10。それはないと言ったではありませんか?
2021年4月3日 マイナー編集
2022年1月30日 編集
2025年3月2日 視点変更(物語に影響なし)
「|はへ、おはへはほほほはは《さて、お前らのことだが》……」
「あ、あの……」
ドライアードとフェルのやりとりを見ているルーガンたちは戦う気が完全に失ってしまい、構いを解いた。
「?」
「すみません、何を言っているのかさっぱりわかりません」
仲間たちの気持ちを代表してルーガンは遠慮気味で言った。
現在フェルの頬は腫れている。抱えていたドライアードが暴れて、殴ったのだ……。
「……やりすぎました、申し訳ありません」
どうするんだ? とフェルは隣にいる彼女に視線をやると、彼女は申し訳なさそうな顔で言ってフェルの両頬に手をやる。
すると彼女の両手は発光し、光が消えた時にはフェルの晴れている両頬は既に治った。
「ふぅー、結構痛かったわぁ」
「自業自得です。それより、王ーー」
「分かってるって、そう焦るな」
やっと普通に喋れると頬を摩りながらフェルはルーガン達に言った。
「拠点まで飛ばしてやるから動くなよ。ドライアード、魔力を」
「ま、待って、飛ばすってどういうーー」
「黙りなさい。そこをじっとしなさい」
抗議しようとしたレイアを遮って、ドライアードは自分の魔力をフェルに流した。
「テレポート」
魔法が唱えられた一瞬、全員の姿は洞窟から消えた。
「う、うそ……て、転移魔法……!」
視界に映っている光景が突然ここ二日間自分たちが過ごしている、小屋がある開けた場所に変わった事に驚いてネアは呟いた。
「っ! あ、あんた何者!?」
我に返った彼女の顔色は悪くなって、この突然の変化の原因であるフェルに問うた。
「はぁー……だから質問してるのがこっちだって。まあただの旅人だ」
さっきから自分の言っている事全然聞いていないルーガンたちに呆れて、フェルはやや諦め気味で答えた。
「我々の王として選ばれたあなた様はただの旅人ではありません」
「ちょっと黙ろうか」
自分はあくまで旅人だとフェルは主張したくて言ったつもりだったけど、ドライアードによってその試みは無駄に終えた。
「そ、そう! そこよ! さっきからコイツに〝王〟と呼ばれてるのよ!?」
「むっ!〝コイツ〟とはなんだ!? ワレはーー」
「だ、大精霊ドライアード様、私たちはーー」
「あなたに名前呼ばれる筋合いはない」
「っ!」
ここでレイアはやっと我に返って突然ドライアードの前に跪いた。
緊張して何か言おうとした彼女はドライアードの言葉に遮られて、ショックを受けた。
「ま、まあまあそう言うなって」
このままだと何も変わらないし、話が進まないからフェルはドライアードを宥めた。
「ですが……! わかりました……」
ちょっと抵抗されたけどな。
「とりあえず俺の質問を答えてもらおうか? その後お前らの質問を答えよう」
「……いいでしょう」
そしてここでルーガンがやっと復活した。彼は今回の依頼においてレイアたちの代表だからフェルとしては彼と話したい。
「まずあそこで何をしてた? 言っておくが嘘は無駄だぞ」
「……依頼を完遂しようとしていただけです」
「ふむ、依頼の内容は?」
「……聖剣フォレティアの回収です」
「やはりか……依頼主は?」
「……すみませんが教えられません。これでも探検者です」
ルーガンもフェルに色々訊きたいから質問を素直に答えるけど、それでも探検者としてのプライドがある。
(守秘義務か……やるか)
バカと真面目のラインはたまに近いなぁ、と自分が置かれている状況を理解していないルーガンにフェルは呆れて、ファイラボールを発動する。
「っ……! こればかりは譲れません」
最初に比べて魔法のコントロールがだいぶマシになったから、フェルが発動したファイラボールの形は安定してサイズが尋常じゃない!
そんなファイラボールの前にルーガンは一瞬動揺の表情を見せたけど、探検者としての芯が強くて答えを変えない。
フェルが視線を動かすと他の二人はただ目を閉じて俯いている。
(プライド、か……)
仕方ないと思った彼は右手を挙げた後、下ろした!
「そうか、ならいいや」
「お、王!」
その動作で彼が発動したファイアボールは消えて、それを見たドライアードが抗議した。
「いいんだ。俺が責任取るから任せてくれないかな?」
「わ、わかりました。しっかり対応してください」
笑顔であしらわれたからドライアードは赤面になってそっぽ向けた。
「んで、あの剣の事なんだが……誰に依頼されたかはどうでもいいことにして、あの剣が回収された場合のリスクを知った上で依頼を受けたのか?」
「リスク、ですか……?」
「ああ。あの剣を回収したい理由は依頼主から聞いた?」
「言えません……ただ言えるのは世界のためです」
「ふん! バカかあなた達は?」
「ドライアードさんや、そんなのいいって。落ち着けよ」
どんだけ短気なんだよ? とフェルは内心で思った後、話を続ける。
「あのなぁ、世界のためか何なのかしらんがこの森、そしてコイツの住む場所を無くすのは見過ごせないんだよ」
「無くす? 何いってるの?」
ネアの質問にフェルは溜め息を吐く。
「あの剣はなぁ、この森の心臓みたいなもんだよ。もし剣が回収されたらこの森は消える。そうしたらこの森に生息してる生き物はどうなる?」
幻想の森にある木々そして果実は剣の魔力から作られたものだ。しかし中に潜んでる生き物はそうじゃない。
住む場所がなくなったら森にいる生き物たちはただ黙ってそれを受け入れるわけがなく、必ず暴れ出して次の住める場所を探すのだ。
「え? そ、それは聞いてない!」
「だろうな……」
説明を聞いたネアは驚いて、ルーガンは険しい表示、レイアは何か考えている表情を見せた。
三人の表情を見たフェルは確信した、この三人は自分たちが何をしようとしていたのか分かっていない、と。
「こ、根拠は? あるの?」
「ない。強いて言えば洞窟の中に光ってる緑色の線があっただろう? それらは剣に生み出された物で、この森の血管みたいな物だ」
それに、とフェルはドライアードに視線を投げて、さらに続ける。
「コイツからの知識だ、嘘なんて考え難い。嘘をついた理由はないからな」
「当然です。あなた様に嘘なんてとんでもありません」
「だそうだ」
肩をすくめたフェルは三人に視線を戻す。
「周辺の町と村を絶滅させてまでそんなに世界の英雄になりたいのか?」
そんな強い言葉に三人は俯いて、何も言えなくなった。
「まあ、俺からは以上だ。次はそっちの番だな」
約束通り、フェルはルーガンたちに質問する機会を与える。
「……では、あなたは何者ですか?」
「ただの旅人だよ」
またそれか? とフェルはルーガンからの質問にうんざりしながら答えた。
「王よ、それはないと言ったではありませんか?」
「俺がそう思うからそうだよ。後であっちに行くからお前ちょっと黙ってろ」
「……わかりました」
ドライアードが話に加わるとややこしくなるからフェルはさっきまで隣にいる彼女に一歩下がってもらった。
「大精霊に〝王〟と呼ばれてる理由は?」
レイアは真剣な顔で訊いた。
「ん? んん〜なんでだろう?」
これについてフェルもわからないのだ。ドライアードに出会った日からずっとそう呼ばれている。
「話したくないみたいだ。んで、まだあるか?」
本人に答えて貰うのつもりだったけど、視線をやったらその本人が顔を背けた。
「あんた、どこで転移魔法を学んだの?」
そして次の質問はネアが出したけど、この世界の魔法使いは基本誰かの下で学んで、一人の魔法使いになるのだ。自分もそうであるようにフェルもそうじゃないかとネアは考えていた。
しかしそんな常識がないフェルはこの質問にちょっと違和感を感じて、答えた。
「いや? 編み出したんだけど?」
「え? うそ〜!?」
「いやいや、本当だって」
魔法は自分自身が編み出すものだろう、とフェルは答えに加えたけどネアはますます驚愕して何も言えなくなった。
「ほかには?」
「……一ヶ月前からこの森にいますよね? もしかしてここ最近森から聞こえている爆発音はーー」
「あ、ああ、それは俺だ。前に隠してすまん」
数日前に言わなかったけど別に隠す必要はもうないからフェルは正直に言った。
「じゃ、じゃぁ、あの夜精霊たちが怯えてたのももしかしてーー」
今も跪いているレイアはその灰色の瞳でフェルを見て、最初に会った時の自分が見た現象について訊こうとしたらドライアードに遮られた。
「お、王! まさかまたちび達を脅かしたのですか!?」
「い、いやぁ、わざとじゃなかったんだよ!?」
またどやされると恐れたフェルは弁明して、このままボロが出そうだからすぐに話を締めた。
「と、とにかく、質問はもうないよな? よし! ミシーまで飛ばしてやるから動くなよ?」
「ちょっと、王! また無視する気ですか!?」
「わかってるって! ほら、後で一緒に精霊界に行くからさっさと魔力を貸せ」
「むっ! わかりました……約束ですよ」
精霊界に一緒に行ってあげるだけでフェルの指示に従ったドライアードはチョロいと思うかもしれないけど……その通りである。
「ま、待って! まさかーー」
「じゃあな! またどこかで!」
二人の会話の中にとある単語に引っ掛かったレイアは思わず立ち上がってフェルに問いただそうとする時、彼の魔法はすでに発動された。
「お願い! まっーー」
短い銀髪の少女は最後まで言葉を続けなくて、その場からいなくなった。
「……よかったのですか、王?」
「いいんだよ。説明が面倒くさい、だろう?」
苦笑して、フェルは空を見上げる。
「そうですね」
「……だからいいんだ。ほら、行くぞ」
「はい」
深呼吸した後、フェルは隣にいるドライアードを促して二人で森の奥へ進んだ。
そして開けた場所には小屋しか残されなかった。
ドライアード「王、先程ちび達を脅かす事何ですがーー」
フェル「え? 何の事かな〜?」
ドライアード「……ちび達に訊きますね」
フェル「ま、待って! 俺が悪かったから!」
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