113。それが暇と言っとるのじゃ!
2025年9月1日 視点変更(物語に影響なし)
「おい、この魔法いつまで続くんだ?」
炎の柱を前にして暑いと思いながら勇者ミウラは魔法隊に向けて訊いた。
フェルはこの魔法を耐え切れる可能性があるから勇者たちはここから離れる訳にはいかない。
すぐにフェルに止めを刺せる為にな。
「この魔法は魔法隊員数名が連携して発動した魔法ですからーー」
この魔法にはいくつかの過程があって、レヴァスタ王国の魔法隊員は各自が担当する過程をこなして最後にそれらを一つにする。
一人の隊員は一つの過程に集中するから魔力を多く込められてーー
「魔法が長く続くのですよ」
と、護衛隊長は勇者二人に説明した。
「あー、ダメだ! 暑すぎる!」
「おい、どこ行くんだ!?」
「お前暑くねぇのかよ!?」
「暑いに決まってるだろう! だが万が一のために耐えろ!」
「いや、これ耐えれるわけねぇーー」
ドーン!
もう耐えられなくて早足で下がろうとしている勇者ナリタはセリフを言い終える前に魔法が突然爆発した!
「う、うわぁああぁぁぁー」
「くっ! な、何だ!?」
激しい爆破に気を緩みすぎた勇者ナリタは吹き飛ばされた!
「一体何がーー」
「ったく、火魔法以外使えねぇのかよ……」
と勇者ミウラは魔法隊に状況を確認しようとしたら爆破の中心からフェルの呆れた声がした!
「マジか!? 無傷だと!?」
「……やはりこのガキは犯罪者フェルですね」
爆破を耐えた護衛隊長に勇者ミウラはもしかしてナリタより強いんじゃね? と一瞬思っていた。
「上から聞きましたが、まさか本当とは」
「上から?」
「前宮廷魔術師であるルナ・エアネス様もこの犯罪者に似たような魔法を使いましたが、殺せませんでした……」
「じゃあなんでさっきの魔法を使った!?」
あー、フェルに火魔法が効かないとわかった上でさっきの火魔法を使った事になるからな。
「……」
隊長が顔を背けた!
しかしまあそれは仕方がない。
彼の中にどっかに上司の言葉を疑っていたのだ。
何せあのルナ・エアネスの最上位火魔法を喰らっても生き残っていたからな、フェルは。
「っていうかさっきの魔法、もっと長く続くじゃなかったのか!?」
「そのはずでずがーー」
「あー、あんな魔法を喰らって何もしない訳ないだろう?」
服についている埃を叩き落としているフェルは隊長の視線に気付いて、そう言った。
「というかなぜ貴様は無傷だ?」
傷はおろか、服すら焦げていないのフェルを勇者ミウラは睨む。
「いやぁ、外見に傷はないが心に結構あるぞ……」
「……貴様の心情なんざ知りたくないのだが」
敵だからな、当たり前だ。
「だろうな。んで? どうする?」
突然の爆発を踏ん張って耐えていたものの、止めを刺すチャンスを見逃したから、勇者たちは選択肢に狭まれている。
「どうするも何もテメェを殺すしかねぇだろうがーーっいててて」
吹き飛ばされた勇者ナリタは後ろ頭をさすっていながら戻ってきた。
「撤退した方がいいと思うんだけどな……」
実力の差は明らかだ。これ以上やってもどうせ勝てない、無理、時間の無駄とフェルは暗に言っている。
「そうはいかない。貴様が幻想の森を消したせいで我が祖国は多くの民を失った。その罪を償ってもらうぞ!」
ミシーを含めて、幻想の森の付近にあった人々の住処は魔物に襲われて、多くの人は命を落としてしまった。
事件の真実を知らない人からしたらレヴァスタ王国の言い分を信じて、フェルは犯罪者だと思っている。
それは濡れ衣だとレヴァスタ王国の人間は誰も、隊長も気付かない。
「はぁ、今更なに言っても無意味だしそれでいいよ」
それに関してフェルはどうでもいい気持ちになった。
どうせレヴァスタ王国、特に軍人である隊長に何言っても言い訳にしか聞こえないだろう、と。
「それで? その犯罪者である俺を何とかできるのか、お前らだけで?」
「「「……」」」
さっきから勇者たちは頑張っているけど、それでもフェルには届かない。誇りに思っている魔法隊の連携魔法も効かなかった。
改めて突きつけられたその事実に勇者たち押し黙ってしまった。
「そういえば勇者サトウは今代召喚された勇者の中に最も力強いと言われたよな?」
とそこでフェルは突然思い出して勇者サトウの名を口に出した。
「……それがどうした?」
「いやなぁ、その最強勇者さんでさえ俺に勝てないからお前らも無理だろうな、と」
まあ、幻想の森でその最強勇者に胸が貫けられたけど、最終的にあの時ドライアードによって勇者サトウとその仲間はフェルに殺されずに済んだのだ。
それに勇者二人がかりでさえも勝てそうにないからいくら最強と言われても勇者サトウは絶対フェルに勝てない。
「おいおい、オレ様たちはサトウより劣るって言ってんのか?」
比べられた事に気が触られて、勇者ナリタはフェルを睨む。
「事実だろう?」
当たり前だ。
でないと勇者サトウは最強と言われないからな。
「……ミウラ、あれやるぞ」
「はぁ、あれだけは使いたくないんだけど仕方ない……隊長、時間を稼げ」
その事実を受け止められなくて勇者ナリタは低いトーンの声で勇者ミウラに言って、溜め息を吐きながらは彼は勇者ナリタと並んだ。
「魔法隊、合体魔法の準備! 近兵俺に続け!」
頷いて指示を出した隊長は近兵たちと共に一斉にフェルを襲いかかる!
「おいおい、マジかよ! 命惜しくないのか!?」
それに対してフェルは戸惑って、距離を取りながら隊長たちの攻撃をいなしている!
「ナリタ、お前の作戦だからその代償背負え」
「そう言うなよ。二人で背負ったら軽くなるかもせれねぇぜ?」
「……そうかもしれないな」
勇者二人は確信している。いくらフェルが強くてもこれから出す技には勝てないだろうと。
「やるぞーー神頼み!」
「違ぇねぇんだが、そう言われるとだせぇなぁ!」
いや、別に神に頼ってもダサくないぞ?
▽
「暇じゃのう……」
「……」
「ワシも戦いに出るかのう?」
ここは精霊王国の森の中。
「どう思う、ド嬢ちゃん?」
りゅうじぃは今竜の姿で地面にゴロゴロしていて、ジッと立っているドライアードに話しかけている。
「のう、ドじょーー」
「うるさいぞ、りゅうじぃ!」
あ、切れた。
「さっきから落ち着きがないぞ! こっちは王から任されたことで忙しいのだぞ!」
ドライアードは森の精霊たちに通じて戦争の進行を見て自分とレイアに伝えるようにとフェルに頼まれたのだ。
フェルの事を何より大事にしている彼女はその任務に集中したいから邪魔されたら怒るだろう。
「つれないのう〜」
「そのままゴロゴロすれば良いではないか」
「それが暇だと言っとるのじゃ!」
逆ギレされた……。
「ワシほどの強い敵現れんかのう……」
「そんなに戦いたいならキーラさんを探せば?」
「むぅ、どこにいるか知らんやつと戦えんじゃよ」
「だから探すと言ったのだ』」
居場所知ったら〝探す〟と言わないしな。
「あいつ苦手だしのう」
「とか言ってずっとお尻追いかけているだろう?」
「うぐっ! 昔のことだ、今は違うわい!」
「どうだか」
全くりゅうじぃの言葉を信用しないドライアードは溜め息を吐いた。
キーラ? あー、その人物について機会があったら紹介するわぁ。
「とにかくワレは忙しいのだ。りゅうじぃはいつものように寝れば良いだろう」
今までずっと出て来なかったけど、実はりゅうじぃは幻想の森にいた時のようにいつも精霊王国マナフルの森の中で竜の姿で寝ているのだ。
「うーむ、そうすーーっ!」
言われた通り、りゅうじぃはその辺で横になろうとしていると遠くの方、正確にはフェルがいる方の空から降り注ぐ光は突然現れた。
「おい、ド嬢ちゃん、あれーー」
「分かっている!」
伊達にりゅうじぃより長生きしていない。ドライアードはその光景の意味すぐに理解した!
「王の所に行く!」
「お、おい。任務はどうするのじゃ!?」
「りゅうじぃが続ければいいではないか!?」
「無茶言っとる……」
去っていく焦りに満ちているドライアードを見て、りゅうじぃは呆れてそのまま地面に横たわった。
まあ、りゅうじぃは精霊を扱えないし仕方ないか。
フェル「こ、これはっ!」
勇者ミウラ「はっはっは、お前もうすぐ終わりだ!」
フェル「ア○ン・ウェイク!?」
ミウラ「違う!」
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