120。女子力上げた方がいいよ?
2025年9月1日 マイナー編集。
「いやぁ、お姉さんのおかげで予定より早く森を抜けられたね」
レイアは精霊王国マナフルを旅立ってから既に数ヶ月が過ぎた。
南方を目指している彼女はエンダール王国の首都、技師の街と呼ばれるルーゼンに立ち寄って、フェルの仲間であるディンの所に顔を出した。
そこでディンの知人は南の町を目指して、護衛を探していると情報をもらったレイアは探検者ギルドでその任務を受けて、こうして商人のキャラバンと行動している。
それで彼女たちは今ちょうど南の町を目指す旅に必ず通る事になる森を抜けたのだ。
「いいえ、皆さんが頑張っていたからですよ」
「謙遜し過ぎるぜ、姉さん」
そう言って、一人の青年はやってきて抱えている焚き火用の枝を降ろした。
「テキパキに指示してたからな」
「ね。レイアさんは護衛に加わってよかったよ」
「そんな、大袈裟ですよ」
他の護衛たちのメンバーに褒められたレイアはちょっと恥ずかしくなって頭を振った。
しかし彼らが言っている事は大袈裟ではない。
実際に森の中で移動していた時、レイアはどこに何があってどんな生き物がいるか感知することで一行は事前に備える事が出来た。
本人の技量もあるけど、それらはドライアードの加護のおかげでもあるのだ。
「今日はここで野営した方がいいだろう」
「そうね。この後の野営場までかなり距離はあるからね」
暗くなる前に野営の準備を済ませたいしね、と護衛たちは決めて野営の準備に入る。
「では何か見つけますね」
「あ、なら俺もーー」
「いえいえ、護衛を薄めるわけにはいけませんから一人で大丈夫ですよ」
狩でもしようかと思って、レイアは立ち上がって再び森に入ろうとすると護衛の一人は同行に名乗ったけど、レイアに断られた。
「……」
「やめておけ、お前には荷が重過ぎる」
「うっ……」
遠ざかっているレイアの後ろ姿を眺めているその青年護衛は仲間にそう言われて、肩を落とした。
「何言ってるのあんた達? 彼女結婚してるよ?」
「「え!?」」
突然の事実に二人の護衛は驚きを隠せなかった。
「はぁ……彼女の左手見た? 薬指に指輪はあったよ?」
そんな仲間を見て、女護衛は呆れて何もない自分の左薬指を見せた。
「え!? マジで!?」
「はっはっは、最初からチャンスはないってわけだな」
「うぅ……」
快適に笑われて、青年護衛はシュンとした。
「っていうかあれ程の女性よ? 相手はいない方がおかしいよ」
まあ、大体の場合いい女の後ろに男はいるからな。
「で、でもその指輪、結婚指輪じゃない可能性あるだろう?」
「まあ、あるけどね」
その言葉を聞いて、青年は密かに安堵を吐いた。
▽
「……ふん!」
「ブヒィイイッ!」
イノシシに魔法を発動した直後、レイアは茂みから出て傷付いたイノシシを追った。
「タッフね……魔法間違えたかな?」
彼女が放った魔法は限りなく小さく細くしていた風魔法である。
針みたいなその魔法はイノシシの心臓に命中したけど、傷口は小さいからイノシシが倒れるまで時間がかかったのだ。
「……こういう判断も鍛えるべきだね」
何が間違ったのか考えて、反省したレイアは右手をかざすとイノシシは消えた。
「さて戻るか」
あまり長い間離れると他の連中に心配されるかもしれないし、迷惑だしと思って、レイアは戻る事にした。
「お? 何か捕まったか?」
野営場に戻った彼女は見張りしている男の護衛員に出迎えられた。
「ええ。結構いいのがありますけど、料理できる人います?」
「ん? あー、それならうちの仲間に任せてくれ」
こっちだ、と護衛員は自分の仲間である女護衛の所にレイアを案内したあと自分の持ち場に戻った。
「それでレイアさん、狩の成果はどこにあるの?」
「えっと、ちょっと……」
「ん? まだ森の中なの?」
手ぶらで戻ったレイアを見て捕まえた獲物はまだ森の中にいると思った女護衛は先に移動したレイアの後を追った。
「それで?」
「ええ、これ何ですがーー」
「え、魔法袋もってるの?」
何もない所に止まったレイアは手をかざすと捕まえたイノシシは突然現れて、それを見た女護衛は何が起こったか一瞬で理解した。
「はい、一応」
「いいな……」
レイアは腰に吊るされている小さな鞄を見せると女護衛は羨ましそうに言った。
「でも別に隠す必要はないじゃない?」
「いいえ、隠したいわけじゃありませんよ。あそこでこのイノシシを出すわけにはいけませんから」
「まあ、野営場が血腥くなるからね」
うん、と頷いたレイアだけど、本当の理由はそれじゃない。
彼女は自分の左薬指に嵌められている指輪の能力を隠したいのだ。
腰に吊るされている小さな鞄を見せても、自ら野営地にイノシシを出さない理由を言わないのも全部相手の勘違いを招いて、指輪の能力を隠すためだ。
一応その指輪チートレベルくらいの能力を持っているからな。
「しっかしこれ良く狩れたね……外傷はこの一点だけか。どうやって仕留めたの?」
地面に横たわれたレイアが持ち帰った狩の成果であるイノシシをどこからどう捌くか考えていながら、女護衛はレイアに話掛ける。
「えっと、風魔法でーー」
これなら隠さなくてもいいだろうと思ってレイアはさっき使った魔法を説明した。
「いやぁ、一人旅してるからわかるつもりだったけど、思ったより凄い腕の持ち主だね」
一人旅している美女であるレイアは強いと思った女護衛は説明を受けるとその認識を改めた。
「いえいえ、凄いだなんてとんでもありません」
しかし当の本人は自分より強い人は身近に沢山いると知って、女護衛の褒め言葉を素直に受け入れなかった。
「あのね、そう精密に魔法を操れるあんたは凄くないなら私みたいな魔法使いは全員ゴミになるのよ?」
「それは……すみませんでした」
実際に今のレイアは一般の魔法使いよりずっと強いから、女護衛が言っている事は間違いじゃない。
「いいよ。それより手伝ってくれない?」
「す、すみません、料理できません」
「……女子力上げた方がいいよ?」
魔法の腕ばかり磨くんじゃないわよ、と女護衛は言い足した。
「えっと、必要ないかもしれませんよ?」
女子力は高い方が女性として有利かつより早く男を捕まえるぞと暗に言っている女護衛に、レイアは左薬指に嵌められてある漆黒の指輪を見せた。
「あー、やっぱり結婚指輪なんだ」
「やっぱり、とは?」
「いやね? レイアさんまだ独身だと思ってるウチの仲間が居てね」
「はぁ……なるほど」
こりゃああいつ泣くわ、と女護衛は笑った。
「まあ、あいつの事はどうでもいいよ。それより手伝って!」
「いえ、ですからーー」
「いいからいいから」
「わ、わかりました……」
この後レイアの女子力は上がった、少しだけ。
女護衛「まずは包丁の握り方ね」
レイア「え、えっと、こうですか?」
女護衛「……本当に女子力低いね」
レイア「……」
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