107。しくじったな、マナフルの連中
2025年9月1日 視点変更(物語に影響なし)
「今日も野営かよ……」
場面をちょっと変えて、ここはこの世界において旅をしている人のために作られた、何処にでもあるキャンプ場で勇者ナリタは愚痴して肩を落としている。
「そう仰らずに。もうすぐ精霊王国マナフルを討ち滅ぼす時がきますよ」
「そう……そうだよな! そしたら色んな戦利品がーーへっへっへ」
彼らは今レヴァスタ王国からの援軍と合流するために野営している。
隊長の話だと援軍は今夜で到着するはずだ。そして数日後精霊王国マナフルの侵略を始める。
「それにマセリア帝国に動きを合わせませんと」
「他の国も一枚噛むのかよ? はっはっは、精霊王国マナフルまじで終わりだな、おい」
「おい、俺たちの戦利品は減るんじゃないだろうな?」
人数が増えれば増える程戦利品は減っていくからな。
強情な二人の勇者にとってこれはデメリットなのだ。
「そうですね、マセリア帝国側はアンナ・ゼ・ロダールの身柄しか要求しなかったらしいですよ」
「おいおい、一番の戦利品じゃねぇか!」
勇者二人はアンナに会ったことはないけど、彼女は母譲りの美貌の持ち主だと世間的に有名だから勇者たちにとって彼女は今作戦の一番の戦利品だ。
「これだけは仕方ありませんよ、ナリタ様。実はーー」
マセリア帝国が精霊王国マナフルを侵略しようとしている理由は単純だ。
皇子が目をつけている女は精霊王国マナフルの国王に横取りされたからだ。
建前は国の威厳を傷付けたからその罪を償わせなければならないけど、本当の目的はアンナ・ゼ・ロダールを取り戻すためだ。
「はっはっは、しくじったな、マナフルの連中」
まあ、同時に二つの国に攻められることになるから勇者ナリタはそう思っても仕方がない。
事情を知らない人からすると勇者ナリタの言う通り、精霊王国マナフルの国王はしくじったのだ。
「しかし最近エルリン王国が精霊王国マナフルと同盟を結んだ噂が気になりますね」
「エルリン王国?」
「はい、エルフ族の国ですよ」
「「エルフ!?」」
日本男子高校生である勇者二人にとってエルフという種族は男性が少なく、女性が多い種族で、彼らの間に入れば自分は必ずハーレム状態に陥るだろうという実に身勝手な妄想である。
「クックック、もしそれは本当ならついでにエルフの国を攻めようじゃないか!」
「賛成だ!」
一見犯罪者を味方にしたから裁くを下そうとする正義の勇者だけど、その下心は丸見えだ。
「そうはいきませんよ」
しかしそのアイデアはすぐに護衛隊長によって永久封印された。
「どういうことだ? 大国であるレヴァスタ王国はエルフの国を堕とせないと?」
この大陸に大国として片手の指折りに入るレヴァスタ王国はただのエルフの国を滅ぼせるだろうとミウラは思っている。
「エルリン王国は結構大きな国です。それにこっちは攻める側だからせめて相手の軍力の二倍がないと堕とせませんよ」
これは基本中の基本です、と隊長はさらに加えた。
「こっちは勇者二人いるぞ? 足りねぇのかよ?」
当然の疑問だ。
腐っても勇者ミウラと勇者ナリタは歴っとした勇者だ。その実力は普通の兵士に比べてはいけない。
「……勇者様、戦争は自分側の被害を出来るだけ抑えて相手を滅ぼすのが勝利ですよ」
「勝利は勝利でいいじゃねぇか……」
隊長……ただの高校生はそれが分からんよ。
▽
「おい、どうなってんだ?」
「ここが精霊王国マナフル? 森だぞ?」
数日が過ぎて勇者一行はやっと精霊王国マナフルの国境と思われる所に着いたけど、自分たちの目の前にある光景を見て二人の勇者は護衛隊長に抗議した。
「情報によるとこの森林の中にありそうですよ」
「城が見えないぞ?」
「何だ? 精霊王国マナフルって実はただの集落というオチじゃねぇだろうな?」
「ですよね……」
情報があっても当然ここにいる者たちは誰も精霊王国マナフルの王城を見ることはできない。
何故ならこの国は過保護な国王であるフェルによって厳重な結界に包まれているからな。
条件を満たさないと入るどころか見るすらできないのだ。
「あの女王に騙されたんじゃねぇよな?」
「いいえ、それはないでしょ」
そうなると国際問題になるから隊長の言う通りそれはないのだ。
それにここまでの道のりで隊長と彼の部下たちはずっと情報を集めてきて、誰に訊いてもここだと言われた。
色んな所で色んな人はまったく同じ嘘をつくとか絶対にありえないと思って、間違いなく精霊王国マナフルはここにあると隊長は信じている。
「マセリア帝国は? マセリア帝国の方はどうだ?」
「連絡しましたが、返事はーー」
「隊長、マセリア帝国から返事が届きました」
とそこで一人の兵士は手紙を持ってきて、お礼を言った隊長はすぐにそれを読んだ。
「ーーなるほど。どうやらマセリア帝国側にも同じ現象が起こっていますね」
まあ、マセリア帝国も精霊王国マナフルを包めている結界の条件を満たせるわけがないから、当然勇者たちと同じ光景を見ているのだ。
「それとあっち側から進軍を合わせる提案がありますが、この提案を受けましょう」
普通にいいアイデアだし、別に断る理由はないから隊長はマセリア帝国の提案に乗る事にした。
「それから進軍ですが、二日後になります」
「明日にしねぇのかよ?」
「兵たちの体力の回復と準備が必要ですから」
勝利率を上げるために、と隊長は勇者ナリタにさらに理由を述べた。
「まあいいだろう。とりあえず斥候を動かせ」
この先何かあるか確認だけはした方が作戦をより効率で練れるだろうと考えた勇者ミウラは言った。
「ええ、すでに派遣しましたので彼らの帰還を待ちましょう」
いつ派遣したか誰も分からない。隊長は仕事が早いのだ。
▽
「隊長!」
それはその日の晩飯の時だった。
「ああ、ご苦労ーーどうした?」
派遣された斥候隊は戻ってきたけど彼らの表情を見て隊長は険し顔になった。
「それが……全然進めませんでした……」
「……続けろ」
申し訳なさそうにしている自分の部下に説明しろと言わんばかりに隊長は続きを促した。
「森を目指していますがいつの間にか前方に隊長たちがいました……まるで最初から隊長たちを目指しているかのようです」
「何だそれ? オメェら頭大丈夫か?」
結界の事を知らないから斥候隊の報告は二人の勇者に馬鹿げた話でしか聞こえない。
「森……いつの間にか……」
しかし隊長は違う。
「ーーそうだ、幻想の森だ!」
ちゃんと上司から渡された資料を読んだ彼は斥候隊が経験した現象は何なのか、そしてその原因をすぐに特定した。
「これは結界だ!」
「私たちもそうだと思って、こうして隊長に報告して参りました」
無論この世界の人、ましてやレヴァスタ王国の人間であれば幻想の森の話は知っているはずだから、斥候隊も原因をちゃんと特定した。
「嘘をついたな、こいつら」
「だろうな。気付くわけないだろうが」
しかし勇者である自分たちですら気付かなかったのにただの斥候は自分たちより頭がいいはずがないと暗に言っている、勇者たちは。
「……」
「まあまあそう仰らないでくださいよ。お前らもいい情報だ、休んでいいぞ」
それを聞いた斥候隊は言葉こそ出さないけど彼らの目には明らかに怒りが見える。幸い二人の勇者はそれに気付く事なく、事が大きくない内に隊長は部下たちを下がらせた。
「斥候隊が言った通りならなんの策もなかったらあの森に入れませんよ」
「魔法で何とかしたらいいだろう?」
確かに勇者ミウラの提案はいい。
実際に幻想の森の時フェルが張った結界はルナの魔法によって破られたからな。
護衛隊に魔法使いはいるから何とかできると思うかもしれないけどーー
「……無理ですね」
森を入ろうとしたら違和感まったくしなくて、気付いたら元いた場所に戻されたと部下の報告から隊長は精霊王国マナフルの森に張られた結界は相当強力な物だと推測した。
「サナダ様がいたら多分何とかなりますがね……」
勇者サナダは今回召喚された勇者たちの中に一番魔法を得意としているのだ。彼女の魔法はルナに比敵すると言われて、そんな彼女がいれば勇者たちのいく手を阻んでいる精霊王国を包めている結界は何とかなるだろう。
しかし今回の遠征で彼女は行方知らずになったのだ。
「とにかく、マセリア帝国と話し合って何とかしますので、勇者様はお休みになってください」
そう言って隊長は席から立って、どっかへ行こうとしている。
「……ん? おい、飯ちゃんと食べろよ」
残された晩飯を見たミウラによって行けなかったけどな。
勇者ミウラ「暇だ……」
勇者ナリタ「暇だぜ……」
勇者ミウラ「寝ようか」
勇者ナリタ「……誘ってんのか? ホモ?」
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