1。くっそぉ爺ぃ! ヘッドライトつけろよぉ!
2021年2月19日 マイナー編集
2021年2月20日 マイナー編集
2025年2月17日 視点変更(物語に影響なし)
ピーピーピー! と遠くに鳴いている鳥の囀りに全然気が取られなく、男はただ空を仰いでいる。
(まいったな……)
左右には木々、仰いでいるのは雲一つもない青空、そして周囲は様々な虫の声がはっきりと彼の耳に入っている。
(……ちょっと怖くなってきた)
男は鳥より虫の鳴き声の方が気にしている。
人間は知識があるからこそ色んな事や物に対して恐怖心を持っているのだ。
例えば昔の映画には黒くてしぶといカサカサッ! と動き回る頭にアンテナ二本持っているあの虫が人の口にーーコホン! ともかく、そのシーンを見た人の中にはその虫に対して苦手意識が生まれる可能性があるのだ。
無意識にだけど。
それで男の事だが……平和な日本に住んで色んな知識もあって虫に苦手意識もあるのだ。
彼は周囲を見て身震いした。
当然だ。彼は今森の中にいるからだ。この森の中にどんな虫、動物がいるか分からないから男は不安で仕方がない。
(やっぱちょっと違うな。なんか、一〇年前の自分を見てる気分だ)
そして男にとって一番気にしているのは自分の顔である。空を見上げるのをやめた彼は近くの川に自分の顔を見て、首を傾げた。
男は現在二七歳なのだ。人によってだけど、二〇代後半に皺がない人がいればある人もいる。そして男は後半の人で、その皺が今川に映っている顔にはない。
(夢ーーじゃないな)
若返る夢の話聞いた事あるだろう? 多分経験した事もある。男も自分が夢見ていると思って頬や腕を抓ったけど、痛みはすごくリアルに感じたからその可能性は低いと思い直した。
(昨日のみ過ぎたか……? いゆ、そんな事なーー昨日飲んだっけ?)
酔って自分がどこかの森に入った、という可能性も考えたけど、アルコル耐性に自信がある彼はすぐその可能性も捨てて、昨日のことに振り返し始めた。
△
「お疲れ様でーす」
「おう、気をつけろよ」
同僚に自分が先に上がると挨拶した後、男はバイクで職場を後にした。
ここはこの数ヶ月間彼が通っている職場だ。都会からちょっと離れて土地はまだ殆ど開拓されていない田舎である。
男の仕事は土地開拓関連の設計図を作る事。そして彼が働いている会社はこの土地の開拓に委託された。大きなプロジェクトだけあって全会社員は普段より誠意を見せなきゃいけないから、こうして彼は遅い時間で職場を出たのだ。
(着いたら風呂入って寝よう)
明日にクライアントと打ち合わせする予定だしな、と男は運転しながら考えていて、そのせいで前にあまり集中していない彼は気付いていなかったのだ。
前方に老人がいる事に。
「っ!」
気付いた時すでに遅かった。
男は慌ててブレーキを踏んで老人を避けるために急曲がるした。しかしスピード出しすぎたせいで男は逆にコントロールを失ってしまって上空に飛ばされたのだ!
落下している時、一瞬恐怖に染まった老人の顔が視界に入って、それに対して男はーー
「くっそぉ爺ぃ! ヘッドライトつけろよぉ!」
理不尽な事を叫んでいる……。
老人「歳上にもっと敬意を払えないかのぅ?」
男「……すみませんでした」
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