110。知っているわ! お前らに指示を出す時使うから!
2025年9月1日 視点変更(物語に影響なし)
「諸君、時がきたぞ! 我が国を侮辱した国を地図から消すぞ!」
「「「おぉ!」」」
「全軍、進め!」
その言葉と同時に一人の兵士は空に向かって魔法を放った。すると発煙筒が投げられたかのように上空に赤い光が現れた。
誰が喋っている? まあ名前はどうでも良いよ。重要なのは彼はマセリア帝国軍の指揮官という事と今精霊王国マナフルの北海から侵略しようとしているのだ。
皇子を侮辱した精霊王国マナフルの国王を決して許せないとマセリア帝国の皇帝は言ったからこうして彼らはここにいる。
まあそれは建前だけどな。
『止まれ! ここからは精霊王国マナフルの海域だ。それ以上進むと不法侵入とみなして攻撃する!』
進軍あるのみとしばらくマセリア帝国の軍は進んでいると突然彼らの前方から忠告の声が聞こえた。
「指揮官、これは風魔法〝ブルホーン〟です!」
「知っているわ! お前らに指示を出す時使うから!」
〝ブルホーン〟は風を操って声を拡張する魔法だ。周りの風を振動させることで声をより大きくする。大きさと距離は魔法使いによるなのだ。
それを踏まえて精霊王国マナフルには相当な腕の持ち主がいると指揮官はちゃんと理解した。
単眼鏡を使わないと縁崖に立っている声の持ち主は見えないからな。
「魔法隊、魔法防壁の準備!」
マセリア帝国の軍は遠い海にいるから普通の大砲とかはまず届かない。だから戦船で進軍している彼らを止めるには魔法しかない。
それを理解した指揮官は敵の魔法攻撃に備えるために魔法壁の展開を早めに部下に指示した。
「おぉー! よく見たら結構良い女じゃねぇか!」
……何故ならこの戦船に皇子はいるからだ。
今単眼鏡で崖の方を見ている。
ほぼ確実に勝る戦争だから、手柄を立てる機会だとマセリア皇帝は思って皇子を同行させた。
『忠告した。排除する』
止める気はないマセリア帝国軍を見て、精霊王国マナフル軍はそう言った。
「どんな魔法でも防いでみせるぞ!」
と指揮官は部下たちに言って士気を上げた。
この海は彼らの永遠の眠る場所になるとこの時誰も思いもしなかった。
▽
「なんて愚かな指揮官だ……」
近付いてきている軍艦を見てディアは呟いた。
敵軍の戦力を知らないのにそのまま突っ込むからなぁ……。
それほど自軍に自信あるだろうけどその自信はすぐに折られるのだ。
「ルナねぇ、お願い」
ルナに、だ。
「わかったわ」
さっきまでディアの背後に待機しているルナは前に出た。
「魔法隊、魔力転送開始!」
「「「はい!」」」
彼女は位置に着くとディアは指令を出して、指示通り魔法隊の客員は各々の魔力を精霊王国マナフルの最新技術、マナタンクに送り始めた。
それほど時間は経っていないのにマナタンクは輝きを放て、やがて眩しすぎて誰も直視できなくなった。
満タンの合図だ。
「転送中止! ルナねぇ!」
後はルナの仕事だ。
マナタンクに蓄えた魔力を扱えるのは残念ながら今のところルナしかいない。
フェル? もちろん出来るけどここにはいない。
「双方から風が舞えーー」
詠唱、それは魔法のイメージをより鮮明するための魔法を発動する方法だ。
凄腕の魔法使いであるルナが詠唱するって事はそれほどマナタンクに蓄えた魔力は扱い辛く、彼女が発動しようとしている魔法は普通の魔法じゃないって事だ。
「天を曇らせ罰を下す。海の怒りを思いしれ!」
目を閉じたルナはカッと開いて、ルナは手を前へ突き力強くその魔法名を言った!
「メイルストロム!」
ふぅ、終わったわ、とただの一仕事を終えたかのようにルナは息を吐いて、ディアたち振り返った。
「……ルナねぇ、何も起こっていないよ?」
そう、何も変化はない。
唯一の変化を敢えて指摘するとマナタンクは先ほどの輝きを失って最初の状態に戻っただけ。
「まさか失敗? 不発動? いや、ルナねぇに限ってあり得ないと思うけど……」
「ふふふ、よーく見なさい」
人差し指を立てて、上を示すルナにつらてみんなは空を見ると雲の動きが怪しいと気付いた。
まるで何かに導かれてはるか遠い海の上にあるマセリア帝国の軍の上にぐるぐると回っているのだ。
「天候を操る大魔法は発動まで時間が掛かるよね」
そう言うルナは自分の役割は終わりと言わんばかりにディアの所まで下がった。
▽
「な、何が起こっている?」
さっきまで明るい空が急に暗くなって風が激しく吹いている事にマセリア帝国軍の指揮官が戸惑っている。
「し、指揮官、大嵐が来ます!」
「さっきまで天候は晴れていたぞ!? どうなっている!? それに敵軍は魔法を打てなかーー魔法防壁はどうなっている!?」
「ダメです! これは魔法ではありません!」
今起こっている現象は魔法じゃないかと思った指揮官だけど、その推測は即座に魔法隊隊長によって否定された。
ゴロゴロ!
ついに雷の音まで聞こえた。大嵐がくる合図である。
「……皇子様、念の為部屋に戻ってください。護衛の方々も、お願いします」
「はい。皇子様、こちらへ」
「は? 何をーー待て、おい、離せ!」
そう言われ、皇子専用護衛の二人は素早く動き出した。彼らもこの状況はよくないと理解しているのだ。
連れて行かれた皇子と違って……。
「な、何あれ?」
そしてそれは一人の船員が言い出してから始まったのだ。
「お、おい、大きくなってないか?」
マセリア帝国の陣形の中心に舞い上がっている水を見て、一人の兵士は青ざめている。
最初は小さかったけど風は強く吹いていて、段々大きくなっている。
「た、竜巻だ! 錨を下ろせ! 各自しっかり船にしがみつけ!」
やがてそれは空に届くほど竜巻になった!
「魔法隊隊長、魔法の刻を壊せ!」
何が〝魔法ではありません〟のだ!? と指揮官hs内心で罵った。
「む、無理です、指揮官! 刻が見当たりませんから魔法じゃありません!」
確かにルナは〝メイルストロム〟という風の向き、水の流れ、全部大嵐になるよう仕向ける天候を操る大魔法を使った。
発動に膨大な魔力が必要この魔法だけど、それはあくまで最初の時だけで魔法が発動されたら原の魔力、魔法が魔法でいられるための刻は消えて後は大自然の仕事だ。
だからマセリア帝国の魔法隊隊長は魔法じゃないと言った。
「くそ! おい、錨を下ろしたか!?」
「すでに下ろしました!」
「よし! これでなんとか持ち堪えるだろう!」
ゴロゴロ!
「か、雷まで……直撃だけはーー」
ドーン!
あ、フラグだったな。
皇子「うわっ! 何この揺れ!?」
護衛その一「大丈夫です、皇子様! うっぷっ」
皇子「お前は大丈夫じゃないがな!」
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