121。すまん……ウチの仲間が
「……ここが南の町、リーブリ?」
大きな門を見上げてレイアはそう呟いた。
「リーブリに初めて?」
その呟きを聞いたこの旅に仲良くになった女護衛は彼女の隣に来て、一緒に門を見上げる。
「王都には負けるけど、中々の門でしょう?」
一瞬精霊王国マナフルの事を言っているかと思ったレイアだけど、今も作動している結界の効果である意味隠れ里みたいな自分が経営している国の事は女護衛が知るはずがないとすぐに思い直した。
それにレイアは精霊王国マナフルの人間である事を言っていないから、女護衛が言っていた王都は精霊王国マナフルのわけがない
「……そうですね。それにしてもすごい分離壁ですね」
それらの事を踏まえて、ボロを出さないようにレイアはすぐに話題を変えた。
「そうでしょ?」
二人が言っているのは終わりが見えない左右に伸びる高い石の壁だ。
「あの壁はね、魔族の侵入を防ぐために建てられたの」
ここは大陸の南にある町、そして人間が住む大陸と魔族が住む大陸の境界でもある。
この壁は魔族の侵略を恐れているお偉いさん達が集って、膨大な資金をもって完成させた物なのだ。
「なるほど。だから衛兵も沢山いますね」
境界だけあって他の町より衛兵は沢山いる、万が一侵略の試みがあった場合に備えるためだ。
「まあそうだけど……」
うーん、と女護衛は城壁の上に待機している衛兵たちを見渡して首をかしげる。
「あ、普段より多いね」
なんとなく違和感を覚える彼女はしばらく考えて、そう結論した。
「何がですか?」
「衛兵よ」
一定の距離ごとに衛兵は数名いて、城壁の上から周囲を警戒している。
「一体何なんだろう……?」
「何だ、知らないのか?」
状況を掴めていない女護衛に仲間である男護衛は近付いて、一緒に城壁を見上げる。
「最近壁の付近に魔族が頻繁に見られてるらしいぜ」
「え? 何で?」
「いや、何で俺に訊くんだよ?」
同じく着いたばかりだろう? っていうか一緒に着いたじゃん! と男護衛は抗議した。
「とにかく依頼は達成、報酬はギルドに振り込むからそこで受け取れって依頼人からの伝言だ」
「じゃあ自由時間ってことだね?」
その問い掛けに男護衛は頷いた。
「レイアさんどうする?」
「え? えっと、まずは宿を探そうかなと思います」
せっかく町に来たから野宿したくないもんな。
基本自分の活動している町か村、拠点以外に着くと探検者はまず屋根を探すのだ。
「えー? 一緒に買い物しようよ」
「お前も探せ」
女護衛に腕が組められて誘われたレイアは困っていると見て、男護衛は助け舟を出した。
「じゃあレイアさんと一緒に探すわ」
「あのなぁ……」
頑固にレイアと一緒に町を回りたい女護衛に男護衛は頭を抑えてしまって、溜め息を吐いた。
「だ、大丈夫です」
「すまん……ウチの仲間が」
いえいえ、とレイアは申し訳なさそうにしている男護衛に言った。
何だかルーガンとネアに似ている二人の探検者である……。
▽
「ーーはっ! それはあくまでお偉いさん達の言い分だろう? オラァ見たぜ」
「な、何を?」
「魔族の子供を攫った人をさ!」
「……お前飲みすぎじゃない?」
「ヒック……そんな事なーー」
「ーーお客様、ご注文は?」
「あ、今日の定食でお願いできますか?」
「かしこまりました。少々お待ちを」
リーブリに着いてから数日が過ぎて、レイアは今日も情報取集する為に酒場にいる。
近くのテーブルに中々面白い話をしていて、思わず耳を傾かせてしまったレイアに給仕は再び話しかけた。
(昨日よりマシ、かな? まあ、信憑性はどうかと思うけど)
目星の情報は今日もないのだ。
今の情報の語り手は酔っ払っているからレイアからすると疑わしい。
「ねえ、お姉さん一人か?」
「……」
ここ数日の間、レイアにとって一番憂鬱なのはこれ。
「無視しないでくれよ、お姉さん」
ナンパだ。
「……あのね、間に合ってるから他当たりなさい」
そう言いながら彼女は自分の左薬指にある指輪を見せた。
「それがどうした? 少なくとも今は一人だから、バレないぞ?」
「はぁ……」
「ちょっと待ってくれ!」
呆れて丁度食事が終わっているレイアは立ち上がって酒場を出る。
大体のナンパはレイアの指輪にだけ諦めるけど、時々今の男みたいにしつこく誘う人はいるのだ。
「待てってつってんだーーっ!」
「兄さん、帰った方がいいぞ」
ナンパ男は去っていくレイアの肩を掴もうとしたらその腕は突然捕まった。
「おい、てーーっ!? わ、分かりました!」
自分の腕を掴んでいる相手を見るとナンパ男の態度は突然変わって、早足でその場から去った。
「礼は言わないわ」
と、レイアは新たに現れた人物を見て、またナンパかと内心でうんざりした。
「ああ、あの兄さんのためにやったからそれでいい」
ちょっとラフな格好をしている人物、男は元々レイアを助けるためにやったではなく、レイアの言葉を答えながら肩をすくめて溜め息を吐いた。
実はさっきナンパ男を対応するためにレイアは既に魔力を集めたのだ。
もしこの男が止めなかったら今頃そのナンパ男の意識はないだろう。
「んで? 何の用?」
「ただ世間に精霊の仲間と呼ばれてるレイアという人物はどんな人か見たいだけだ」
意味ありげな言い方を放って、男は真っ直ぐにレイアの目を見る。
「……何者?」
捨てた昔の称号、精霊の仲間。一般人はレイアのその肩書きを知るはずがない。
だから男はただ人じゃないと彼女は悟って、警戒心を上げた。
「おっと、自己紹介はまだだったか」
それで男はわざとらしく驚きの表情を浮かべて、一咳払いしてから名乗る。
「リーブリ支部探検者ギルドのギルド長、ネヴァテオだ」
よろしくな、と歯を覗かせている笑みを見せた男、ネヴァテオギルド長は手を差し出した。
女護衛「いや〜いい買い物したね」
レイア「だね〜」
男護衛「づかれだぁー」
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