102。明らかにお前が原因じゃねぇか!
2025年8月30日 視点変更(物語に影響なし)
「というわけでフィリー、たのむよ〜」
「……それだけだと他の皆さまは話を理解できませんよ?」
いかにも村娘です! という服装をしているフィリーはカウンターに飲み物を置いたら肘をかけ、頬杖していながらフェルを短い茶髪と同じ色の瞳でジッと見ている。
「えっと、誰の事?」
「何いってるのですか? いつもフェル様が話してる人達の事ですよ」
「はっ!? 何で知ってる!?」
「ふふふ、伊達に情報屋をやってませんからね」
読者の皆さん、存在がバレているよー! そしてフィリーのドヤ顔が可愛い!
……コホン!
フィリーは以前ミシーで親と一緒に宿を経営していた、看板女として。夜は酒場として活動しているその宿の客は決して少なくはなかった。
そこで色んな人から話を聞かされて情報を集めた彼女は自称情報屋になったのだ。
「ま、まあ、さっき頼んだ通りマセリア帝国の動きを探ってくれないか?」
こうしてフェルが彼女に頭を下げたのはこの願いを通すためだ。本物の情報屋になった彼女ならきっと何かつかむだろうと彼は信じている。
「だからそんなの国の情報部に頼んでくださいよ」
「そんな部隊ないと分かって言ってるよな!? っていうかいい加減情報部の部隊長になれよ!」
その通り、精霊王国マナフルに情報部はない、隊長に当たる相応しい人物はフェルの知り合いの中だとフィリーしかいない。
「いやです! 国の為に働いたくありません!」
「えぇー!? それでもマナフルの国民か!?」
そしてそのフィリーは毎回スカウトされるとこうして頑固に断るのだ。
「じゃあレイアの為だと思ってよ」
「なんですかその理屈……?」
「かつてとある物語の詐欺師の理屈だよ」
あー、何らかの理由を作って自分の力を貸したやつの事だな? そういえば最後はどうなったんだ、あいつ?
「はぁ、〝俺の為〟と言ったらよかったのに……」
小さく呟いたフィリーは溜め息を吐いて、分かりましたとフェルの依頼を受けた。
「おぉ、やってくれるのか!? 助かーー」
「しかし! レイアちゃんに言いつけてやりますね!」
「……待てーー」
「話が終わりましたので出ていってもらえませんか? 忙しいので」
「嘘つけ! 人あまりいないじゃん!」
精霊王国マナフルにもフィリーは家族と共に宿を経営しているけど、今の時間帯は昼過ぎるし新国に観光者とか宿を必要とする者はいない。
だから彼女が言っている理由は嘘だな! とフェルは指摘した。
さて、フェルの依頼の理由は今朝の出来事にあるのだがーー
△
「さて、今日も仕事をするか!」
「……〝も〟じゃないでしょう」
「し、失礼だな! 毎日仕事をしてるんだぞ?」
朝食は終わったから仕事のために城下町に行こうかなと思ったフェルだけど、レイアの口から述べられた事実にたじろいだ。
「日頃の行いが悪いからだな」
「はぁー、毎日仕事してるのに、なんでーー」
バン!
「っ! なんだーー」
「ホォ〜」
フェルは言葉を言い終える前に何か叩かれるような音が食堂内に響いて、みんな音の方へ視線を向けるとそこには窓のガラスに張り付いている一羽のフクロウがいた。
ちなみに外からの襲撃を備えるために王城の窓は魔法で強化されてあるから、壊れる事なくフクロウが可哀想だ……。
「フクロウを助けようぜ!」
国の上空にいる風の精霊達は無反応のままだからこのフクロウは無害だと確信したフェルは躊躇なく床に落ちて動いていない白フクロウを食堂の中に運んだ。
「……やっぱりお母様のフクロウですわ」
「「「え?」」」
そのフクロウを近くで見たアンナは頷いて言った。
「女王、フクロウを飼ってるのかーーあれ? この前ロダールの城に来た時見かけなかったけど?」
「大事な謁見にフクロウを連れてくる人いませんわよ」
まあ、常識だな。
「えぇー? なんでー? すごく絵になるんだけど〜?」
「なんかその口調むかついてくるんだが……」
「すみません、もうやりません」
口を尖らせてわざとらしく変な口調で言ったフェルはじっと目でディアに見られると素早く謝った。
全然弱かった……。
まあ、弱っちフェルを置いといて、フクロウの事だ!
フクロウは普通のシロフクロウと同じで美しく、サイズはやや小さくて顔が丸っこい、かわいいフクロウだ。
女王の美貌とこのフクロウの容姿……フェルの言う通り絶対に絵になるだろう。
「本当に女王のフクロウなの?」
北の大陸にあるロダール女王国、精霊王国も含めて、はいつも寒くて、シロフクロウにとっていい環境だから野生のシロフクロウは多いのだ。
だからこのフクロウもただの野生フクロウじゃないかとレイアは思っている。
「昔から窓を突っ込んで部屋に入る習性がありますから間違いありませんわ」
残念ながら紛れもなく女王のフクロウなのだ。
そしてーー
「調教が届いてねぇ!」
「お母様にすごく可愛がられていますからね。お母様とずっと一緒にいたいようで、いつもお母様の私室に侵入しますわよ」
「寂しがり屋なの!?」
「窓が閉まったら構わず突っ込んでガラスを壊しますわよ、この子は。それを知ったお母様はそれからいつも窓を閉めてこの子を突っ込ませます」
「Oh! ちゃんと調教が届いた! 何やってんだ、女王!?」
「さすが女王様だな!」
呆れているフェルとレイアと違って、いつの間にか女王の信者になったディアは感心した。
「……それで? 何でそんな寂しがり屋のフクロウはこっちの窓を突っ込んできたんだ?」
頭が痛くなったフェルは話を進める事にした。
「さぁ? 一応わたくしにも懐いていますわ」
「〝さぁ〟じゃねぇよ! 明らかにお前が原因じゃねぇか!」
っていうか女王、絶対に嫌がらせのために調教したな!? 夜に送ってたりしないよな!? とフェルは更にツッコんだ。
「気絶しているだけのようですね。それにこの子の足に伝書がありますよ?」
フクロウの様子を診ていたルナはそう言って一枚の畳まれた小さな紙をフェルたちに見せた。
「伝書鳩かよ、フクロウなのに……」
その紙をルナから受け取ったフェルは溜め息を吐いた。
「えっと、なになに、勇者たちを向かわせた、だって」
好奇心を抑えきれないレイアはフェルの肩越に紙に記されている事を読んだ。
それは嫌がらせじゃなく結構真面目な内容だった。
▽
「という事があったんだ」
「ふーん、内容は大体フクロウの事だったけど」
「最後に要点言ったじゃないか」
それでいいだろう? みたいな顔を浮かべるフェル。
「はいはい。それで? なんで私の所に来たの?」
呆れるような表情で緑色の瞳はフェルの姿を捉えている。
「つれないなぁ……お前の事はエルリン国王に任されたぞ、セルディ?」
そう、フェルが話している相手はセルディだ。
エルリン王国での事件を解決した後彼女は精霊王国マナフルに移住した。
ここ最近フェルへの態度はちょっと変わって……なんだかレイア達みたいになってるなぁとフェルは時々思う。
「確かに任されたけど、要求したのはフェルでしょう? 監禁するために」
ルナの事を知ってしまったセルディはフェルの都合によって精霊王国に移住するようにとエルリン国王に要求したのだ。
最初は断られたけど、エルリン王国に選択肢はなく、しかもセルディ自身もその要求を受け入れたからエルリン国王は泣きながら許可を出した。
「人聞き悪い事言うなよ……っていうか入らせてくれないか?」
「……フェルの家だけど、隠れ場所にしないでくれる?」
まあまた仕事サボっているよ、フェルは。
「しないし隠れてないぞ。それに家はお前の物だ」
精霊王国に移住したエルリン王国の国民たちに家が用意されたのだ、サービスとしてな。
セルディも例外ではない。
「あっちに住みたいけど?」
しかし彼女は城の方へ指差してそう言った。
エルリン王国の現国王の妹である彼女にとって城に住むのは当たり前の事だろう。
「後で部屋を用意しよう……」
と、そんな事を考えたフェルは溜め息を吐いて肩を落とした。
「え? いいの? じゃあ入っていいよ!」
金髪を揺らしながら家に入るセルディは上機嫌だった。
どうレイアたちに説明するかな、と彼女の後を付いていながらフェルは後ろ頭を掻いた。
フィリー「ということがあるのよ」
レイア「あの馬鹿! また仕事をサボってるわね!」
フェル「なんだかいやな予感……」
セルディ「?」
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