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勇者? 人違いです  作者: Adhen
124/128

124。さっきの〝おぉ!〟はなんじゃ……


「……とりあえず現状教えてくれる?」


 考えても無駄だし、フェルはここにいない。なら自分なりに何とかしなければならないと思ったレイアは状況を把握する事にした。


「そうさね……見ての通り路上生活しておる」


「……」


 この子とね、と老婆はヴァリヌーの頭にポン、と手を置いた。


「……どんな経緯?」


「この生活の始まりかい?」


 リーブリの領主は民から愛されて、色んな褒め言葉を貰っている人物だ。そんな人物の管理下にあるリーブリにこのスランプのような場所はないはずだとレイアは思った。


 しかし彼女は実際にそこにいる。


「……確かにリーブリ領主は優秀な人だ。だからこそ何を捨てて、何を拾うか判断できるのさ」


 自分の利益に繋がらない要素を切り捨てて、代わりに利益になる要素を拾う。


 確かに領主としては必要な技量だ。


「ワシはたまたま違う側にいた、それだけじゃ」


 と老婆は小さく笑った。


「……でもヴァリヌーちゃんは違うでしょ?」


「その通りじゃ」


「……」


 自分の名前が話に出て、ヴァリヌーは膝を抱えて俯いた。


「この子の両親は数少ない領主のやり方に賛成しない人たちだった」


 優秀な領主はそんな人たちを蔑ろ訳がなく、先手を打って処理した。


「……なるほどね」


「ヴァリヌーの両親もその中にいたのさ……」


 まだヴァリヌーは赤ん坊の頃の話だ。


「あの時ヴァリヌーはワシの所にいたのはせめての救いじゃ」


「……」


 俯いているままヴェリヌーは小さく頷いた。


「驚いたわ」


「何にだい?」


「誰もがいい人だと言われてる領主にそんな欠点があるとはね」


 完璧な人間はいないからな。誰も欠点を一つや二つ持っているのだ。リーブリの領主はたまたまエグい欠点を持っているという事だけだ。


「まあ話はわかったわ」


 しかし、とレイアは前置きしてから更に続ける。


「何をすればいいかまだ分からない」


 それは仕方ない。


 一番簡単なのは老婆たちを精霊王国マナフルに連れて行く事。だけどそうしたら一旦精霊王国に戻らなければならない。


 有限な時間の中にやるべき事があるレイアにそれは論外だ。


 テレポートは使えないし、フェルみたいにいつでも大精霊を呼んで転移を頼めないし、レイアに残された選択肢は少ない。


「……ところで、約一年前の事だけど、空に光玉見た?」


「む……老人の記憶力試すんじゃない」


 遠に忘れたわい、と老婆は笑った。


「いや、さっき昔の出来事語ったじゃん……」


「それは別件じゃ」


「えぇー」


 自分が経験した衝撃的な出来事だからな、そりゃあ記憶に残るわ。


「ヴァリヌーちゃんなんか知らない?」


「……」


 まだ子供であるヴァリヌーの記憶力ならワンチャンあるかも知れないと思って、レイアは俯いているヴァリヌーに話を振った。


「……見た」


 そう言って、ヴァリヌーは立ち上がって周りを見渡す。


「あっちからあっち……」


「それ確かなの?」


 彼女の目を見て、レイアは確認すると頷かれた。


「うーむ、南の方じゃな……」


 この前も説明したけど、このリーブリという町は人間が住んでいる大陸の南にある町で、魔族が住んでいる大陸、魔大陸との境界にあるのだ。


 つまりーー


「……魔大陸にいるの、フェル?」


 もしヴァリヌーの言う通り、フェルに思われる光玉は南の方へ飛んだら彼は魔大陸にいる事になるのだ。


「どうやらただ事じゃないのう……」


「……」


 南の空を見上げて小さく呟いたレイアに老婆は彼女の真剣さを感じた。


「じゃが本当に南方へ飛んだかのう?」


「……うん」


 彼女の様子だとレイアはこのまま魔大陸に行くだろうと思った老婆はヴァリヌーにもう一度確認したけど、答えは変わらなかった。


「方向的に合ってるわ」


 ドライアードの証言も、フィリーの情報もどちらも南方へと示したから、ヴァリヌーの証言は間違いないとレイアは結論に至った。


 問題があるとしたらーー


「どうやって魔大陸に行くかな……」


「本当に行く気じゃな……」


 そりゃねぇ、と肩をすくめたレイアはふと思い出した。


「そういえば魔族が人間に攫われたという奇妙な噂聞いたけど、なんか知らない?」


「……普通逆じゃろう」


「だよね……」


 力に優れている種族である魔族が人間に攫われた? 普通に考えたら有り得ないのだ。


「……見た」


「「え?」」


 しかしヴァリヌーは目撃したと言った!


「ヴァリヌー、魔族見たことあるかい?」


 まあ、幼いヴァリヌーは魔族との接点ないから老婆の質問は妥当だ。


 本とか読まない彼女は魔族との接点はないから彼らの見た目分からないだろうと老婆は思っている。


「ある……」


 自信満々でヴァリヌーは頷いた。


「いや、いつじゃ?」


「攫われた時」


 いや、まあ……うん。


「……」


「間違いないけどね……」


 だな。


 見たことあるかないかと訊かれたら、魔族が攫われたと見たからそりゃああるだろうな。


 これは質問の仕方に問題があるとしか言えない。


「ヴァリヌーちゃん、攫われた人の特徴分かる?」


 獣人に尻尾と獣耳が付いているように、魔族にも特徴はある。


「ツノ……」


 サイズは様々だけど魔族の頭に必ず角が付いている。


「他には?」


 しかしそれだけだと獣人と見間違う可能性はあるから、レイアとしては他に特徴はないか確認したい。


「……ハネ」


「うーむ、獣人かもしれんのう」


 羽と角だけだとまだ確定になれない。


「獣耳なかった?」


「……なかった」


「「……」」


 獣耳、それは獣人だけに許される特徴だ。


 それがないという事はヴァリヌーが見た攫われた人物は魔族である可能性は高い。


「……その魔族を助けたら道案内してくれるかもしれないわね」


「お主本気かい?」


 うん、と魔大陸に行く気満々レイアは頷いた。


「攫った人みた?」


「……」


「どんな人?」


 その人の特徴を聞いて、後で情報屋にも頼んだら特定できるかもしれないとレイアは思ってそうヴァリヌーに質問した。


「……」


 しかしどう説明すればいいかヴァリヌーには分からない。


「……」


「ん?」


 だから彼女は焚き火からできた木炭を一つ取って、地面に見た人の似顔絵を描いた。


「……」


「ヴァリヌーよ、成長したのう……」


 それが終わって、彼女はレイアに振り返ってドヤ顔を浮かべていて、絵を見た老婆は彼女の頭を撫でた。


「……全然わからんわぁ」


 しかしレイアはその絵を解読できなかった!


「……」


「ん? ここがポイントなの?」


 そんな彼女にヴァリヌーはトントン、と自分が描いた絵のある部分を木炭で叩いた。


「お主分からぬのか?」


「え? 分かるの?」


「うむ、ヴァリヌーは上手くなったからのう」


「あー、うん。そうだね……」


 ダメだこのお婆さん、ヴァリヌーちゃんのこと甘やかしすぎる、とレイアこの時思っていた……。


「ここをよーく見ておくれ」


「……」


 もう一度ヴァリヌーが示した点を老婆は指差して、言われた通りレイアはマジマジとその点を見ている。


「……おぉ!」


 やがて彼女は目を大きく開いた!




「やっぱ分からんわ」




「さっきの〝おぉ!〟はなんじゃ……」


「……」


 ダメだねお姉さん、と言わんばかりにヴァリヌーは頭を横に振った。


「ワシが知っている限りこの頭とこの目をしている奴は数人しかいないのじゃ」


「一人じゃなく数人だね……」


「当たり前じゃ、この町にどんだけ人がいると思っているのじゃ?」


 人が多ければ多いほど似たような人は多くなるからな……。


「じゃが魔族を攫える奴は一人しかいないのじゃ」


 だけど記憶に存在している数人の中に情報にピッタリとハマる人は老婆の中に一人しかいない。


「老人の記憶力はどうこうと言ったじゃん……」


「人の顔くらい覚えているわい!」


「ん? どうしたの、ヴァリヌーちゃん?」


「……」


 と老婆にツッコミを入れたレイアの服はヴァリヌーに引っ張られて、レイアを見上げている彼女は首を横に振った。


「あー、うん、ごめん」


 話が進まないからツッコミは禁止、と言わんばかりにその動作にレイアはばつが悪そうに顔を背けた。


「良いか? この人物はのうーー」



 と老婆に出された名前を聞いてレイアは目を大きく開いた。

老婆「ワシとしてよく覚えておるわい」

レイア「さっき人の顔くらいーー」

ヴァリヌー「……」

レイア「あー、ごめん」


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