11。幕間 今はその時じゃないよ〜
2025年3月3日 視点変更(物語に影響なし)
「ーーって……」
飛ばされて、ミシーの門前が目の前にあると見たレイアは内心でガッカリしている。
(色々訊きたい事あるのに……)
「……本物の転移魔法だ〜」
彼女と違って隣にいるネアは蕩けるような顔をしていて、彼女の隣にいるルーガンはただ呆然している。
まあネアの反応は当然だ。
転移魔法は伝説の魔法みたいなもので、多くの魔法使いにとって一つの課題であり夢でもある。
そしてそれは彼女にも言えるのだ。
「どうやってーーいや、でもーーどれだけーー」
と、彼女は完全に考えの海へ旅立ったのだ。
「み、皆さん!? きゅ、急に現れてどうかしましたか!? っていうかどうやって現れたんですか!?」
突然現れてぼーっとしている三人を見た一人の門番は駆けつけて、心配しそうな顔で声をかけた。
「はっ! そうだった! あの森にもう一度行こう!」
「待って、ルー! 今行ったら確実に殺されるよ!」
門番の声のお陰で三人が我に返って、ルーガンは森に今すぐ行こうとしたけどネアに止められた。
「え? 殺される、のですか?」
言葉の中に物騒な単語が含まれて、門番はさらに混乱している。
「どういう事だ、ネア?」
「あいつに勝てないのよ。悔しいけどあたし達がこうして生きてるのはあいつの慈悲よ」
「そ、それほどのやつなのか?」
頷くネアは説明し始める。
「あいつ、転移魔法の使い手よ? 理論上可能とされても今まで発動できる者はいなかった。何でかわかる?」
しばしの間をおいてルーガンとレイアの顔を見渡したネアは続ける。
「発動には膨大な魔力が必要なのよ。あいつが転移魔法を使った回数は何回か考えてみて」
「……二回、かな?」
レイアの答えにネアは頭を横に振った。
「ちがうよ、最低でも二回よ」
「で、でもそれはあの女性のおかげだろう? あいつ、魔力を貸せ! と言わなかった?」
「だから厄介なのよ。どうしてなのかわかるでしょう、レイアちゃん?」
「……あの女性は大精霊だから。大精霊の魔力は無限に等しいよ」
ドライアードは大精霊、そして精霊についてなら精霊の仲間と呼ばれているレイアに訊いた方が早いと思って、ネアは彼女に説明して貰った。
「もし本当に魔力を貸して貰ったらーー」
「あいつの魔力は無限に等しい、でしょ? わかった、ルー?」
仁王立ちしてネアは真剣な顔でルーガンを見る。
彼女たちにははっきり聞こえたはずだ、フェルが大精霊に〝王〟と呼ばれていた事を。
ネアはその意味をちゃんと理解しているから今の結論に辿り着いたのだ。
(どう考えてもただの旅人じゃないわ。可能ならもう一度話したーー)
「レイアちゃん、今はその時じゃないよ〜」
「えっ!? わ、分かってるよ」
黙って考えているレイアはネアに肩が叩かれて、現実に連れ戻された。
「あ、あの……」
「仕方ない、か……すみません、急いで探検者ギルドに行かなければいけないので、先に通してくれませんか?」
さっきから無視されて戸惑っている門番に、再び森に行く事を諦めたルーガンは普通に門の前に出来ている二つの列に入ったら報告が遅れてしまうだろうと考えてそう頼んだ。
「は、はい! では、こちらへ!」
ルーガンたちはまるで重要人物かのように順番関係なく、門番の案内で町に入った。
▽
「……なるほど。では教会の依頼は失敗で構いませんよね?」
探検者ギルドに行ったルーガンたちは森での出来事をギルド長に報告して、それを聞いた彼は渋い顔になった。
「……はい」
教会からの依頼内容は聖剣の回収だ。後少しの所でフェルに邪魔されたからその依頼は失敗に終えた。
「そしてギルドからの依頼ですが、これは達成でいいでしょう」
「ほ、本当ですか!?」
同じく失敗だろうと思っていたルーガンたちはギルド長の言葉を聞いて驚いた。
そんな彼らにギルド長は笑みを浮かべさらに続ける。
「ええ、ギルドの依頼は森の調査ですからね。森の異変の原因を特定しましたから調査の成果として十分です」
「やった〜!」
考えみたら当然の事だ。
森の中からたまに大きい音したから何かがいるという報告があって、ギルドは三人に森の調査だけ依頼した。
森の様子だけじゃなく噂の元まで特定したからギルド長からしたら期待以上の成果だ。
(出来れば報酬を少し盛りたいのだがなぁ)
と喜んでいるネアと他の二人を見ているギルド長は思っているけど、それはあくまで彼の個人意見だ。
「ですが、この件は教会に報告しなければいけません。事情確認のために教会からの呼び出しがあるかもしれません、よろしいですね?」
「それは仕方ありません。大丈夫です」
流石にギルド長は今の報告を聞いて自分で決断を下せない。ましてや依頼主は世界一の教会でそのバックに自国が付いているのだ。
依頼が失敗した理由がちょっと特殊だからな……。
「教会、ねぇ……」
最初から怪しいとレイアは思っていたけど、フェルの話を聞いた今それは確信に変わった。
彼女は知らない教会よりいつも一緒にいる精霊たちとその王を信じる事にした。
「今日はここまでです。報酬の方は日を改めて連絡します」
「ありがとうございます。では、僕たちはこれで」
「ええ、ご苦労様でした」
用事はもう済んだからルーガンたちは退出した。
「……何者なのだ、フェルというやつは」
(こっちもそれが気になるのよ……)
扉が完全に閉まる最後にギルド長の呟きが聞こえ、レイアはそう内心で言った。
ネア「よ〜し〜! 買い物しよう〜」
レイア「え? あ、ちょっーー」
ネア「いいから行こうよ、レイアちゃん」
ルーガン「あの、僕はーー」
ネア「ルーは付いてきて!」
ルーガン「あ、はい……」
荷物持ち役にされたルーガンだった……。
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