128。何かの動物と間違えてない?
「……うぅ」
頭が打たれて気絶したレイアは目を覚まして、後ろ頭にまだ残っている痛みに呻き声を出してしまった。
「ここは……? 鎖?」
薄暗い周囲を見渡して自分が置かれている状況を確認して、吊り下げの鎖に拘束されている彼女は何かできる事はないか頭をフル回転する。
「やっと起きたか?」
そこでカチャカチャ、と鎖の音に釣られた男はレイアが拘束されている牢屋の前に来た。
「あんたっ!」
「まあまあ、落ち着け」
自分の姿を見て怒り出したレイアに男は肩をすくめた。
「……まさかここであんたと会うとはね」
「嬉しいか?」
「そんな訳ないでしょう?」
「だな」
ハッハッハ、と男は愉快そうに笑った。
「あんたが領主と手を組んでるなんて……」
「別に知らない訳ないだろう?」
「……まあね」
男はわかっている、レイアは既に色々調べて情報を持っていることを。
「いやね、ドラマチック風に言いたかっただけよ」
「何だそれ?」
「だってまさか探検者ギルドリーブリ支部のギルド長であるネヴァテオは領主と手を組んでるなんてみんな思いもしないでしょう?」
「みんなって誰だよ……」
そう! 男の正体はネヴァテオだった!
「みんなはみんなよ?」
「だから誰!?」
これを読んでいる者たちなんだよ、ネヴァテオ……。
「まあ細かい事気にしなくていいわ」
そうそう! レイアは時々フェルみたいに意味わからないこと言うから気にしなくていいぞ。
「お前余裕だな……」
拘束されているのにネヴァテオの言う通りレイアは全然焦りを見せない。
「計画あるからね」
「……それ俺の前に言う?」
お前を捕まえた人だぞ? という事を言っているかのようにネヴァテオは溜め息を吐いた。
「領主にお前の事知らないと言ったから頼んだぞ?」
「あー、他人をフリしてね? 分かったわ」
「じゃあ領主を呼ぶぞ?」
最後の確認を述べて、レイアに頷かれたネヴァテオは牢屋から離れた。
(……指輪はーーある)
一人になったレイアは改めて自分の状況を確認して、左手の薬指にフェルが贈った指輪はまだはめてあると見て、安堵の溜め息を吐いた。
(まだやれる事あるわね)
必要な物は全部指輪に仕込んであるインベントリー機能にある。それらの引き出せば今の状況を打破できるだろう。
(……あれ? できないんだけど?)
しかしいざ取り出そうとしたら何も起こらなくて、彼女は困惑している!
カツッ! カツッ!
(ど、どうしよう!?)
そこで自分が監禁されている牢屋に近付いてきている足音がして、彼女はテンパっている!
「無駄よ」
「ーーっ!?」
牢屋の前に来た領主はそんなレイアに言葉を放て、ネヴァテオと一緒に中に入った。
「その鎖は魔力を封じる素材から造れられた物よ」
「……」
考えた事あるか? 魔法が存在するこの世界の法律はどうなっているか、犯罪を犯した魔法使いはどう扱われるかを。
魔法の力は大きくて、基本中の基本である火魔法ファイアボールでさえ簡単に爆発を起こせるのだ。なんの対策もなく魔法使いをそのまま牢屋にぶち込んだらあっという間に逃げられる。
……フェルの場合牢屋に入れられた瞬間テレポートで消えるわぁ。
それで、これらの問題を解決するために対魔法使いの何かがいて、レイアの両手に繋がっている吊り下げの鎖はまさにその〝何か〟だ。
「……準備がいいわね」
「当然でしょう?」
相手は何ができるか、何ができないかわからないから領主は慎重に事を運ぶのも仕方がない。
「それで? あたしをどうするつもり?」
「そうね……死んでもらうわ」
そう言っている領主の目は本気だった。
「物騒わね……」
「不安分子を排除するのは当然でしょう?」
でないと仕事に集中できないわよ? と領主は当たり前のように言った。
「確かにね……」
「という事で頼んだわ」
領主はそうネヴァテオに命令した。
「待て待て、こいつはどこの差し金か気にならないか?」
「別に?」
「あのなぁ……」
こういうのまたあったら面倒なんだよ、と領主の発言から彼女は全然先の事を考えないと思ったネヴァテオは呆れた。
「だからこそなのよ」
しかしそうじゃない。
「どこの犬か知ったらその相手を警戒してしまうでしょう?」
そうしたら今まで通りに振る舞えないのよ、と領主は言って更に続ける。
「それを踏まえて行かせた人はいつまで経っても戻らないから、任務から逃げたと差出人は思うでしょ」
「うーん……」
本当にそうなるか? と疑問を浮かべていながらネヴァテオは後ろ頭を掻いた。
「さっきからこいつとか犬とか好き放題言ってるわね……」
「あら傷ついた? ごめんなさいね」
「うわぁ、心まったく感じねぇ」
まあ領主は謝るき全然ないからそりゃあ当然だろう。
「……どうせ死ぬから最後に聞かせて」
諦めた表情を浮かべながらレイアは突然言い出した。
「うーん、いいわ、答えてあげる」
「アンデッド化したら厄介からな……」
この世界には何らかの未練を抱えているまま死んだ人はたまに蘇生する事はある。
アンデッドは普通の手段では倒せなく、教会の者、浄化の力を使える者にしか倒されないのだ。
もしレイアの質問を答えなかったら彼女もアンデッドになる恐れがあって、そうなると教会の助けが必要になってこの洞窟の中に自分たちがやっている事は世に知られてしまうと思って、領主たちはレイアの質問を答えると決めた。
……もっとも殺される時点でアンデッドになる可能性が高いけどな。
「……なぜあの子を?」
「隣の檻の事?」
そう領主は確認すると頷かれた。
「薬を作るに手伝ってもらいたいのよ」
「薬? 子供に?」
小さい子供は薬なんて作れないでしょう? と暗に言っているレイアに領主は続ける。
「素材提供くらいできるでしょう?」
「素材?」
これだけ聞いたら領主はただ子供にお使いを頼むつもりだと思うかもしれないけど、そうじゃない。
「知っている? 角に薬効があるらしいよ?」
「……は?」
自分の耳に入った言葉に思わずキョトンとしてしまったレイアはネヴァチオに顔を向けた。
「何かの動物と間違えてない?」
「そうなるよな……」
俺もそう思ってるよ……と彼女の質問にネヴァテオは肩を落とした。
「あんた味方間違えてるんじゃない?」
「あのなぁ、好きで味方にしてるんじゃねぇんだよ」
うんざりそうにネヴァテオは顔を背けた。
「じゃあこっちの味方になったら?」
敵の関係はあまりよろしくなさそうで、これは突破口になるんじゃない? と思ったレイアはそうネヴァテオに提案した。
「あー、すまん、そりゃあできない相談だな」
「なんでよ?」
「それは……」
即座にレイアの誘いを断ったのにいざ理由が訊かれる途端、ネヴァテオは黙ってしまった。
「……なるほどね、そういう事か」
目を合わせない、悔しい表情、ちょっと強く握られている拳。
そのネヴァテオの様子を見てレイアは思考を走らせた末、ある可能性に辿り着いて領主に顔を向けた。
「ふふふ、わかちゃった?」
「大体の状況は、ね」
そして勝ち誇った顔をしている領主を見て彼女は確信した。
「弱み握ってるのね?」
ニヤリと笑みを浮かべる領主だった。
レイア「あんたどこでその知識を得たの?」
領主「とある医師に教えてもらったのよ」
レイア「……胡散臭いと思わないの?」
ネヴァテオ「それ言った……」
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