101。人を猫みたいに言うなよ
2025年8月30日 視点変更(物語に影響なし)
「火魔法の準備!」
「「「はい!」」」
「前衛隊、魔法隊を守れ!」
「「「はい!」」」
ディアが指示した通りに動く兵士たちの様子を遠くからフェルとアンナは眺めている。
「うーむ、やっぱりなんか違うな」
「またその話ですの?」
フェルの呟きに彼の隣に立っているアンナは呆れるように溜め息を吐いた。
「仕方ないだろう? これだとコスパが悪いんだよ」
「こすぱ?」
コストパフォーマンスの略だな。
「魔法隊がやってるのは各々の魔力を高めて魔法を放つだけじゃん」
「それはあくまでもフェルさんの感想でしょう?」
「そうだけどさ……」
全魔法隊の魔力が減って、威力は各々の技量によって変わる、確かにコスパが悪いのだ。
フェルが言いたいのはその事だけど、そもそもこの世界には集団魔法という概念はない。
「それでアンナ、例の変換機械は?」
「……一応試作機は出来ましたわ」
「おぉ!」
と、彼女の報告を聞いて中々難しい仕事だとフェル自身も思っているけど、ちゃんと出来たのは流石自分の国の研究員たちだと誇っている。
「難しいと思ったらちょっと手伝ってくださいよ」
「……なぁ、いつも思うんだけどーー」
「顔に書いてありますわよ?」
「……自分の顔を見たい! 鏡! 鏡ないか!?」
「ふふ、残念ながら今は手元にありませんわ」
信じれないと言わんばかりにフェルは驚愕してペタペタと自分の顔を触りまくって、アンナは楽しそうにそんな彼を見ている。
「よし! 前衛隊の訓練はここまでだ! 魔法隊は残れ!」
敬礼した前衛隊は解散するとディアは演壇から降りて、魔法隊の所に行った。
「エルフの魔法師は入ってからまだ一ヶ月間しか経っていないが、いい連携だった」
勇者である忍者サトウはエルリン王国で起こして、それをフェル達が解決した問題の報酬としてエルリン王国から兵士と住民は精霊王国マナフルに流されたのだ。
もちろん無理矢理じゃなくちゃんと彼らの意思を確認してから……らしい。
「最初に比べれば今の我が国の軍力は他の国と負けないくらい上昇した」
それはさすがにない。精霊王国マナフルは新国なのだ。
「「「……」」」
魔法隊もそう思っていて何も言わない事にした。
「……すまん、嘘だ」
「「「……」」」
笑うな! 笑うなよ、魔法隊の諸君! 笑ったら命はないと思え!
「フェルさん、笑わないでください」
「い、いや、笑ってないぞ?」
「肩がぷるぷると震えていますの」
ディアに見られなくてよかったな、フェル……。
「しかし! 我が国が開発した技術によりそれが変わる!」
わざと大きな声で魔法隊の注目を再び集めたディアはさらに続ける。
「それで我らが姉である宮廷魔術師ルナ様が預けた各々の課題を告げる!」
出た! ディアのシスコンサイド!
「「「はっ!」」」
あれぇー!? 魔法隊まーーだから〝我らが姉〟だったのか!?
「各々はより上手く魔力を体外に出せるように育むこと!」
「将軍、それは魔法道具を使う時みたいにですか?」
「そうだ。だが遠距離からだ」
フォーン、テープ、これらのような魔法道具は魔力さえあれば発動できる。だがその魔力を直接魔法道具に注げなければならないのだ。
「遠距離、ですか? それは魔法そのものなのでは?」
「ちがーーん? 違わない?」
あー、ディアはあまり魔法について詳しくないからどう答えた方がいいかわからなくて、首を傾げながら考え込んでしまった。
「えー、魔法は魔力を何らかの方法で処理すると違って、諸君がやるべきなのは魔力を流すだけだ」
まあそれでもある程度理解しているけどな。
彼女の説明通り、魔法は魔力を処理することで出す物だ。
例えばファイアボールは空気から酸素と水素を分けると魔力を熱に変える、二つの過程がある。
それらの過程は魔力を処理する過程だというのだ。
「……あれ? これ魔力タンクの事じゃない?」
「そうですわよ?」
と、ディアの説明を聞いたフェルはアンナを見て、彼女は頷いた。
「なんで俺知らないんだ?」
ディアの言葉からレイアたちは多分知っているだろうと何となく分かったフェルは仲間外れにされた事に理不尽を感じている。
「いつの間にかいなくなったからですわよ」
しかしそれは彼のせいである……。
「おいおい、人を猫みたいに言うなよ」
「仕事しないで街中ぶらぶらするだけですから、猫ですわよ」
「……」
全く正論でフェルは押し黙ってしまった。
「謝りませんの?」
「もうやらないと約束できないぞ?」
「直すつもりはありませんのね……」
ない! と自信満々に言ったフェルに対してアンナは呆れた。
まあその正直さに称賛を送ろう……。
▽
「「「王様だ!」」」
公園に通り過ぎているフェルは遊んでいる子供たちに発見されて囲まれた。
「はっはっは、楽しんでるかい、若者達よ?」
そう問われると子供たちは元気よく頷いた。
エルリン王国と正式に同盟を結んでから人の出入りは増えて、こっちに移住したエルリン王国の国民も少なくはなく、最近の精霊王国マナフルは賑やかになってきたのだ。
これはエルリン王国の事件のおかげだ、言い方はちょっとあれだけど。
「王様、似合わないよ〜」
「お、ネアじゃなーーおぁぉ!?」
と、そこでフェルの後ろから声がして、彼が振り向くと赤い髪で相変わらず可愛い恰好しているネアがいるけど、お腹がちょっと膨らんでいる!
「ふふ〜、お母さんになるのよ〜?」
「へいへい」
ちょっとした自慢ーー自慢だよな? まあとにかく彼女は嬉しそうにお腹を摩っている。
「おねぇしゃん、ママになりゅ?」
小さな女の子はネアを見上げた。
「そう〜よ〜?」
「お姉しゃんじゃにゃい?」
中々頭がいいこの子である。
「叔母さんだな!」
「ん〜? 誰が叔母さんだって〜?」
そしてヤンチャな一人の少年はそういうとネアは笑みを浮かべているままその少年に視線を投げた。
「お、おい、自分の言葉が招いた事だぞ?」
そんなネアの視線を耐えず、少年は素早くフェルの背後に隠れた!
「事実だもん!」
「確かに!」
「フェ〜ル〜?」
口がすべった! とネアのターゲットは自分に変わったと悟ってフェルはすぐにそう後悔した!
「お、おい、お前のせいだぞ!?」
「「「え〜!?」」」
自分の背後に隠れている少年にフェルはそういうと他の子供たちからブーイングが来た!
「し、仕事あるから、じゃーー」
「フェルは〜仕事しないでしょう〜?」
こんな空気耐えきれないと言わんばかりにフェルはすぐに逃げようとしたけどネアの言葉に足を止めた。
「失礼なやつだな! 俺はいつも真面目に仕事をしてるんだぞ!?」
「どうせ猫みたいに〜街中ぶらぶらするだけでしょう〜?」
「あれ? 今朝アンナに同じ事を言われたような……」
確かに言われたな!
フェル「なぁ、レイア、猫みたいに言われたんだけど、どう思う?」
レイア「は? 自分は可愛いと言いたいの?」
フェル「いや、違うーー違うからな! その視線やめてくれ!」
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