104。教えるわけないでしょう? ね、レアちゃん!
2025年9月1日 視点変更(物語に影響なし)
「あらフェルさん、どうかしましたの?」
「元気がないわね」
食卓に着いて溜め息を吐いたフェルにアンナとレイアはそう言葉を掛けた。
「逆に訊くけど、何でお前らが元気なんだ?」
「王、その言い方だと誤解されますよ」
「は? 誰に?」
「フェルさんがいつも話してる人達にですよ」
「おいおい、フィリー、みんなはそんな事しなーーっていうか何でいる? ここ城の食堂だぞ?」
危うく話に流されたフェルはフィリーの存在に疑問を浮かべた。
「じゃあフェルは用が済んだら帰れ! と? ひどいね……昨夜はあんなに激しかったのに」
「そうだな! 俺の抵抗が激しかったな!」
彼女たちから精一杯逃げていたよなぁ、フェルは。
一応昨夜の出来事を説明しようか?
あの後彼女たちに迫られていたフェルだけど、耐えられなかった彼は危ない事に、絶対に真似してはいけない、広い風呂場で逃げ回ったのだ。埒が明かないと分かった彼女たちはやがて諦めて、大人しく湯船に入った。
羨ましいだと?
とある理由のせいで彼女たちに手を出せなかった彼の身になれ!美人揃いでしかも露骨的に誘惑してくる彼女たちを前にして賢者タイーーっ!
コホン! まあそういうことだから、彼女たちは誤解を招くような言い方しているけど、実際は何も起こらなかった。
「分かったからその嘘泣きはやめろ」
まさかセルディはこういう人だとフェレは思わなくて、これはレイアとディアの悪影響じゃないかと推測した。
なぜ? それはーー
「なによ?」
「なんだ?」
「い、 いや、何も」
彼女たちは彼に視線向けられただけでこうだからだ。
しかし二人のトゲトゲの態度と違ってセルディのはちょっとこう、イタズラ系よりかな?
「そうだ、せっかくだからセルディとフィリーもこの後の会議に参加してくれ」
「あたし、軍人じゃありませんけど……?」
今度はフィリーが溜め息を吐いた番だ。
▽
「えー、本日お集まりいただき、ありがとうございます」
「「「……?」」」
みんなは会議室に集まるとフェルはサラリマンが会議を始める言葉並びを出して、そんな彼にみんなは首を傾げた。
「先日ロダール女王国からお手紙が届いまして」
「「「……」」」
「えー、それを踏まえて今日のお議題ですがーー」
「王、その話し方はどうかしましたか?」
「「「あぁー!」」」
「ドライアード様、突っ込んではいけませんわ!」
「む?」
せっかくみんなは黙って無視しているのに、彼女たちの意思を理解出来なかったドライアードはフェルのコントに反応してしまった……。
「ドライアード信じてるよ! 愛してる〜!」
「は、はい、私も王の事ーー」
「「「ちょっと待って(ください)!」」」
どうしてツッコんではいけないか全然わからないままドライアードはフェルの急な愛の言葉に照れていて、二人の間に桃色の空気が出始めているからレイアたちはすぐに邪魔した!
「ね、ねぇ、ディアさん、いつもこうなのか?」
「あ、ああ、そのうち慣れるよ……」
「情報から知ってるが、実際に見るとーー」
「待て! 何でうちの情報探ってんだよ!? っていうか情報源は誰だ!?」
来客が少ないこの国において城内の情報は外に漏れる可能性が低い。
それに城内に普段兵士とフェルたちしかいない。
それでフェルは推測した、情報源は内部のーー
「教えるわけないでしょう? ね、レイアちゃん!」
「だね!」
「〝だね〟じゃねぇよ! お前じゃねぇか!」
「何よ!?」
友人に情報を漏らしても大丈夫だと彼女は思っているだろうな。
フェルは逆ギレされたし……。
「……まあいい。会議を始めるぞ」
フィリーならいいかと思い直したフェルは話を続ける。
「さっきも言ったが、先日ロダール女王国から残念な伝書フクロウが手紙を届けてくれた」
「ああ言われてるよ、アンナ」
「くっ! 否定できませんわ!」
事実だからな!
ちなみにその残念なフクロウは今外でソフィマと一緒に飛び回って、二人ははしゃいでいる。
仲が良くて何よりだ。
「手紙にはレヴァスタ王国の勇者二人をこっちに誘導したとの事だ」
「フェルが予測した通りになりましたね」
幻想の森の事件後、フェルはルナを連れてロダール女王国に訪ねた時彼は色々ロダール女王たちと話し合っていたのだ。
その一つはレヴァスタ王国はロダール女王国にフェルの身柄を要請する可能性だった。もしそうだったら自分の所に誘導するようにとその時フェルは女王に頼んだ。
ルナが言っているフェルの予測はそれだ。その事を考えて建国を急いで完了したしな。
「それにレヴァスタ王国だけじゃないぞ」
「……マセリア帝国、ですか?」
「可能性はあるとしか言えないけどな」
以前フェルはマセリア帝国の皇子と揉めたからな。
それだけじゃない、フェルはアンナが皇子に目を付けられていると知ってそれでも彼女を貰うことにした。
皇子にとって、そしてマセリア帝国側にとって面白くなかっただろう。
自国の皇子が目を付けている女を掻っ攫った人は実は他国の王で、その国はレヴァスタ王国と戦争すると知ったら、マセリア帝国はジッとして待つと思うか?
「ーーということで、マセリア帝国は一枚噛む可能性があるのだ」
「なるほど。だから昨日の依頼ですね」
「出来るだけ早めに済ませてくれよ?」
「分かりましたよ」
昨日の事だから情報はまだないだろうけど、フィリーの仕事次第フェルたちの余裕が変わるのだ。
「それでフェル、何か作戦あるのか?」
国の将軍としてディアは当然気になることだ。
「これからあらゆる可能性と作戦を話し合いたい」
「どうせ既に考えてあるでしょう?」
フィリーとセルディ以外全員レイアの言葉に頷いた。
「まあまあ、今回も付き合ってあげますわよ、皆さん」
あのなぁ、フェル……顔を背けるなよ、バレたじゃん。
▽
「ん?」
夕食と風呂を済ませた後、部屋に戻たフェルは違和感を感じた。
何も聞こえない、風の音も、生活音も。時が止まっているかのようーーいや、実際に止まっているのだ。
「ルーファスか?」
「よく気付きましたね、さすが王様」
フェルの心当たりにこんな現象を起こせる者は一人しかいないから、その人物の名を呼ぶとスッと一人の男が現れた。
「何が〝さすが王様〟だ? 違和感しかないこの空間を気付かないわけないだろうが」
静かな夜にもその静かさの音があるのだ、しーんという音が。
「っていうか早く時の流れを続けてくれよ? ドライアードに気付かれる前に」
嫁に密会がバレる恐れがある夫のようなセリフだけど、フェルはノーマルだ。
そこだけはっきりさせておこう。
「おっと、そうでしたねーーはい、戻しましたよ」
パチン、とルーファスは指を鳴らした直後、空間を支配している違和感は消えた。
「……指パッチン必要だったか?」
「何言っているのですか? 必要に決まっていますよ! 演出ですからね!」
演出だと言った……。
フェル「っていうかどうやって入って来たんだ? 一応ここ結界に守られてるんだぞ?」
ルーファス「あなた様から合鍵をーー」
フェル「ないからな! 絶対渡した事ないからな!」
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