118。ちゃんとしてくれんかのぅ、お主ら
2025年9月1日 マイナー編集。
「ーーっ! 今のは……? 何かがずれているような……?」
それより早く王の所に行かないと! と違和感を感じたドライアードはふと止めた足を再び運び出した。
テレポートすれば早く着けると思うだろう? しかしフェルが戦っている所に彼が張った結界はあってできないのだ。
基本フェルの意志に従うドライアードだけど、今回その判断は間違いかもしれないと彼女は思い始めた。
「王、どうかぶじーーっ!」
ドライアードは全力で走りながらそう願っている時だったーー
「い、今の、は……?」
ーーフェルがいる方の上空に光玉は上昇してやがて雲の間に消え去って、その光景を見たドライアードの足は止まってしまって、彼女は気付いた。
「王が張った結界消えた……?」
フェルの魔力から出来たテレポート禁止結界は消えたと彼女は感じた。
「戦いが終わったってこと? 何にしても結界が消えたらーーん?」
結界が消えた今フェルの所に直接転移できて、そうしようとしているドライアードは首を傾げる。
「おかしい……王の気配感じない」
西に敵軍を相手にしているはずだが、とフェルの位置を彼の魔力から特定するつもりだったドライアードは小さく呟いた。
何か起こっているか分からない彼女はちょうどフェルがいる西の平原が見える森の縁《ふち》にテレポートする事にした。
したけどーー
「王……?」
彼女の目には困惑しているレヴァスタ王国軍に囲まれていてあぐらをしているフェルの姿が入った。
「王! だいじょうーーっ!?」
とドライアードはフェルの側に転移し、彼の様子を伺うとまるで稲妻に打たれたかのように彼女は衝撃を感じて固着してしまった。
「だ、誰だ!?」
彼女の突然の登場に騎士の格好をしている男、護衛隊長は構えを取って警戒を上げた。
「お? 美人だぞ!」
「おぉぉぉ! おい、ミウラ! こいつ俺のだぞ!」
「何!? こんな美人をお前だけに譲るわけないだろう!?」
だけど二人の勇者はその逆で、ドライアードのあまりの美しさに目が眩んで、言い合いし始めた。
「おい、聞いているのか、貴様!?」
「……」
再び誰何した隊長だけど、ドライアードは未だに微動だにせず、固着状態のままだ。
「おいおい、隊長さん、こんな美人にあまり強く当たらないでくれよ」
「ナリタ様、この女性は敵側の人かもしれません! しかもこの犯罪者の知り合いらしいですよ!」
「なら尚更捕まえて色々と訊かないとな」
「だな! オレ様に任せーーぐあぁっ!」
近付いて、ドライアードの肩を捕まえようとしている勇者ナリタは突然吹き飛ばされた!
「気軽に触るな!」
もちろん、ドライアードにだ!
「ナリタ!? おい貴様、何をした!?」
「黙れ! 王は何をしたと言うのだ!? 裏で貴様らの間違いを何度もフォローしたのだぞ!?」
「な、何をーー」
「なのにこれか!? この恩知らず者め! 良くもーー」
力強く拳を握っているドライアード。彼女は激昂している事はその震えている肩から伝わるのだ。
何故ならーー
「良くも王を殺したなああぁぁ! ゆるさない!」
彼女が支えしている王、愛している男は死んでいるのだ!
怒りに支配されている彼女は魔力を見えない人にも見えるようになる程高密な魔力に包まれている!
「ミ、ミウラ様! こいつは危険です!」
「見りゃあ分かる! やるぞ、ナリタ!」
「おう! 最速で行くぜ!」
「「ライトスーーっ!」」
流石に目の前にいる女性は只者じゃないと理解した勇者たちは身を守る為に攻撃を仕掛けようとしたけど、彼らの動きは突然止まった。
「死ねぇぇ!!!」
ドライアードは自分の周囲に集めた高密な魔力を勇者たちの攻撃より速く放った!
「……」
……。
「?」
しかし何も起こらなかった。どうなっている? と彼女は考えている時、それは起こった。
グオオォォォー!
「うわっ! お、おい、なんだあれ!?」
「オ、オレ様に訊くなよ!」
空を見上げ、指差ししながら二人の勇者は後ずさりしていて、一体何指差ししているか気になったドライアードは勇者たち、そしてレヴァスタ王国の兵士たちを見上げている方向、後ろに振り向くと丁度フェルの真上の上空に黒いモヤがあった。
そのモヤは段々濃くなって、やがて一つの存在になった!
「し、死神!?」
「ひぃぃ! ミ、ミウラ、流石にこれはやべぇぞ!」
「そ、総員撤退だあぁ!」
それを見た勇者たちとその一行は撤退し始めた!
『契約違反、代償を貰おう』
上空にいる存在、死神はその存在の証である鎌に力を蓄積し、赤色のオーラに纏われるその鎌をを掲げて、逃げている勇者たちの方へ振った!
グオォォォン!
「「「うわああぁぁー!」」」
鎌から放たれた高速な赤黒の波動に当てられた勇者たちは悲鳴を上げて次々と倒れた!
『次の代償』
空を見上げる死神は突然消えた。
「ーーっ!? 一体、何が?」
何が起こっているか全く理解出来なくて、目の前に広がっている光景をただ呆然として見ているドライアードは我に返った。
「うぅー」
「あ、あぁー」
そして次の瞬間、倒れた勇者二人は上空から落ちる光柱に照らされて、立ち上がった!
しかしその様子は可笑しくて、まるで映画に出て来るゾンビみたいだった!
「な、なんだ、お主ら……?」
その二人の勇者を警戒していつでも魔法を発動できるようにドライアードは身構えを取ると彼らは突然発光し、上空へ天翔けて南東の方へ消え去った。
「ーーっ王!?」
そしてその直後ほんの少しだけ、それも一瞬だけドライアードはフェルの気配を感じて、後ろへ振り向くと死んだはずのフェルの体もさっき二人の勇者と同様に発光して、空へ舞い上がって勇者たちと同じ方向へ飛び去った!
「ドライアード様!?」
呆気に取られているドライアードの所にディアとルナは走ってきている!
「大丈夫ですか、ドライアード様!?」
「一体何が起こっているのですか!? フェルは!?」
「……それはーー」
と二人に訊かれて、ドライアードは先ほどの出来事をありのままに説明した。
「そ、そんな、フェルはーー」
「っ! ルナねぇ!」
信じられない、受け入れられない、信じたくないと言わんばかりにルナはその場で膝についてしまって、ディアは咄嗟に彼女を支えた。
「……」
そんな彼女たちにかける言葉が見つからないドライアードはただ俯いて黙っている。
当然だ、彼女も相当ショックを受けているのだ。
「……とりあえず部下を呼んでここを片付けて貰いましょう。他のところにもほぼ終わっていますし」
「そ、そうですね。その後城に戻りましょう」
とディアの提案に幾分落ち着きを取り戻したルナは賛成した。
「……必要ないーーノーム」
「呼んだか、ドライアード?」
「あっちにある死体の片付け頼めるか?」
結構な数の兵士を連れて襲って来たレヴァスタ王国は一人残らず死体になったのだ。
自国の兵士たちに片付けを頼めないわけじゃないけど、それだと時間が掛かりすぎると思ったドライアードはノームを呼ぶ事にした。
「うーむ、じゃあ埋めよう」
実際にその判断は正しく、土の大精霊にとって簡単な事で死体は次々と地中に引き込まれて消えた。
片付けは一瞬で終わった。
「ところでドライアード、兄貴の気配感じないけど?」
兄貴、それはノームがフェルに対しての呼び方だ。
「……城に戻ったら話す」
「……なんかあったね。わかった先に戻るよ」
ドライアードの深刻な顔を見て、只事じゃないと何となく悟ったノームはそれ以上追求しなくて、先に城に転移した。
「我々も戻ろう」
ディアたちは頷いて、ドライアードは転移を発動した。
他の連中にどう説明すればいいかと悩んでいながら……。
▽
「「「……」」」
「……そう、ですか」
城に戻って、ドライアードは食堂に集まった他の連中に見た出来事を説明すると部屋はしばらく沈黙に支配されていて、やがてアンナはそう呟いた。
「で、でもフェルの姿消えたでしょう?」
「そこだよなぁ……私もドライアード様から聞いたとき不思議に思っていた」
レイラの言葉にディアは自分の考えを述べた。
「ドライアード様、死の確認しましたよね? 確かなのですか?」
「……流石に人間の死くらいわかるぞ」
「別にそういうつもりで質問したじゃーー」
「ではさっきの質問何んだ!? ワレは人間じゃないからーー」
「ですからそういうつもりで訊いたーー」
「二人共落ち着いてください!」
「「ーーっ!」」
外見こそ落ち着いているように見えるけど、ドライアードとディアも他の連中と同じくかなり動揺していて現在の精神状態は不安定だ。
そのせいで二人は段々とヒートアップしていて、それを見たアンナは流石に放っておくわけにはいけず、二人の間に入った。
「……すまん、ディア」
「いいえ……言葉が足りなかった私もすみませんでした」
幾分冷静さを取り戻した二人はお互いに謝罪して頭を下げた。
「全く……ちゃんとしてくれんかのぅ、お主ら」
「「「っ!」」」
とそこで彼女たちの耳に聞き覚えがある声がして、思わずその声の方に向いてしまった。
「マクスウェル様、エイオン様……」
そこには少年少女の姿をしているマクス爺とエイオンがいた。
「フェル坊は死んだ、どう否定しようとそれは変わらん。すぐにとは言わんが受け入れろ」
「「「……」」」
流石に改めて言われると実感して食堂にいる全員は黙ってしまった。
「どういうわけか知らん、 じゃがやつの死体が消えたのも事実じゃ」
「マクスウェル様、何か知っていますか?」
「知らんと言ったじゃろう?」
もしかして、とレイアは思って訊いたつもりだけどマクス爺の即答にその希望は再び消えた。
「じゃが死体が消えたのも解せぬのぅ……どう思う、エイオンよ?」
「……死んでいますよ、フェルという人間は」
「「「っ!」」」
マクス爺の後ろについているエイオンは軽く頭を振ってそう言った。
命の大精霊である彼女はその気になればこの世にある全ての生き物の状態を感知できる。
だから彼女の断言は食堂にいるみんなにとって重かった。
「王……」
「フェルさん……」
「……ばか」
「……」
その命の大精霊の言葉は決定打になって、やっと実感した女性陣たちの涙がーー
「……一つ、よろしいでしょうか、エイオン様?」
こぼれそうになったその時、アンナは突然エイオンに質問をぶつけた。
「何かしら?」
「命の大精霊であるエイオン様がそう言うのですから間違いありませんよね?」
エイオンは頷いて、それを見たアンナはさらに続ける。
「じゃあフェルという精霊は?」
そのアンナの質問にエイオンは笑みを浮かべた。
ディア「先程すみませんでした、ドライアード様」
ドライアード「いや、ワレの方こそすまなかった」
ディア「い、いいえ、私がーー」
ドライアード「いや、ワレがーー」
ディア「私がーー」
アンナ「いい加減にしなさい!」
二人「……」
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