105。Yes! That is right!
2025年9月1日 視点変更(物語に影響なし)
以前フェルたちはルーゼンに行った時、開催されていた論争に時間停止付き新型魔法袋の論題が出たよな?
アンナたちしか知られていないけどその魔法袋はフェルが作った物だ。しかし決して一人ではなく、時魔法の概念を知らないフェルは時の大精霊に手伝って貰った。
その時の大精霊はルーファスなのだ。
「何しにきた? 契約を再確認するならいらないぞ? 何もサインしなかったから」
長い鼻の人物に突然訳の分からない契約書を強いられてサインする、でないと夢から出してくれないという有名な作品と違ってルーファスの鼻は長くないし、契約書も持っていない。
「なら契約書を用意しましょうか? 銃とメガネ、どっちがよろしいのですか?」
「じゅーーあ、いや、どっちも要らないからな!」
あー、銃の方が格好いいよなぁ……っていうかメガネは別に能力を引き出すための道具じゃないと思うけど?
「まあ、冗談はこの辺にして俺の前に現れたというと昔見た未来は変わってないってことか?」
「……私が男であるように、その未来もまた然り」
「男として生きるお前の覚悟はよーわかった」
精霊に性別の概念はないからなぁ。
男として生きるルーファスの決意はちゃんとフェルに伝わった。
「だがそれはあくまでも意思だ、変えられない事じゃないだろう?」
その通り、決意、または意志は変えられる。
さっきのルーファスの言葉の裏を考えたら未来も変えられるということになるのだ。
「時がすべてを解明しますよ」
「じゃあなんだ?〝すべて俺が解明するよ〟って意味?」
ルーファスは時を自由に操れる時の大精霊だから、未来の事は知っているだろう。ということは今未来を解明できるのは彼次第ってことだ。
「|Yes! That is right!《はい! その通りです!》」
……どこで誰に習ったと思うかもしれないけど、色んな時代にいる彼のことだ、誰かが彼に教えただろう。
それはともかく、イケメンの彼は英語ってなんだか絵になるな、おい!
彼の容姿? 長い銀髪と同じ色の瞳、身長は高く洋映画に出てくるカウボーイの格好をしているよ。
……何で男の容姿を説明しなきゃいけないのだ?
「分かったからさっさと帰れ」
「つれないですね。私と最後の会話かもしれませんのに」
「ないない、最後にならないさ」
「お? そこまで私と話したいのですか? いやですね、王様。そう言わなくてもいつでもウェルカムです! それにこの前王様は私に言ったじゃないですか?〝もうちょっと頻繁に顔を出してくれ〟と」
「……は? 言った覚えはないぞ、そんなこと」
「あれぇ? 未来の王様の言葉でしたっけ? それとも別の時空でしょうか?」
自由に時を操って色んな時代と空間に移動しているからルーファスは時々こうなるのだ……何というか、記憶がめちゃくちゃ?
「は、はっはっは、ご冗談はこれくらいにしてそろそろ本題に入りましょうか?」
「……目が泳いでるんだぞ?」
「い、いえいえ、あらゆる未来を透視していただけですよ」
もしそうだったらルーファスはずっと変な目をしている存在になる……。
「まあいいや。条件付きの他言無用だ、いいな?」
愉快そうに笑ったルーファスはフェルの言葉に突然真剣な目になった。
「まずはその条件とやらお聞きしましょう」
シリアスモードになった二人はそれから話し合っていた。
▽
「そこまでだ!」
会議の翌日の朝、訓練している兵士たちにそう告げると、全員はディアの前に来て隊列を作った。
それから苦労の言葉をかけて彼女は今日の訓練の反省点を伝えた。
「ーー最後に重要な事を諸君に聞いて欲しい」
ディアはそう言って兵士たちの顔を見渡してから続けた。
「幾人かは既に知っていると思うが、我らが国王陛下であるフェル様は世間に犯罪者として扱われている」
さすがにこの事に兵士たちはおどろーー驚かなかった。
「あの、将軍、その事実ならみんな知っていますよ?」
隊長の一人は恐る恐ると言った。
まあ、ここのみんなは元ミシーの住民か、元エルリン王国の住民と兵士だったから指名手配の事は知っているだろう。
「コホン! その理由でレヴァスタ王国はこの国を滅ぼそうとしている、しかも近い内にだ」
ふふふ、これならどうだ? と流石にこの事実は知らないだろうと思っているディアは内心でニヤりつけるとーー
「何言い張っているのよ……」
「あ、いや、ルナねぇ、そのーー」
いつの間にか彼女の背後から現れたルナは呆れて言った。
「ほら、ちゃんと説明しなさい、将軍だから」
「はい、ごめんなさい……」
「「「……」」」
自分の将軍はお姉ちゃんに頭が上がらない事に兵士たちはプルプルと笑いを堪えている!
「……えー、さっきも言ったが近い内にレヴァスタ王国は我が国を攻めてくる」
先日ロダール女王から手紙が届いて、内容は女王が勇者たちを精霊王国マナフルに誘導したとの事だから、レヴァスタ王国は近い内に攻めてくるだろうとフェルたちは推測した。
「それだけじゃない、マセリア帝国も同時に攻めてくる可能性がある」
問題はそれだけじゃ物足りないと言わんばかりに友達を連れてきているのだ。
そしてそれを聞いた兵士たちは今度驚いて、ディアは彼らの反応を見て満足している。
「ディア?」
そのドヤ顔はすぐに姉によって焦りに変わったけど。
「そ、それでだ! 明日から諸君たちに特別な特訓をやってもらう。主に体力作りと防御装置と道具のより詳しい使い方だ。誰かさんの保護性のせいで遠距離攻撃しか出来ないからな……防御戦だからいい作戦だと思うが」
「大事にされていると思いなさい」
「は、はい」
愚痴に近いその説明にルナは抗議するとディアはシュンとなった。
「あなた達もそう思いなさい」
「「「はいっ!」」」
また笑いを堪えている兵士たちはルナの言葉にすぐ反応して敬礼した。
「そ、それとこれは王様からの伝言だーー覚悟はあるか?」
どうしてもこれだけ確認しなければいけないとディアはフェルに頼まれた。
「……愚問だったな」
兵士たちの中に家族と一緒に移住してきたやつがいるのだ。ここで降りたら誰もそいつを馬鹿にしない、笑わない、責めない。
家族がいるからな。
しかし国の危機は家族の危機と同じで、もしここで降りたら家族を見捨てることになると誰もが理解している。
だから逃げる訳がない。
そんな彼らの揺らがない決意を前にディアはふっと小さく笑って、全員の顔を見渡す。
「では、今日の訓練はここまでだ! 解散!」
誰も降りない事にディアは兵士たちに内心で感謝していた。
▽
「フェルさんったら妻の使い方荒いですわ……」
ここは精霊王国マナフルの国家研究場で、アンナは溜め息を吐いて呟いた。
「アンナ博士、本当に可能だと思います?」
「私に訊いたら無理としか言えませんね」
フェルの要請を聞いた二人の男女研究者はそうアンナに抗議してきた。
「導体を使ったら可能だとフェルさんは言いましたわ」
「導体って……まさか宝石とかですか?」
「それは触媒でしょう?」
男研究者は自分の考えを述べると女研究者はそれを否定した。
この二人は以前フェルにルーゼンの研究所でスカウトされた、フェルが創った魔法袋は人間の作品じゃないと言い出した二人の男女研究者だ。
その男研究者、スヴェインというけど、彼は言った宝石は導体というより触媒に分類されるのだ。
宝石は魔力をより簡単に流せる上に増幅する効果があるけど、使われば使われるほどその増幅率が劣化して最後に使えなくなる。
だから女研究者は触媒と言った。
「フェルさんが言っていた導体はただ魔力をより簡単に流せるための道具ですわよ」
「うーん、直接触れば拡散反応をなくせますけどね……」
拡散反応というのは魔力が空気へ消える現象だ。
これは魔法の規模、威力、そして必要な魔力を大きく影響する。
出来るだけ拡散反応を抑えて魔力タンクに送る。それがフェルの要請だ。
直接触れば女研究者、デイルカのいう通りその反応を完全になくせるけど、一々魔力タンクを触ると効率が悪くて実戦に向いてないのだ。
「……直接? そうですわ! 間接で直接に送ればいいですわ!」
「は?」
「へ?」
突然アンナのひらめきに二人の研究者はだらしなく反応した。
「要するに何も空気を通って魔力を送る必要はありません。タンクと繋げる何かを使えばいけると思いますわ」
この方法であれば拡散反応は大分抑えられますわ、とアンナは更に足した。
まあ、例えばケーブルだな。
ケーブルを使えば機械を一々電源に直接繋ぐ必要はなく、遠距離からでも使えるのだ。
「ですから側から見れば間接、実際は直接ですわよ」
「……確かに可能ですね」
「そうですね……アレを使いましょうか?」
「「〝アレ〟?」」
デイルカは何か思いついて二人に自信ありの笑みを見せた。
フェル「別の空間の俺がそんな事言ったか?」
ルーファス「言いましたよ、情熱に溢れて!」
フェル「何やってんだ、別の空間の俺!?」
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