「ありがとう」
手続きが終わった後、鍵を受け取ったフェルは特にやる事ないから自分の部屋で休む事にした。
▽
「フェル様、何にします?」
「ん、あぁーー」
夜になって、食事を取るために一階に下りたフェルは席に着いて看板娘(仮)に注文をしようとした時、後ろの席からの会話が彼の耳に入った。
「なぁ、聞いたか? 勇者たち街に訪れたんだってよぉ」
「聞いたぞ。幻想の森に行くんだよな?」
「マジか? やめてくれよ……」
「静かになったじゃんか、あの森」
「ああ、ほっといたらいいのによぉ。だいたいーー」
中々面白い話をしていたけど、最後は愚痴だった……これ以上聞いても意味がないと思ったフェルは聞くのをやめた。
「あの〜フェル様、ご注文は?」
突然黙って動かないフェルに声を掛けた看板娘(仮)はまた変人を見るような目でフェルを見ている。
「あぁ、すまん。今日のおすすめで頼む、それとお茶」
「はい、かしこまりました、少々お待ちを」
と、看板娘(仮)は言い残して、しばらくすると大皿とお茶を載せているトレーを、酒場の雰囲気を味わっているフェルの所に持ってきた。
「ありがとう」
「はい、どうぞごゆっくり!」
お代を払った後、フェルは置かれた大皿を見る。
(大きくない? なんの鳥だ?)
非常に大きい焼き鳥はとっても食欲をそそるけど、その大きさの前にちゃんと食べ切れる自信がフェルにはない。
「……いただきます」
見ているだけじゃあ何も変わらない、完食してやると決意した彼は両手を合わせて、食べ始めた。
(うぅ……終わった……)
ゆっくり、それはもう本当にゆっくりと食べて、何とか頼んだ食物を食べ切ったフェルは何か偉大な事を成し遂げたかのように満足な顔を浮かべ、お茶を飲んで溜息を吐いた。
(美味しかった……美味しかったんだが、あの量はさすがに……)
別に彼は少食ではないけど、出された物の量が異常だから完食主義の彼にはちょっとキツかった。
(……どっかに消化しないとな)
このまま部屋に戻って寝ると健康に悪いだろうと思った彼はちょっと散歩のために宿を出ようとした時ーー
チリンチリン!
「おっと、すまん」
「いいえ、こちらこそすみません」
ドアが開かれて禿げ頭のごつい中年とばったり会った。
お互いに謝ってフェルは道を譲ると、禿げ男と彼の後ろに付いている黒スーツのクールな女性は入った。
「んん! さて、少し散歩してから部屋に戻ろうか」
宿を出て、入り口の前でフェル体を伸ばした。
「ミシーの夜はどんな感じかな〜」
そう気になって歩き出した彼の姿は夜の暗闇に溶けた。
フェル「いかんいかん! 変な人に思われてしまう所だった」
看板娘「……」
フェル「ま、待って! 変人じゃないぞ!? そう距離取らないでくれ!」
看板娘「……ソウデスネ」
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