103。困るのは目だけじゃないようだな
2025年8月30日 視点変更(物語に影響なし)
「それで? どこへ行っていたのだ?」
「ちょっと野暮用で……」
「ほう? 他の女性の所に行ったのにか?」
「え!? ど、どうしてそれをーーあっ!」
しまった! と今の自分の失言に気付いたフェルは顔を背けた。
「ちょっとフェル? あたし達がいるのに他の女の所に行ったってどういう意味?」
「え、えっと、すべては国の為だ!」
違いない! 間違いないけど言葉が足りないのだよ!
「より沢山子孫を残すために自分の種を撒き散らす、ですか? 確かにそれは国のためになりますね」
「何でそうなるんだよ!?」
あー、皆さんどうも、ちょっとフェルは今正座しているのだ。どうしてこうなったのか次の短い回想で分かるだろう。
ではーー
△
「ただいーー」
ガツ!
「ま……? 待て、何も悪い事してないぞ?」
「自覚ありますわね」
フェルは城を入る途端、背後からアンナに捕まってとりあえず弁明を述べたけど、どうして自分が捕まったのか全然見当が付かない。
だけどフェルにはっきり分かる事が一つだけある! それはーー
「……絶対に感触を堪能していますよ、この男」
ーー背後からの幸せな感触なのだ!
「ふふふ、どうですの、フェルさん?」
わざとらしく自分の体を更にフェルに押し付けたアンナは甘い声で彼の耳元で呟いた。
「素晴らしいとしか言えない!」
「「「……」」」
その素直さを認めるべきだけど、使い所が間違っている。
「……まあいいわ。とにかくこんな時に良く出かけたわね。覚悟はいいかしら?」
こんな時、というのはレヴァスタ王国からの侵略が間近で、色んな話し合いが必要としている精霊王国マナフルの危機の時だ。
「い、一応今回は本当に何も悪い事してないぞ!?」
「なるほど。以前はしたってことか」
指をポキポキと鳴らしているレイアを見てフェルは慌てて自分の無実さをアピールしたけど、残念ながらディアに違う見方に捉えられた。
「あのなぁ、毎回俺を犯罪者のように探し回って連れ戻したんだからお前らの目に俺はいつも悪いことしているけど、違うからな?」
「「「……」」」
あー、うん、一応正論だ。
レイアたちもそれをわかって押し黙ってしまった。
「日頃の行いが悪いからですよ、王……」
しかしドライアードの言い分も事実だ。いつも仕事をさぼるフェルが悪い。
「詳しい話はリビングで聞くからーーアンナ様!」
「さあ、フェルさん! わたくしの体を味わっている途中ですみませんが、リビングに移動しますわよ」
「言い方! 誰がお前の体を味わってるんだ!? 背中から伝わる感触だ、感触! そこははっきりしないと誤解を招いてしまうだろう!?」
その感触は何処から来て、何の感触か良く考えてみたら最終的にはアンナの言う通りだけどな。
「っていうか離してくれないのかな? 動けないんだけど?」
背後からアンナにガチホルドされているからフェルは動けない。
「まさかと思うがーー」
「ええ、このまま移動しますわよ」
だが願いは虚しく終わってしまったフェルは逆にアンナに持ち上げられた!
「か弱い女じゃなかったのか!?」
「ええ、そうですわよ?」
「嘘をつくな! ならこの状況をどう説明するんだよ!?」
身長はフェルより高いとは言え、一人の大人を持ち上げるにはそれなりの力がいるから、アンナは結構力持ちじゃないかと思わせるこの状況だけどーー
「さあ! 行きましょう!」
そうかも知れない!
▽
「さて、これより被告人フェルの裁判を始めます」
一人用のソファーに座っているルナはパン! と手を叩く。
「被告人、何か言い残したい事ありますか?」
「はやっ! 展開早すぎる!」
まだ始まったばかりなのに既に判決が下されたような言い方にフェルは驚愕した。
「せめて弁護士を呼ばせてくれよ!」
「いいえ、あなたにはその権利ありません!」
「理不尽だ!」
日本の憲法はどうなーーあ、日本じゃなかったわぁ。
「なのでこっちが用意します。弁護士!」
「はい、裁判長。このわたくし、アンナ・ゼ・ロダールがフェルさんの弁護士として彼に有罪判決を下します」
「弁護士なにしに来た!?」
いや、そもそも判決を下すのは裁判長の役なのだ……。
「そうですね。ディア検事は?」
「被告人の言い分をまず聞こうじゃないか」
「逆! 役割は逆になってるぞ!」
まあ、正義感が溢れている検事と思ってくれ……。
「レイア保安官、被告人を呼んーーあら、既に正座していますね」
見てわかっているはずなのに、ルナはわざとらしくわからないフリして改めてフェルの状況を口にした。
まるでイタズラが成功したかのように彼女はニヤリとしている。
「では、被告人、言い訳を聞きましょう」
「〝言い訳〟言うな!〝証言〟を言え!」
あー、〝言い訳〟っていうのは大体非がある時人がする事だからな。
自分に非がないと思い込んでいるフェルにとって〝言い訳〟じゃなく確かに〝証言〟で言ってほしいよな。
「被告人?」
「……はい、すみませんでした」
ふふ、と小さく笑ったルナを見てフェルは思わず恨めしそうに彼女の目を見つめる。
なぜ? それはーー
「ちょっとルナさん? 足見せつけている?」
「いえいえ、まさか〜」
そういう事だ。
レイアのいう通りルナはわざと足組みして、短いタイトワンピースを着ている彼女はその白い美足を見せつけているのだ。
その美足に見取られていたのだ、フェルが。
「被告人、続けてください」
「え、えっと、フィリーの所にーー」
「はい、ギルティ!」
パン! と話始めたフェルを遮ってルナじゃ手を叩いた。
「待ってください、裁判長。被告人の言い訳を最後まで聞きましょう」
「だから、言い訳ーーまあいいよ、言い訳で……」
ついに諦めた……。
っていうか今のは弁護士であるアンナが言うべき事だった。
「ん?」
フェルもそう思って彼女の方を見ると素敵な笑顔で誤魔化された。
「そうですね。では被告人、続きを」
「は、はぁ……えー、フィリーの所にある事の調査を頼んできたんだよ。その後はセルディの様子を見に行っただけだ」
「「「……」」」
ちゃんとした理由でみんなは意外だなと思ってしまって、何も言えなくなった。
パン!
「これより被告人フェルの判決をくだします」
やがてしばらく沈黙に支配された部屋にルナの手を叩く音が響いて、このメチャクチャな裁判は再開された。
「有罪!」
「何でだよ!?」
真面な理由なのに!? とフェルは下された判決に抗議した。
「分からないようなので説明しますわ」
と、そんな彼を見たアンナは判決の理由を告げる。
「あなたは他の女性の所に行きました、故に有罪ですわ」
「弁護士、お前何しに来た!?」
彼女はちゃんと事実に目を向ける弁護士だと思ってくれ……。
全然弁護しないけどな!
▽
「いやぁ〜、まさかこうなるとはね〜」
「さ、さすがにこれは、えっと、その……」
苦笑を浮かべているけど、フィリーとセルディは自分たちが置かれている状況を楽しんでいる。
「二人共堂々になさってください」
「「いやいや」」
無理です! と言わんばかりに二人は勢いよく頭を横に振る。
「どうですか、王?」
「……」
そしてフェルだけど、さっきから動かなくてただ水面に映っている自分の顔を見ていて、腕はドライアードに抱き付かれている。
(あ、そうだ! 目を閉じればいいんだ!)
この状況をどう凌ぐかずっと考えているフェルは名案を思い付いて早速実行に移った!
「ふふふ、それは良くないと思いますよ」
「み、みみみ、密着しないでくれるぅ!?」
でも情報が限られているから密着しているドライアードの素晴らしい身体はフェルの脳内に浮かんでしまって逆効果になった!
「ドライアード様ずるいですわ!」
「ちょっとアンナ、今はワレの出番だぞーー王、どうですか?」
「だから、密着しないでくれ! それとその甘い声はやめろ!」
そこでアンナは抗議してもう反対側のフェルの腕を抱いて密着した。
「ド、ドライアード様たち結構大胆わね……」
「あ、あれは絶対に真似出来ない」
「わ、私なら出来ます!」
と、フェルの状況を見てレイアたちは言った。
「甘いですわ、三人共! 真似るではなく自分のやりかたでやりますわよ!」
「「「おー! 流石アンナ(様)」」」
言ってる事は立派だけど、この状況だとフェルにとって余計な台詞でしかない。
「なんか、フェルさん、ごめんね」
「私たちにも得があるから許して」
「本当だよ! この状況どうするんだよ!?」
この裏切り者め! と言わんばかりにフィリーとセルディを睨むフェルはすぐに目を再び閉じる。
「どうもうこうもありませんわ」
「いずれやりますから諦めてください、王」
「そ、そうよ、フェル! 普段のあんたならこの状況を堪能するでしょう?」
「違いない。いつもの彼ならそうするだろう」
「そうですね、このーー」
「「「混浴お風呂」」」
そう! 混浴お風呂なのだ!
「せめて服なり下着なり着ろよ! 目のやり場が困るんだよ!」
ここに自分たちしかいないから、女性陣の中にドライアードとアンナみたいに何も身に付けていない女性はいるのだ。
レイアたちは一応タオルを巻いーーいや今ルナは剥がしたな……。
彼女たちは美人揃いのだ。ドライアードに至ってこの世に一番美しく、一番いいプロポーションの身体をしていると言っても過言じゃないくらい。アンナも母譲りの美貌を持ってドライアードといい勝負しているのだ。
そんな彼女たちに囲まれて、健康な男性であるフェルは辛くないわけがない!
「いいじゃありませんの? 罰ですからフェルさんは要求する権利ありませんのよ」
フェルに有罪判決が下された後、その場で罰は明かされていなかったのだ。ラッキーと思った彼はその後普通に風呂に入ってリーラックスしている所にルナたちは全員入ってきた。
まあこの状況の経緯はそうなのだ。
ちなみにフィリーとセルディはレイアに誘われた。
しかしこれ、罰に分類されていいのか?
「困るのは目だけじゃないようだな」
両腕が抱き付かれている今、フェルは下半身を隠せなくてさっきから元気をしているフェルの肉棒はみんなにはっきりと見えるのだ。
「や、やめてー! 見ないでー!」
もう、殺してくれ……と彼女たちを襲わないように自分の理性を必死に保っていながらフェルは言った。
……確かに、これだとある意味罰だな。
フェル「だ、誰か湯船まで導いてくれないか?」
アンナ「目を開ければいいじゃありませんの?」
フェル「無理無理!」
レイア「じゃあ湯船まで頑張ってねー」
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